四畳半魔法戦士
快くでも無いが村長の願いを聞き入れて、わたしはこの地で教師の道を歩むことになった。
まあ住むとこもくれるだろうし、すぐクビになるわけでも無いからしばらく安定の生活が出来そうだ。
「で、村長?」
わたしは村長に尋ねた。
「なんじゃ?」
「わたしは何処に住めばいいのですか?」
「あー、そうじゃったなぁ、少し待っててくれすぐ探してくる」
用意が無かったのかい。ま、仕方無い。
「なにせ来るってわかってないからのぉ」
まあね。
そう言うと村長はゆっくりと歩き出していった。こりゃしばらくかかりそうだ。
歩き出した村長は急にこちらを向いた。
「そうだ、銀蔵。ここでこの村なり村人の紹介をしといてくれ。すぐ寝る所を探して戻ってくるから」
銀蔵は“はい”と言って話し出す。
「村人の紹介と行く前に、戦士殿貴方の自己紹介をしてもらいたいのですが···よろしいでしょうか?」
え、自己紹介···苦手なんだよなぁ。
「えっと··わたしの名前はイリッサ·フィデルです。どうぞよろしくお願い致します··はい」
随分腰が引いた自己紹介である。
「えっと質問いいっすかーぁ?」
二十代前半のような感じの言葉だけチャラい男がわたしに尋ねる。どうやら村の外の人間に興味を示しやって来たようだ。
それにしても見た目が普通の青年っていうね。
「はい」
わたしはいたって冷静に答える。
「戦士って言っていたけどさぁー、レベル的にはどんくらい?」
「レベルと言いますと?」
「ランクとか··そういうやつかな」
「個人ランキングでは戦士協会ランキングでは四千人中八位ですね。パーティーランクはちなみに二位でした」
そこに居た人間達にどよめきが起こった。意外に強いということに驚いたのだろうか。
「流石は都会の戦士だ···」
長髪の男もチャラい男も舌を巻いているという感じだ。
彼らは巻いた末に相当絡まってしまった舌を元に戻す。
「では取り敢えず村の紹介をします」
長髪の男は多少緊張している、多分村外の人間には慣れてないのだろうか。
「あ、その前に私の名前は高田銀蔵です。はい」
そっか、言葉は標準語でも名前にまだ訛りというか、国の言葉が残ってるんだね。
「えっと···どうも」
若干オドオドしながら返す。いつの間にかチャラい男は興味を無くしたのか居なくなっていた。
「えっと··この村の説明を致します。まずこの村の名前は御金村と言います。」
元素みたいな名前ね。
「人口は···まあ百人程度で生活はほぼ自給自足です。村の位置故に外の繋がりはなく主力産業もありません。まあ特に変わったことはありませんね、辺鄙だから変な魔物が多いくらいです」
それが唯一にして超絶変わってるけど。
······
「以上です···何か質問は?」
聞いて何か質問されたことある?それ。
「あ、ありません···」
わたしはただおどおどしているだけだった。
それ以来ろくな話題はこの二人には出て来なかった。
静かだ···
どうしよう、黙っちゃったなぁ、困ったなぁ。
長髪の男はそのままつったっているだけだし。
わたしもただ近距離でつったっているだけだけど。
男と二人、ただ黙っちゃったままでいるのは精神的にきつい···
村長すぐ戻ってくるって言ったよね。
ここで待ってなきゃいけないんだよね?
長髪の男は村をただ見つめている。わたしは何をすりゃあいいんだろうか。
「おーい、銀蔵ぉー。村の紹介は終わったのかぁー?」
グッドタイミング!よく来た村長!
「ええ、終わりましたよ」
「おっし、それじゃあえっと··戦士殿名前は?」
またか。
「えと、イリッサです」
「イリッサねぇ〜。言いにくいなぁー」
仕方無いでしょ、これが名前なんだから。
「それじゃあイリッサ殿、貴方今日からこの村では心海水心と名乗ってくれんか?」
はあっ!?
「は、え、あ?なんでですか?」
「いやあのな、この村の人間は標準語の名前は覚えるのがとても苦手なんじゃよ。だからこの村の方式に改名してくれんか?」
まあそんな名前に愛着もないけどさ···ってこの名前回文じゃん!
「え、ええまあ良いですよ」
「そうかぁ、助かるぞぉ」
うん、良かったね···
「それでは!まず今日寝る所を適当に探して来た。まずはそれを見てもらおうか」
なんかこの人が探したっつーのが怖いところね。
わたしは今日寝る所に案内された。
村をしばらく歩いて村の中心のところまで来たところに、今まで見た周りの家より一回り大きな家があった。
「ここじゃ」
ほおー。
「この建物って周りに比べて随分立派ですね」
「まあ村長である儂の家だしな」
村長って金持ちなのかな。
「へえ、なかなか良さそう···」
「ちょっと待ってください」
銀蔵が話に割って入ってくる。
「ん、どうしたのじゃ銀蔵?」
「いや、心海さんってそういうの気にしないのかな··と」
もうわたし心海美心なのね、慣れないわ。が
「気にしない?何のこと?」
わたしは一体銀蔵が何を言いたいのかわからない。
「だって村長は老人にしても男ですよ、そんなホイホイ家に泊まれるんですか?」
あーね。
「あの、戦士時代に地方遠征に行くときは大体泊まりの宿は、その土地の村長の家だったんで···慣れてるんです」
「はあ」
随分銀蔵は驚いたようだ。
「取り敢えずそれなら話は早い、さっさと家に入って荷物だけ置いておいてくれじゃ」
そう言って村長は家の引き戸へ向かう。
「あ、はい」
村長は引き戸に手をかけるとぐぐっと引いてドアを開ける。鍵は掛かっていないようだ。
「入るのじゃ」
玄関をくぐり靴を脱いで部屋にあがる。村長が部屋まで案内してくれるらしくそれに付いていく。
階段を登り二階へあがる。そのまま廊下を突き当たりまで行くと村長が止まった、そしてそこの襖を開く。
襖を開けた先は四畳半の畳の部屋だった。他には何もない。障子で仕切られた窓があるくらいだ。
わたしは衝撃を受けた。
わたしは今までの戦士時代こんな低待遇な部屋に泊まったことは無い。第一村長の家には遠征する戦士を泊めるためのしっかりした応接室が人数分設けられているはずなのだ。
わたしは一人だから良いにしても、もし誰か連れてたらこの狭い部屋で二人で泊まることになったのだろうか。
ていうかトイレと風呂が各部屋に無いのはどういうことなのだろうか。普通完備されてるはずなんですけど。
「気に入って頂けたかのぅ?」
正直にはとてもなれないものだ。
「ええ、良かったです」
「そうか···荷物を置いたら儂のとこに来るんじゃ。ちょっと今日は結構忙しいからの」
「はあ」
「んでは、また直ぐに」
そう言って村長は襖を締めた。
一人になると急にこみ上げるものがある。
わたしが教師なんて出来るのかという不安しかり、これからこの部屋が寝床となる憂鬱さしかりと大変だ。
しばらく何も考えないで地面に身体を預けたいが、なにせすぐ来てくれと言われてる以上行かねばならない。
ふあーー〜っ。眠い···
荷物を放っといてわたしは下の村長のところへ向かった。