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第三話 決意


 ガゼット皇国の船団を退け、私はイルティミナと一緒に怪我人の治療を船に設けられた救護室で行っていた。


 魔法で火傷を負った者や白兵戦で斬られた者も居る。傷を負った者の中には腕が切断された者や、臓器がはみ出している者もいる。

 救護室には血の匂いが充満している。


 私はその生々しい惨状を見て吐き気を催すが、必死に吐くのを堪えながら治療をした。


 治療を終えると、外は暗くなっていた。


 私は甲板から海を覗き、吐いた。


 救護室に運ばれた者の中には、治療が間に合わずに死んだ者も居た。


 戦場で斬られた兵士が海に落ちる光景も見た。 


 それでもヨルバウム帝国軍の被害は軽微だった。


 敵であるガゼット皇国の方が被害は甚大だろう。


 ガゼット皇国の死者や怪我人を想像してまた吐く。吐く物などもう無いのに吐き気が止まらない。


 私は人を殺すのに加担した。今回私は攻撃魔法を一回も放てなかった。殺すのが怖かったからだ。


 それでも殺しに関わったのは間違いない。


 「ステラ、顔が青白いよ。大丈夫かい?」


 ルートヴィヒが心配して私の顔を覗き込む。


 ルートヴィヒは白兵戦で敵船を五隻無力化したらしい。


 沢山の人を殺したのは間違いない。


 チェルシーも最上級魔法で多くの敵兵を殺した。


 なのに二人とも私と違って辛さを表に出さない。


 ルートヴィヒは優しい。それを知っているからこそ、ルートヴィヒが冷酷に人を殺せるとは思えない。辛かった筈だ。


 私が攻撃魔法を放たなかった分、チェルシーやルートヴィヒが殺した。他の味方の兵士が私の代わりに殺した。


 もしも私が攻撃魔法を放っていれば、味方の被害は更に抑えられたかもしれない。


 「お兄ちゃん!! ごめん、ごめんね。私は怖くて殺せなかった。お兄ちゃんやチェルシー、他の味方が必死に戦っている中、私は怯えて防御魔法を展開する事しか出来なかった。私は何も出来なかった」


 私はルートヴィヒの目を見るのが怖くて俯いてしまう。


 そんな私をルートヴィヒは優しく抱きしめ、頭を撫でてくれる。


 「ステラ。ステラは防御魔法で僕達を守ってくれた。それがなければ敵船には近づけずに戦いはもっと膠着しただろう。それにステラの回復魔法で救われた人達は大勢居る。ステラは出来る事をしたんだ」


 ルートヴィヒの言葉で私の心は軽くなった。いつもそうだ。ルートヴィヒに抱きしめられ頭を撫でられると、落ち着くし、不思議と力が漲る。


 「···お兄ちゃん、ありがとう」


 ルートヴィヒの顔を見るといつもの優しい笑顔を私に向けていた。



 

 三日後、ヨルバウム帝国船団は一部を戦闘があった海域に残して北港街チェスタに戻って来た。


 船を降りると、衛生兵の格好をしたローナが抱きついてくる。


 「ステラ、無事で良かった!」


 ローナのその言葉で涙が溢れ出す。


 私は泣きながらローナに抱きつく。


 私が泣き止むまでローナは何も聞かずに抱きしめてくれた。


 北港街チェスタに戻った私達は、チェスタの領主――ミーハ·ペルグラ子爵の邸宅で、司令官や幕僚達との話し合いに立ち会っていた。


 私やチェルシー、ルートヴィヒはイルティミナの後ろに控えている。

 イルティミナには例の紫色の薬の事は伝えていた。

 それを司令官達に伝えてもらった。


 「なるほどドーピング薬か。確かにそれならば敵兵士の異常な強さにも納得がいく。貴重な情報だ。だが副作用がなくなったか。···厄介だな」


 北の軍の司令官のエルバトス·ギャンド将軍は顎髭を触りながら眉間に皺を寄せる。


 「確かに厄介ですな。ですが、今回の戦いでは弓王の相手を大賢者様が引き受けてくれたおかげで随分と敵に被害を与えられました」


 幕僚の一人の言葉にエルバトス将軍が頷く。


 「ああ。イルティミナ殿のおかげなのは間違いない。だが、イルティミナ殿の弟子達にも随分助けられた。チェルシー殿の魔法で敵に隙ができ、ルートヴィヒ殿は白兵戦で活躍し、あの狂牙キルハと互角に打ち合ったと聞いた。ステラ殿は街の負傷兵のみならず、船の負傷兵まで治療してくれた。この度はご助力感謝する」


 エルバトス将軍が頭を下げると幕僚達も私達に向かって頭を下げる。


 「あたし達は出来る事をしただけべさ。頭を上げるべさ。それよりも敵は恐らく体勢を立て直して再び攻め込んでくるべさよ」


 「ああ。だから船の整備が終わり次第再びあの海域に戻り、次は攻め込む意欲をなくす程に敵船団に被害を与えなければいけない」


 「言うのは簡単だけど、それはなかなか骨が折れるべさよ」


 「分かっているが、そうしなければ東の戦いに応援を送ることも出来ん。そろそろこの状況を打開しなければならん」

 

 エルバトス将軍とイルティミナの会話で私の手に力が入る。


 そうだ。次の戦いでは私も攻撃に参加しなければ。でないと味方の被害が増えてしまう。



 話し合いが終わり、領主の館を出るとルートヴィヒが話しかけてきた。


 「ステラ。今度の戦い、チェスタの街に残っていてもいいんだよ」


 ルートヴィヒは私の心を見透かしたように優しい言葉をくれる。


 やっぱり人を殺すのは嫌だ。ローナと同じ衛生兵としてチェスタの街に残る事も考えた。


 でも私は敵を倒せるだけの力がある。なのに怖いからという理由でイルティミナやチェルシー、ルートヴィヒに任せて安全な場所で一人居る事はできない。


 みんなだって殺すのは嫌なのだ。でも自分の大切な人を守る為に戦っている。


 だから私も戦う。私の居ない所でルートヴィヒやチェルシー、イルティミナにもしもの事があれば、きっと後悔するから。


 私は軍船に乗り込み、再び戦場へと向かう決意をした。

  

 

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