西のゲート
割と高い所(高層ビル屋上)にいくとわかるのだが、この要塞都市は結構大きい都市なのである。まあざっと山手線一周くらいの面積があるのだ。(注,この次元に山手線はありません)
我々戦士というのは昔から山手線で言うと皇居のお堀ぐらいのところに住んでいる。それは昔王政があった時代に上級民として、城の周りに住まわせてもらっていたからだ。
最近家の外に出ないのでよく知らなかったが、旧戦士街はあまり綺麗なところでは無くなっていた。
豪邸が建ち並ぶ一角には心無き若者の落書きだらけ、その落書きだらけの塀の向こうには手入れされていない庭が拡がり、家の門には売却中の文字がある。
平家物語には「盛者必衰の理」とあったが、戦士自体が滅ぶなんてことが過去には絶対無かったし、無いと信じられていた。でも今こう目の前に映っている光景は戦士が滅んだ後の世界だった。
今この土地には再開発の計画が立っているそうだ。もうすぐ戦士の痕跡も歴史に埋まりそうなのである。
旧戦士街を抜けると一般人の住宅街がある。しかし住宅街といっても一軒家というのは無い。なぜならこの山手線一周くらいの面積に数十万人暮らしているからだ。マンションじゃなければ全員がこの要塞都市に住まうことは出来ない。
勿論他にも要塞都市というのはあるんだけどね。
そこにいくと地下鉄の駅がある。そこから西のゲート駅まで乗るともう街から出られるゲートにつく。
戦士ならお前飛べばいいだろうと言う人もいるだろうけど、今は法律で魔術の類は禁じられているのだそうだ。わかりやすく言うと銃刀法違反的な感じかな。
大通りに出た。片側三車線の道路で走っているのは車やバスばっかりである。ちなみにこの要塞都市の道路は旧王城(現国会館)を中心にして全て円形に囲んでいる。そこに放射状に道路が拡がるのである。
大通り沿いを多少歩くと地下鉄の入口があった。地下へ続く階段を降りていく。改札を抜けるとすぐにホームに着いた。ホームには通勤する人だったり学生なりが多数いるが、それは反対方向だった。要塞都市の中心にそびえ立つ高層ビル群のあたりに行くんだろう。
「いいな···安定した生活があって」
ふとわたしはそう呟いた。
わたしも戦士じゃなければ今頃働いていただろうか、いやまず戦士ではないわたしはわたしではない。なにせこれは親から継いだ能力、戦士以外に使いみちなんてなさそうだ。
真上のスピーカーが“電車がまいります、電車がまいります”とひっきりなしに鳴り出した。すんでの間があって電車は重低音を響かせギュイーンと入って来た。
プシューと音がしてドアが開いた。わたしが乗り込むと中は通勤の逆方向というのもあってガラ空き状態だった。わたしはロングシートの端にそっと座った。
車両の中を見回して考えてみると、この都会ででかいバッグ持って電車に乗る人などいないものだ。だいたい旅行するなら飛行機を使うのだから空港までモノレールを使うのがセオリーだ。まさか陸路で旅行する人はいないだろう。
フアウ村は飛行機ではなかなか便の悪いところだった。もし空港に行ったところでフアウ村は随分そこからも離れているから金の無駄になる。結局歩く移動時間に大した差が無い。
最初は移動手段を長距離タクシーにしようとしたが、よく考えてみると要塞都市より外では魔法を使用しても、街道沿いさえ飛ばなければお国様にバレることは無いのだから戦士の特権を使えばいい。
席に座ってぼーっとしていると特別この都市に感傷に浸ることは無いはずなんだけど、なんか寂しくなった。
ひとりだからなのか。
不安なのか。
いまいち自分でも掴みようのない理由で寂しさを急に感じているわたしがいる。不安というのが大いにわたしの気分を寂しくさせた。いくらネットを読み漁っても百聞は一見にしかずであり、何が起こるかわたしにもわからない。
怖い…
ずいぶんな箔のある戦士が何を言っているんだろう。
“まもなく西のゲート、西のゲート”と告げるアナウンスが聞こえて列車は徐々に速度を緩ませていた。窓から明るい西のゲート駅のホームが見える。終点らしくゆっくりな入線だなと思った。
プシューと音がしてドアが開いた。辺りを見回すとどうやら降りたのはわたしだけっぽい。しかしよく考えてみると西のゲートなんて運輸会社の人間か、物好きの旅行者しか使わないところ。そこで降りる一般客が珍しい。
改札を超えて階段を登って外に出る。正面に西のゲートがあった。スーパーの搬入口をそのまま100メートルくらい巨大化した感じだ。格納庫みたいでかっこいい。
西のゲートに向かう片側ニ車線の道路があり、そこの先に約100メートルほどの巨大なコンクリート壁がある。
そこの先にゲートがあるのだ。そのゲートは歩いては超えられない。(まあ歩いて魔物ひしめく外に出るやつは戦士で無ければいないはずなのだけど)だからわたしは多少値段は高いがタクシーを使うことにした。西のゲート前にはタクシー乗り場があるはずである。
西のゲート前をさっと見てみる。
ってほんとだ、あったあった。
さっきタクシーは使わないと言ったが、ここを超えるためにはタクシーを使わなくてはならない。簡単にいうと歩きでは出ることができないためだ。(ちなみに車であっても必ず機関銃付きで無ければならない)
しかしタクシーでゲートを越えると言ってもそれでフアウ村に行くつもりは毛頭無い。だから行き先はここから一番近い村にしておく。まず道が荒いらしいから車より飛ぶほうが楽なのである。
タクシー乗り場に着いた。
わたしはタクシーを見てけっこう驚愕した。なぜならタクシーが都会とはまったく異なっていたからである。
アメリカ産の外車のようなボディー、装甲車のようなドア、異常なほど巨大なタイヤ等全てが度を超えていた。
タクシー乗り場に止まっていた適当な車に乗る。
自動で開いたドアの厚さは数十ミリを超えていたと思う。
しかし外見に反してタクシーの運転手はヒョロっとした体型の人間だった。少し安心した。
「どちらまで行かれますか?」
タクシー運転手がわたしに聞く。
「ホラム村までで」
なんか運転手が驚いた。
「近いんですね」
「ええ、まあ」
わたしは雑に答えた。
「発進する前にご確認させていただきますが、身分証明書はお持ちですか?この先の西のゲート通過に伴い必要となります」
「ええ、持ってますよ」
わたしは自分のバッグの中を確認しながら言った。あって良かった。そしてゆっくりとタクシーは発進し、西のゲート通過の列に並んだ。
一端並んでみると西のゲート通過には割と時間がかかりそうだった。4ゲートあるがあまり流れは良くない。
朝早く起きたからかとても眠くて、わたしは目をしぱしぱさせながら順番を待っている。
気づいたら自分のタクシーの番が来た。
タクシーの運転手が“身分証を”と言ったので身分証を預ける。西のゲート職員がその身分証を運転手とわたしの分をチェックしている。また同時にパソコンのようなものをしきりに眺めているので、おそらく持ち物の検査なり行われているのだろう。
それにしてもこういう職員というのは、怖い人がとても多いものである。わたしは職員の腕っぷしの強そうな肉体と身分証をじっと見つめる目に恐怖を抱いた。
「大丈夫です」
職員がそう言って身分証を返却する。
わたしは安堵のため息をついた。
運転手はわたしに身分証を返してから、タクシーをゲートの外に向かって勢いよく発進させたのであった。