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時効警察が面白かったという話

作者: セルロイド

 真夏の殺人的な暑さが続く今日このごろ。

 みなさまは健やかにお過ごしでしょうか。

 私は駄目です。


 通年ならば、お盆の時期になると海風が涼しい北方の地元に帰省しているのですが、今年はコロナウイルス対策のため、六畳一間のアパートにひとり取り残されてしまいました。

 ですので、今年の連休は週休0分で働く奴隷(エアコン)を友に、優雅で怠惰な自主監禁生活を送っております。



 そんなこんなの事情により、引きこもり生活を余儀なくされた私はアマプラにあるアニメを漁りまくり、168時間ぶんの暇をゴリゴリ潰しておりました。

 プリコネとか。ゆるキャンとか。ハクミコとか。アビスとか。

 とにかく癒しが欲しかったので、かわいらしい女の子がキャッキャするかわいらしい作品をメインに視聴してたんです。


 それで、アニメはだいたい見終わったので、次はどーしよっかなーって悩みながら日本のドラマ欄を眺めていました。

 寝転がりながらスマホを天井に向けて。

 Bluetoothのイヤホンを両耳に装着して。


 スマホは楽で良いですよね。

 寝ながら動画を観るという、この上ない贅沢が出来る。


 ですが、スマホの一覧ページからだとサムネしか見れない、という欠点もあります。

 あらすじとか、評価とか、レビューとかが分からないのですよね、スマホだと。


 だから、どれを観るかはサムネとタイトルから受けるフィーリングが全て。

 スマホの動画一覧画面は外見至上主義の極地です。



 やっぱり、みんな凝ってるんですよ。サムネ。

 画像一枚でドラマの特徴を伝えないといけないから、アピールに必死です。

 カッコいい太字のタイトルをどーんって出してみたり。

 特徴的な小物を随所にちりばめてみたり。

 出演者をずらりと並べてみたり。

 釣り糸を垂らして視聴者をおびき寄せています。


 特にタイトルは重要のようです。

 文字の外縁を枠線で囲ったり、背景とは反対の色にするなど、より目立つよう、様々に工夫されています。



 で、そんな中にありました。

「時効警察」

 もう、サムネからして凄い。

 コーラル色の地味な背景に、警官姿の男女がぽつんとこちらを見ている。

 それだけ。

 下に書かれている文字も細くてふにゃっとしている。

 極めつけは時効の「効」の文字。

 色が背景色と似ているので、半ば背景と同化してしまっている。

 とぼけきっていて、「俺を見てくれッ!! 」って欲が全く感じられない。



 一目惚れしました。



 サスペンスドラマだと思っていたんですよ。最初。

 時効になった事件を調査するのだから、それだけ難解で、重苦しい事件を扱うのだろうと。

 僅かな手がかりをもとに事件の真犯人を暴いて、時効に守られた犯人を主人公が法の代わりに裁くのだろう、と。


 全然違いましたね。

 コメディでした。


 黒板の十文字に正の字が書き加えられる……その瞬間、私の空想にあった時効警察は木っ端微塵になりました。

 その後も矢継ぎ早に繰り出されるネタの数々。

 時効警察にシリアスな印象を抱いていたことすら、もはや笑えます。



 話の筋は簡単です。

 時効になった事件を主人公が調査して、様々な手がかりから事件の真実を突き止め、それを真犯人に突きつける。

 よくある話です。

 刑事ドラマのテンプレと言ってもいい。


 そして、この時効警察というドラマ、話の筋以外がとんでもなくヤバいのです。

 端的に言うと狂ってます。


 主人公の霧山が変人というのは、まあ、分かります。

 刑事ドラマや推理ドラマの主人公は大抵変人ですからね。

 というか源流のミステリからして変人だらけ。

 常識人のワトソン役がそうした彼らをなだめすかしたり焚きつけたりしてサポートする。

 同僚やモブも常識的で、変人の主人公を訝しんだり、驚いたりする。

 それが普通のキャスティングです。


 で、時効警察の登場人物。

 全員変人です。

 モブすら壊れてます。


 おかげで主人公の変人具合が問題になりません。

 奇妙なぬいぐるみを持参していたり、推理を披露するとき無駄に眼鏡を外したり、彼なりに色々やっているのですが、彼の周りはそれ以上に変テコなので、誰からもツッコまれない。

 どころか、白昼夢のような展開が辻斬りのように発生してはツンと澄まして通り過ぎてゆく。

 恐ろしいことに、時効警察にはツッコミ役が居ないのです。



 私は感動しました。

 これまで私が見てきた、たくさんのコント、コメディ、ギャグ漫画などから培われた、「ギャグにはツッコミが必要だ」という常識は、ただの固定概念だったのです。

 ギャグにはツッコミなんて要らなかったのです!!!



 その、ツッコミ不在のギャグ空間が超極端に描かれたのが、6話の遊園地のシーン。

 主人公の霧山が同僚の十文字と携帯電話でやりとりをする場面です。



 おおまかな舞台設定はこんな感じです。

 時効事件を追うのがイヤになっちゃって旅に出た霧山と、時効間際の事件を追う十文字。

 指名手配書の手がかりから、彼らは事件の犯人に気付きます。

 そして、霧山は旅先から犯人を伝えようと、携帯電話を使って十文字へとコンタクトを取る……


 のですが、何故か、霧山は次のシーンでは十文字のすぐ近くに居ます。

 登場人物の瞬間移動は時効警察ではよくあることなので放っておくとして、凄まじいのがこの直後の遊園地でのやりとり。

 芸術的です。


 霧山と十文字は互いに声が聞こえる距離にいて、姿も見えている。

 霧山なんて、パンダの遊具で十文字の前を行ったり来たりしている。

 2人はもはや隣同士と言えるほどの距離にいます。


 なのに、彼らはずっと携帯電話越しに話し続けている。


 この時の画面が凄かった。

 普通、電話のシーンをドラマで撮る時は、相手は声だけ聞こえて、顔は見えないじゃないですか。

 当然ですよね。別の場所に居るのだから。

 だから、そもそも画面に映しようがない。


 でも、この時は違う。

 霧山と十文字は同じ場所に居る。

 同じ場所に居て、携帯電話でやりとりをしている。

 だから、分かるんですよ。

 霧山に怒鳴られて十文字がしょげる様子とか、檄を入れられて吹っ切れる様子とか。

 全部見えるんです。

 そして、彼らは最後まで互いのことに気付かず、携帯電話で話すだけ話した後、別々に遊園地を去っていく。

 

 ものっすごくクールだと思いませんか!?


 シーンはただのギャグ。

 でも、2人が置かれたシチュエーションは超シリアスなんです。

 霧山は時効を過ぎた犯人を追い詰めるのがイヤになった。だから、十文字には時効前に犯人を捕まえて欲しい。

 一方、十文字は追っている事件の犯人を好きになってしまった。だから、犯人を見逃したい。

 この前提を下敷きに、2人は狂気的なシーンを、まったく真面目に演じるんです。


 まるで演劇です。

 ドラマを使った演劇です。

 ギャグなのに、ギャグの気配がありません。

 物語というやつは、どれほどおかしなシチュエーションでも、受け手が話にのめり込んでさえいれば、全く邪魔にならないようなのです。

 愕然とする思いでした。


 あまりにも感動し過ぎて、ドラマの感想なんていう柄にも無い記事を作ってしまいました。

 すみません。


 既に時効警察を知っている方は、嗤って下さい。

 今さらながらハマってしまいました。

 まだ時効警察を知らない方は、今すぐアマプラかどこかで見て下さい。

 めちゃくちゃ面白いですよ。

 ぜひ。


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