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第九話 強者


 世界魔法学院大会前日。


 闘技場で一瞬だけ見たステラに似た女の子の事が頭の片隅にありながらも大会に向けて練習を積み重ねていった。


 やれるだけの事はやったのだ。


 今日は明日から始まる世界魔法学院大会の健闘を願っての食事会を宿の女将さんに聞いた食事処天の恵亭で開いている。


 天の恵亭は人気な食事処みたいで満席状態でとても賑わっている。

 運び込まれた料理もボリュームがあってなおかつとても美味い。


 料理に舌鼓を打ちながら談笑していると、なにやら奥の席が騒がしい。


 「や、やめてください。こ、困ります」


 「別にお酌をするぐらいいいじゃねぇか! おら、来いよ!」

 

 酔ったガラの悪い客が嫌がるウエイトレスの腕を掴んでいる。


 これは見過ごせないと立つと、同時に隣の席の男性も席を立った。


 隣の席の茶髪の男性も僕と同じ考えらしく、ウエイトレスを掴んでいる男の所へ向かう。


 「その手を離せ! 嫌がっているじゃないか!!」


 茶髪の男性がウエイトレスを掴んでいる手を叩き解く。


 ウエイトレスは茶髪の男性に頭を下げながら厨房へと下がっていく。


 ウエイトレスに逃げられた酔っぱらいは茶髪の男性と僕を睨む。


 「ガキ共、何の真似だ? ウエイトレスに逃げられたじゃねぇか!!」


 「嫌がる女性を放っておけない質でして」


 「おっさん酔い過ぎだぜ。頭を冷やした方がいい」


 「うるせぇ!! 喧嘩売ってんのか!?」


 茶髪の男性の胸ぐらを掴む酔っぱらい。


 「別に喧嘩するのはいいけどよ、ここじゃ店の迷惑になる。表でやろうぜ」


 「うるせぇ!!」


 酔っぱらいが茶髪の男性に殴りかかるが、いとも簡単に躱す。


 躱されて勢い余って床に倒れる酔っぱらい。


 「このやろう!!」


 酔っぱらいの仲間五人が席を立ち茶髪の男性を殴りかかろうとするけど、そうはいかない。

 

 茶髪男性の後ろから殴ろうとした酔っぱらいの仲間その一の顎に掌底を当てて気絶させる。

 

 酔っぱらいの仲間その二が僕に向けてイスを振りかぶるけど、躱して腹に掌底を打ち込む。


 その間に酔っぱらいの仲間その三、その四、その五は茶髪の男性にやられたようだ。


 倒した六人を外に出す。お騒がせした事を茶髪の男性と一緒に店主や他のお客さんに謝ると店内から拍手があがった。


 「お前中々やるな? 名前は?」


 「ルートヴィヒです。あなたは?」


 「俺はラダン」


 茶髪の男性はラダンさんというみたいだ。


 その後、隣の席のラダンさんとその仲間と談笑しながら食事会を楽しんだ。


 天の恵亭を出てラダンさん達と別れて、僕達六人は宿へと戻ろうとするけど、後ろから尾行している奴らが居る。



 「すみませんが先に宿へと帰っていて下さい。僕にお客さんのようです」


 「一人で大丈夫か? なんなら俺も」


 「ありがとうセシル。でも一人で大丈夫ですよ」


 セシルが助太刀を買って出てくれようとしたけど、一人で大丈夫だろうから五人を先に宿へと帰し、人通りの少ない所へ向かう。

 ここなら人も居ない。多少暴れても問題ないだろう。


 「そろそろ出てきたらどうです?」


 後方に声をかけると、ゾロゾロとガラの悪い連中が出てくる。

 全部で十五人程か。

 敵の数を数えていると、見覚えのある奴が声をかけてくる。


 「さっきはよくもやってくれたな」


 天の恵亭でウエイトレスに絡んでいた酔っぱらいだ。


 やはり先程の仕返しに来たみたいだ。


 でもこの程度の奴らなら何も問題ない。


 さっさと片付けようとした時、ガラの悪い連中の後方から声が。


 「大人数で一人を取り囲むとは見過ごせません。助太刀させてもらいます」

 

 「誰だ、お前は!? ぎゃあああ!?」 


 暗くてよく見えないけど、声からして女性が助太刀してくれているらしい。


 ガラの悪い連中が後方に気を取られているうちに近付き、掌底を一人、また一人と打ち込んでいく。


 助太刀のおかげかあっという間に残るは酔っぱらいだけ。


 「ヒィィ!! もう二度と手は出さない。だから許してくれ!!」


 酔っぱらいが土下座する。もう酒は完全に抜けたみたいだ。


 「次こんな事があったら容赦しませんからね?」


 酔っぱらいは震えながら何回も頷く。


 「じゃあ今回は見逃してあげます」


 僕がそう言うと酔っぱらい達はよろめきながら去っていく。


 その場に残ったのは僕と助太刀してくれた女性だけ。


 女性にお礼を言おうと近付く。


 「助太刀ありがとうございました」


 女性に向かって頭を下げる。


 「いえいえ、どうやら助太刀はいらなかったみたいだし気にしないで下さい」


 頭を上げると、翡翠色の髪を団子状に纏めた灰色の瞳の女性が。


 「助けて頂いてそんな訳にはいきません。何かお礼をさせて下さい」


 「···それじゃあ道を教えて頂けませんか? 道に迷って気付いたらこの人気のない場所に居て」


 どうやら泊まっている宿へと帰りたいらしいのだが、帰り道を忘れてしまったらしい。幸い知っている宿だったので、宿まで送っていく事にした。


 「それにしても素晴らしい動きでした。腰に剣を差しているところを見ると剣士さんですか?」


 「ええ、そうです。そう言う貴女も腰に剣?を差しているみたいですが」


 「はい、私も剣士です。それとこれは刀という私の国の剣です」


 女性と話していると宿に着く。


 「ありがとうございました、助かりました」


 女性がぺこりと頭を下げる。


 「いえいえ、助けられたのはこちらなので。ではこれで」


 僕は会釈してその場を去る。


 帰り道、あの酔っぱらい達と戦っていた時の女性の動きを思い出す。


 間違いなく僕よりも強かった。年は僕より少し上ぐらい。同年代で僕よりも強い人を見たのは初めてだった。 


 ラダンさんも中々の強さだったし、世界は広いなぁと思いながら宿へと戻った。


 

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