本当の能力
「ねぇ!あなた今私に何をしたの!?」
彼女が詰め寄ってくる。
「な、何って特に何もしてないよ…?」
「嘘よ!だってあの時、急に力が湧いてきたんだもん!絶対あなたが何かしたに決まってるわ!」
何かって僕はやけくそになって能力を発動したけど…勇者がいない今、僕の能力は意味がない。
「ほんと!本当に僕は何もしてないんだってば!僕の能力は勇者にしか効果がないんだよ!」
「勇者?となるとあなたは勇者のパーティメンバー!?なんでこんなところにいるのよ?」
「ついさっき勇者パーティをクビになったんだよ…だからこんなところで野宿してるんだ…」
「…あー、ごめんね。そんな事とは思わなかったわ」
「いいよ…たぶんみんなそう思うだろうし」
少し気まずい雰囲気になった。
「…そ、そうだ!勇者にしか効果がない能力ってどんな能力なの?」
「僕の能力は『勇者をしじする者』。勇者の近くで発動することで、味方全体の能力を底上げすることができるんだ」
「……そうなんだ」
「だから勇者がいないと僕は使い物にならないただの一般人なんだ。だから君に何かをしたというのはありえない話なんだ…」
僕は勇者に必要とされなくなれば存在価値がないのだ。
しばらくの沈黙の後、
「…ねぇ、その能力って意味が違うんじゃない?」
ふと、彼女がそう言った。
「どういう意味?」
「えっとね、あなたがいう勇者って言うのは、能力が勇者と言う意味で間違いはない?」
「そうだけど…」
当たり前のことを彼女は言った。
「これは私の考えなんだけど、その勇者って能力が勇者の者じゃないんじゃない?」
「どう言うこと?」
「確かに勇者って聞くと、能力が勇者ってのを思い浮かべるけど、もともとの勇者の意味で考えてみて」
勇者の意味?
勇者といえば…勇敢な者、勇気ある者…
「あ!」
「気づいた?能力が勇者じゃなくても、勇気ある人とか、勇敢に戦う人の近くでなら発動できるんじゃない?」
なるほど、それは考えたことなかった。
「それなら、さっき私が急に力が湧いた理由に説明がつくわ!」
さっき確かに彼女は勇敢にも男3人に立ち向かった。
そして僕は能力を発動した。
「……うん、その可能性はあるね」
「ええ、しじは支持のことだとは思うんだけど…もう一つ可能性として、指示って言うのがあると思うの」
「指示?それはないよ。だって僕はいつも勇者に命令されて能力を発動していたから」
僕はいつもカイザールの指示で能力を使っていた。
だからそれはありえない。
「でもあなたさっき能力を使う時、僕を助けてくれーって言わなかった?」
「言ったけど…あれ僕の能力を発動するために必要なことだから…」
「あれ、指示してると思わない?勇者に自分を助けろって」
確かにそう言われればそうだ。
「…じゃあ僕の能力は…」
「勇者を支える能力じゃなくて、勇者に指示を出して自分のために戦わせる能力だったのよ!」
『勇者を指示する者』…
僕の能力が本当にそうならば…
僕はまだ戦える。
「だけどあなたの能力って、パーティを組まないと意味がないわよね」
……この子上げて落とすな…
鬼かッ!!
「でね、提案なんだけど私とパーティ組まない?」
「え?なんで?」
「なんでって…あなたなら私を助けてくれそうだから…かなっ!」
……なんか怪しいけど…
「…本当にそれだけなの?」
「……助けてほしいのは本当…だけど私じゃなくて私の村を…仲間を助けてほしいの」
「……詳しく話してくれる?」
僕は彼女から話を聞くことにした。