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第十一話 ワイバーン


 王都に向かって出発する日がやって来た。


 王都に行くのは僕、ステラ、セシル、セシルの使用人のレベッカとダスマン。それから保護者兼護衛でシェイド。


 あと護衛の数が足りないので冒険者に護衛の依頼を出した。


 護衛してくれる冒険者は、『刹那の剣』というCランク冒険者パーティーだ。


 パーティーリーダー剣士のリタ、盾使いのライアン、弓使いのネーシャ、魔術士のメテノールの四人で構成されている。


 馬車二台での二週間の旅だ。

 

 キプロの街を出て東北に向かっていくつかの街や村を経由して進んでいくとヨルバウム帝国の王都シュライゼムに到着する。


 街道が整備されているので比較的安全に旅路を進む事が出来るが、それでも偶にモンスターや野盗の集団に遭遇する事もある。


 注意しながら進まなければ。


 

  

 王都を目指し始めて十日目。偶にモンスターは出たけど、護衛の刹那の剣だけで対処出来るレベルだった。


 問題は今日着いた町ボリスで起きた。


 町に入ると、何か様子がおかしい。どの町や村でもある程度の活気があった。でもこの町の人々の表情は暗い。


 答えは町の教会を通過しようとした時にわかった。


 教会が、やたら騒がしいのだ。


 馬車から降りて教会に向かってみると、中には無数の怪我人がイスや床に並べられていた。


 「これは? 何故こんなに怪我人が?」


 慌ただしく動いているシスターを呼び止め事情を聴く。


 なんでも町の近くの山にワイバーンの群れが巣を作ったらしい。

 前々から山から降りてきて住民に被害が出てたらしく、今回ワイバーン討伐隊を町の冒険者と戦える町民で結成して、討伐に向かったが返り討ちにあい、この状況だそうだ。これは放っておけない。


 「僕と妹が回復魔法使えます」


 「本当ですか!?」


 沈痛な面持ちのシスターの表情が明るくなる。


 「はい、なので怪我人の治療を手伝わせて下さい」


 「ぜひお願いします!!」


 この町には聖属性の魔法が使える人間が居なかったらしく、薬草をすり潰した傷薬で治療していた。


 僕とステラは怪我人に回復魔法を使っていく。骨折程度なら瞬時に治せるぐらいには回復魔法も上達したのでどんどん治していく。レベッカとダスマンも補助をしてくれる。


 ほとんどの人間が完治し、重体だった怪我人も安静にしておけば治るレベルにまで回復した。  


 三十人程をステラと二人で回復した。


 教会の神父とシスターに感謝され、教会をあとにする。


 

 馬車に乗り込もうとしてる中、ステラが足を止める。


 「怪我人は治せたけど問題の解決にはなっていないよね。放っておけばまた被害が出るし。だから私達でワイバーンの群れを倒さない?」

 

 そんな事を言い出した。



            ◆◆◆

 

 ――刹那の剣リーダーリタ視点。


 教会に居る怪我人をあっという間に治してしまったのは圧巻だった。しかも無償で治すとは、さすがキプロの街の聖人と聖女だと感心していた。


 だけど、神童兄妹の妹のステラの発言で空気が変わった。


 ワイバーンの群れを自分達で倒そうと言い出した。

 

 ワイバーンは一体でもBランク相当のモンスターだ。

 それが群れとなるとAランク以上の危険度を持つ。


 三十人の討伐隊が返り討ちにあったのだ。私達だけで討伐できる訳がない。


 当然、ステラの兄ルートヴィヒやセシル様、保護者のシェイドが止めると思っていた。

     

 「危険でしょうけどこのまま放っておけません」  


 「このまま素通りじゃ後味悪いしな」 


 「お前達は言い出したら聞かないからな。しょうがない。俺っちも付き合いますか。」


 と言い出した。レベッカとダスマンも頷いている。

 

 はぁ!? 何を考えているんだ!?


 「ちょっと待ってくれ。ワイバーンは一体でBランクの危険度があるんだぞ。それが群れだ。三十人の討伐隊も返り討ちにあっているのに、私達だけで討伐に向かった所で無駄死にだ」  


 私はもちろん反対だ。こんな無謀を許してはいけない。

 

 「たぶんだけど、俺っち達ならなんとかなるよ」


 保護者兼護衛である筈のシェイドが軽く言う。


 「何の根拠があって言えるんだ。保護者兼護衛である立場なのに無責任ではないか!! 護衛を務めている身としては断固拒否させてもらう。それに仲間達をこんな無謀な事に関わらせるつもりはない!!」


 私の仲間も私の意見に賛成してくれる。そう、私は刹那の剣のリーダーだ。リーダーである以上勝ち目のない戦いに仲間を参加させる訳にはいかないのだ。


 「じゃあ私達で討伐に行くから、あなた達刹那の剣はここに残っていていいよ」


 ステラの発言に困ってしまう。


 「···私達は君達の護衛だ。危険だとわかっていて行かせるわけにはいかない」


 「私達は無理矢理にでも行くわよ」


 私達Cランクパーティーの実力でワイバーンの群れは無理だ。でも護衛としての責任がある。


 「···わかった。私達もついて行く。ただ命の危険を感じたら撤退するぞ、いいな!」


 これにステラ達も同意してワイバーンの群れがいる山に向かうことになった。


 私はすぐにでも引き返す事になるだろうと思っていたけど、結果は違った。


 山に入ると早速一体のワイバーンが向かってくる。


 私達刹那の剣が武器を構える間に、セシル様がワイバーンに肉薄する。


「光迅流三ノ型燐閃」


 気付いた時にはワイバーンの首が転がっていた。


 え? 今斬ったのか!? 速すぎて視えなかった。


 仲間をやられたワイバーン達が怒り、空から三体が急降下してくる。


 次はルートヴィヒが前に立つ。剣を握ったまま鞘から抜かない。


 「光迅流伍ノ型散迅華」


 ルートヴィヒに向かって来た三体のワイバーンが体中から血飛沫を上げ絶命する。何が起こったんだ!? もしかして剣を抜いたのか!?


 ワイバーン達は近付くのが危険と感じたのか、上空から火球を放ってくる。


 「ウォーターシールド!!」


 それをステラが短縮詠唱の水防御魔法で防ぐ。


 「アイシクルランス!!」


 続けて短縮詠唱の中級水魔法を同時に五つ展開し、空を飛んでいるワイバーン五体を貫く。


 あっという間に九体のワイバーンが地に墜ちた。


 残るは一体のワイバーンのみ。だが、他のワイバーンと違い赤くそして一回り大きい。

 

 恐らく上位個体だ。なら危険度はAランクあるかもしれない。


 その赤いワイバーンが私達目掛けて口を開けて突っ込んでくる。


 「ここは俺っちがやるよ」


 シェイドが剣を構えた瞬間その体が消えた。


 いつの間にか赤いワイバーンの後方に居る。


 「光迅流一ノ型疾風応用技六疾風(むつはやて)


 シェイドが剣を鞘に収めると同時に赤いワイバーンの身体が切り割かれた。


 い、今の一瞬で何回も斬ったのか!?


 あまりの事の速さに言葉を失う。まだワイバーンと戦い始めて十分も経っていない。


 にも関わらず十体のワイバーンを瞬く間に倒してしまった。


 引き止めていた自分がアホらしくなる。


 呆然とシェイド達を仲間と共に見つめているとシェイドに声をかけられる。


 「あんた確かアイテム袋持っていたよな? このワイバーン達入れられるか?」


 「あ、ああ。十体ぐらいなら入ると思うが」 


 「そうか。流石に十体のワイバーンを抱えて山は下りられないからな。助かるよ。やっぱりアイテム袋持ちは重宝するよな」

 

 シェイドに褒められ顔が赤くなってしまう。いや何故顔が赤くなってしまうのだ。


 

 ワイバーンをアイテム袋に入れてボリスの町へと戻って冒険者ギルドにワイバーン十体を持っていくとたいそう驚かれた。と同時に涙を流す程ギルド職員達は喜んでいた。


 ワイバーンは使える素材が沢山あるのでいい値段がつくだろう。

 更にワイバーン討伐の報奨金も貰えるのでステラ達は小金持ちになれるだろうと思っていると、十人で山分けする形でいいかと言われた。


 私達は何もしていないと報酬を辞退しようとした。

 

 でもステラが許さなかった。


 「私達の護衛として危ない所に付いてきてくれたじゃない。あとアイテム袋のおかげで売ることが出来たし、山分けで決まりよ」

 

 と言い、ステラが問答無用という感じで山分けする事になった。

 

 


 ギルドで嫌というほど感謝され、ギルドを出るとボリスの町の町長が涙を流しながらお礼を言ってきた。


 


 ボリスの町で一泊して、また馬車で旅路を進む。ボリスの町の住民総出の見送りで町を出た。



 今回の事件で思った事がある。


 Aランク以上の危険度のワイバーンとの戦いに苦もなく勝利したステラ達はAランク冒険者以上の力を持っているのは間違いない。


 そんな彼女等を私達刹那の剣は護衛しなくてもよかったのではと。


 あとシェイドを見ると何故か心臓がドキドキする。病気だろうか?


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