プロローグ このままじゃ生活出来なくない?
飛行機···
あの雲うさぎみたいな形してるな···
最近わたしは空を見上げぼーっとすることが多くなった気がする。一日が退屈で退屈で仕方ないものになっているらしい。
しかしわたしはそれでも戦士という職に就いている。いや就いていたとも言えるかもしれない。
わたしは窓の外を眺めた。遠くに高層ビルが見える。そしてわたしは小さく呟いた。
「片や高層ビル、片や魔法戦士か」
魔法戦士は古くから重宝された職だった、でも今は最新鋭の軍隊に職を奪われてしまっている。だから今こうしてわたしはうだうだしているところだ。
わたしはベットから起きて辺りを見回してみた。このベットも含め家具のほとんどは高級品、勿論この部屋もまるで一流ホテルのような造りである。
ただ、それとももうお別れだ。報酬が減りに減った戦士にそれほどの高級な部屋は住めない。
ふぅーーーっ。
「今のうちに荷物まとめとくかー!」
誰もいない部屋で大声で叫んだ。多分そんなふうに自分に喝っていうのかな?しておかないとやる気がしない。
不意に電話が鳴った。ルリからだった。
「イリッサ姉さん、引っ越し大丈夫?」
ルリはわたしが17歳で最初のパーティーを組んだときのメンバーで、能力は回復系であり、同時にとてもテンションが高い女子である。年はわたしの二個下だ。
「引っ越し先が見つからないけど···大丈夫」
このご時世戦士は平民に大変嫌われている。使えもしない変な異能集団と呼ばれネットではまるで出る杭のようだ。そのためかどの職場も賃貸の管理人も皆わたし達を突っぱねるのだ。
「引っ越し先見つかるまで延ばしてみたり出来ないの?」
「駄目···もう今月中に出ていけって感じよ」
「酷い」
ルリが小さく呟いた。
ルリはこんな寂しそうで大人しい人では無かったはずなのに。年のせいで大人になったのか、それとも将来の不安からなのかとても寂しい人になってしまった。
「あのね、イリッサ姉さん」
「なあに」
···
「仕事決まったのよ」
「え、すごいじゃん!よくこのご時世に決まったわね」
わたしは凄く喜んだ、でも···ルリの声が暗い。
「うん」
味気ない返事だ。
「それで···何の仕事なのよ?」
「······」
ルリは答えない。
「何の仕事?」
「······」
ルリは黙ったままだった。
ピロンと携帯が鳴って携帯に画像が届いた。
写真というのは一枚のチラシだった。そこにはいかがわしいサービスを思い浮かべるようなことがたくさん書かれていた。
「ルリ··ねえこれどういうことなの?」
ルリは涙声で言った。
「ほとんどの接客業のお店を回ってみたけど、どれも元戦士お断りだったの。それで戦士お断りじゃない職場を探したらここしかなくて···」
元戦士の就職難は聞いていたが、これほど酷いものとは思わなかった。
「これ断ったらもう行くところが無い。野垂れ死ぬしか無い」
ルリの言葉は冗談では無い。本気で職場探していかがわしい店しかもう残っていないのだ。
「そう···」
「イリッサ姉さんは?これからどうするの?」
そう聞かれても答えようが無い。
「わからないわ」
「イリッサ姉さんは幸せになってね」
そう言って電話が切れた。
一体ルリがどんな生活を送っているのかわたしは聞けなかった。なんだかとても聞いちゃいけない気がした。
それ以来ルリとは連絡が一切とれなくなった。一体どこの店なのかというのもわからない。
頭上を飛行機が通り過ぎていった。そのときわたしはプルー戦を思い出していた。
プルー戦というのは三年前に起こったわたし達戦士が没落するきっかけとなった事件だった。
その頃わたし達戦士の総督府にルーギーという男がいた。そいつはプルー戦の一年前内閣が決議した最新鋭の軍隊創設に、我々を嘗めているのかと文句を言って、最後に内閣総理大臣に向かって戦士に謝罪しろ!と命令した人物だった。勿論首相は怪しく光るオーラに圧されたのか戦士相手に屈辱の土下座をしたそうだ。
ルーギーはその翌年にプルーという巨大生物を倒すパーティーを編成して、防衛大臣の指示に沿って巨大生物進駐に向かった。
しかしルーギーのパーティーは作戦遂行中に行方不明となった。何があったのかは誰にもわからない。殺られたのか喰われたのか焼き尽くされたのか真相は不明だ。
結果的に援軍を投入する話になってわたしも準備を命じられた。しかし思わぬ援軍がやってきたのである。
それが空を飛ぶ飛行機部隊、要するに国の空軍だった。どうやら国は軍隊を秘密裏に編成していたのである。
ロケットのように地面から飛び出した10体ほどの戦闘機が空を舞う姿をわたしは一生忘れないでしょう。
その戦闘機達は西の空へ向かって矢のように飛んでいくと、山中においてプルーを撃墜した。
それ以来だ。戦士は旧時代の遺構のように時代遅れとされ、国民から税金泥棒の異能集団と言われ忌み嫌われている。
窓から西の空へ向かって矢のように飛んでいく戦闘機が見えた。
何故かわたしはそのとき戦士の不必要を妙に実感した。