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第二話 海上戦①


 ガゼット皇国の船団から無数の魔法が放たれる。


 私達ヨルバウム帝国の魔術士達は攻撃魔法で迎撃したり、防御魔法を展開したりして味方の船の進行を補助する。


 ヨルバウム船団を近づけまいと、数え切れない程の黒き矢が敵船団の奥から放たれた。


 だが、イルティミナが空に舞い上がり、闇属性の最上級魔法ダークネススフィアを同時に三つも無詠唱で出して、黒き矢の雨を吸い込んでいく。


 す、凄い。あの数の矢を全て防いでみせた。

 空中に浮いているイルティミナは矢が放たれた敵船団の奥に向かって赤き閃光を放つ。


 その赤き閃光を黒き矢が穿ち相殺される。

 赤き閃光と黒き矢のぶつかりで大気が揺れる。


 それにしても敵魔術士達の魔法の威力が強すぎる。私とマルタ、チェルシーが防いでいるのでなんとかなっているけど、明らかにおかしい。


 敵魔術士達や敵兵士達を目を凝らして見てみると、目が赤く染まり、肌が赤黒く変色している。


 例の紫色の薬の症状だ。


 薬でドーピングしているから魔法の威力が高かったのか。だけど、あの薬は使用者を廃人にする副作用があった筈。でも敵魔術士達や兵士達は様子が変わらないままだ。まさか副作用がないのか?


 東の戦いでなぜミュルベルト王国の砦が奪われ、ヨルバウム帝国軍が敗走したか分かった。恐らく連合の兵士達もドーピングしていたのだろう。

 じゃないと戦力では圧倒的に有利だったこちらが負ける理由が見つからない。


 しかし、わかった所で何の解決策も無い。


 私やチェルシーならそこらの魔術士達がドーピングしたからといって負けはしないだろう。


 一発でかいのを敵船団に打ち込むか? ···私は火属性と聖属性の最上級攻撃魔法を使えるようになっている。


 使えば敵に大きな被害を与える事が出来るだろう。でも怖いのだ。私の魔法で大勢の命が消えるのが。


 私が悩んでいる間にチェルシーが聖属性最上級魔法レヴァンティンを敵船団に向けて放つ。世界魔法学院大会の試合では死なない程度に威力を調節してたみたいだけど、手加減なしの全力全開で放たれたレヴァンティンは敵船数隻を沈め、大きな隙を作った。


 その隙を突いて敵船団にヨルバウム帝国の船が接触する。


 味方兵士達が敵船団に飛び乗り敵兵と白兵戦に突入した。


 ルートヴィヒもあの中に居るのだろう。


 ルートヴィヒなら大丈夫だと信じ、今は敵の魔法を防ぐのに集中しよう。



            ◆◆◆


 チェルシーが放ったレヴァンティンで隙ができた敵船に乗り込み、敵兵士と戦っている。

 敵兵士達は皆赤い目に赤黒く変色した肌をしている。例の紫色の薬を飲んでいるみたいだ。


 そのせいで身体能力も向上しているのか味方兵士が押されている。


 味方の士気を上げなきゃ。


 僕は身体と剣に聖属性上級魔法セイクリッドレイを無詠唱でエンチャントする。


 光迅化した僕のスピードについていけない敵兵士達を斬り殺していく。

 殺す事に抵抗が無いわけじゃない。でもステラに敵の剣が向かうくらいなら殺す方がましだ。


 心を殺して敵兵士を殺しては別の敵船に乗り移りまた殺していく。

 

 殺した数は分からないけど、敵船を四隻は沈めた。


 同じ様に五隻目に乗り込んだけど、乗り込んだ瞬間にとんでもない殺気を感じ、その場から退く。


 退いた場所に鋭い斬撃が放たれ、剣圧で船に大きな切り傷ができる。


 殺意を向けた張本人に目をやると、オレンジ色の髪をポニーテールにした少女が大剣を構えていた。


 「へぇ、今のを躱すのか。敵にも中々手強い奴がいるじゃん?」


 オレンジ色の髪の少女は嬉しそうに犬歯を剥き出しにして笑う。


 「あんたのその構え、光迅流の剣士だろ?」


 大剣で僕に斬撃を放ちながら問うてくる。


 「ええ。そうですが、あなたはもしかして豪斬流の剣士ですか?」


 「ああ、そうさ。豪斬流免許皆伝者キルハ·ブランドンとは私の事よ!!」

 

 大の男でも持てなさそうな大剣を軽々と振り下ろすキルハ。


 豪斬流と言えば、剣の四大流派の一つで、ガゼット皇国でメジャーな剣術だ。


 「僕は光迅流免許皆伝、ルートヴィヒと言います」


 僕の名乗りでキルハの目がぎらつく。


 「へぇ、光迅流の免許皆伝者と戦えるなんてついてるねぇ」


 大剣から繰り出された横薙の一撃を躱し、反撃するが、エンチャントしている僕の攻撃が視えているみたいでやすやすと躱す。


 この剣と打ち合えば僕の剣は簡単に折れるだろう。


 だから全力で躱し、後ろに回り込み、斬ろうとするけど、見切られる。


 強い。シジマ流免許皆伝者ナギさんも強かったが、この少女はまた別の強さを持っている。

 今まで戦った人間で似ている人を挙げるならば、マドランガ共和国のラダンさんと戦い方が似ている。


 だがラダンさんより目と反射神経がとてつもなく良い。


 決まったと思った一撃を躱される。


 大剣なのに隙もない。


 さてどう戦うか。


 戦法を考えていると、帆の先端に人影が現れる。


 「狂牙、引き時だ」


 渋い男の声にキルハは顔を顰める。


 「おいおい、これからが楽しい所なのに邪魔すんなよ! 弓王!!」


 「これは命令だ、狂牙」


 帆の先端に立っている男が弓王!?

 弓王は有無を言わせない威圧感を放っている。


 「···ちっ、わかったよ退けばいいんだろう、退けば」


 渋々といった感じでキルハから殺意が消える。


 「ということで私は退かせてもらうわ。じゃあまたな!!」


 キルハが大剣を船にぶつける。


  衝撃で船が割れた。

 

 慌てて味方の船に乗り移る。


 振り返るが、既に弓王とキルハの姿はない。

 先程まで居た敵船は真っ二つに割れ沈んでいく。


 逃げられたキルハと弓王の事を考えていると、上空からイルティミナ先生が降りてきた。


 「···弓王達は退いたみたいべさね」


 「ええ。逃げられた、いえ、逃してもらえたみたいです」

 

 もしあのまま弓王とキルハと戦っていたら間違いなく死んでいただろう。

 それだけの覇気を弓王から感じた。


 だがとりあえず敵は退けられた。


 良かった事にしよう。

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