結末
「おやめください!ご客人!」
扉を開けて入ってきたのは、綺麗な白髪をポニーテールにまとめたお腹の大きい女性だった。
「アレル様も落ち着いて…」
彼女は部屋に入るやカッペリーニア国王の元へ行き、傷口に治癒魔法をかける。
「ここへは来るなと言っただろうイア?お前は身重なんだ。万が一のことがあったらどうする!?」
「ですがこの場を…アレル様をお止めできるのは妻一同の中で私しかいません。私たちはあなたが亡くなってしまうと困るのですよ?」
「俺が負けるとでも思っていたのか?」
「思ってはいませんよ…思うはずがないです。でも現にアレル様の手は血だらけではありませんか…苦戦していらしたのでしょう…?」
治癒が終わったのかイアと呼ばれる女性がこちらを向き
「どうか剣をお納めください。これ以上私たちの主人を傷つけないでください」
と頭を下げた。
「でもあなた達はその人に奴隷にされてるんでしょ?だったらなんで助けようとするの?」
ラーナの問いに
「確かに奴隷として連れてこられたかもしれません。しかしアレル様は私たちを奴隷として扱いませんでした。それどころか衣食住を提供し、奴隷となった私たちに優しくしてくれました。それだけでもアレル様を助ける理由になりませんか?」
イアはオリト達をまっすぐ見つめそう言った。
彼女の言葉には嘘偽りは一切感じられない。
「アレル様の優しさが嘘であろうと偽りであろうと私たちには関係ありません。もうそれほどにアレル様を愛しているのだから」
オリトたちはもう何も言えなくなった。
そして彼女の言葉に少しだけ顔を赤らめる国王。
「……これじゃあまるで私たちが悪者みたいね」
確かにそう思えてしまう……
「……おいイア。ララルを連れてきてやれ」
「分かりました」
イアは部屋を出て行きしばらくすると、エルフの少女を連れて戻ってきた。
「ララル!」
「ラーナお姉ちゃん!!」
2人は抱き合い涙を流す。
「ララル怪我はない?」
「うん!大丈夫だよ!みんなが仲良くしてくれたから」
おそらく国王の娘たちであろう。
ともあれ何もなかったみたいでよかった。
「……ふん、受け取ったなら早く国から出て行け。もう用事はないだろう」
「国王……ありがとうございます」
そう言ってオリトたちは部屋の入口に向かう。
そしてドアノブに手をかけた瞬間
「国王陛下!大変です!!」
バコッ!
「いたっ!!」
突然開いた扉にオリトは顔面をぶつけ、後ろに倒れる。
部屋に入ってきたのは武装した兵士だった。
「あ……すいません……って今はそんなことどうでもいいんだ!」
どうでもよくないとおもう。
マリーナは笑ってるし、ラーナは心配そうな顔をしている。
「……どうした?」
「海から……魔王軍が侵攻してきています!!」
「分かった。すぐ行く」
「お願いします!!」
ではと兵士は外に出て行った。
それに続いて国王も部屋から出て行く。
「……お前たちは早く国から出て行くんだな」
「ねぇ国王、僕たちも戦うよ!」
「結構だ。これはカッペリーニア王国の危機だ。お前たちはこの国の関係者ではない。手出し不要だ」
「でも……!」
「くどい!!」
そう言って国王は部屋から出て行った。
部屋にはオリト達とイアが残されている。
「皆さん城の外までお送りします。私についてきてください」
「ねぇイアさん、ここから海への近道は?」
「……私にはご案内することはできません。それが主人の決めたことですから……」
「でも……」
「こちらです皆さま」
イアはオリト達を連れ長い廊下を進む。
しかし来た時に通った場所とは真反対に向かっている。
しばらく歩いて行くと大きな扉の前に着いた。
「……ここから出てください」
イアは扉を開ける。
するとその先には一直線の道があり……
海につながっていた。
「ここは……ありがとう、イアさん!みんな行くよ!」
「イアさん、ララルをお任せしてもいいですか?」
「……かしこまりました」
ララルを預けオリト達は海に向けて走った。
その背中に
「……どうか主人を……アレル様をお願いします」
と彼女は呟いた。