第005話 - 旅立ち
○登場人物○
◆出雲サヤ(仮)♀ - 主人公。東側から闇バスで不法入国した高校生。京都で事故に巻き込まれ、玲子達に救出される。
◇出雲玲子♀ - 帰り道際、事故に巻き込まれたサヤを救出した。偶然にもサヤと同い年。
◇出雲陽三♂ - 同上。小学生らしくやんちゃで活発的
◇出雲勲♂ - 玲子と陽三の父。妻の死後、2人の子供のために姫路で働いている。
博多の国民センターから電話が入る。
内容はこうだった。
「本来ならあまり良くないことだが、前住所・名が分からなくとも西側の国民として認める方法はある。」
すなわち、通常なら西政府は東からの移民は受け入れず送還、あるいは拘束という対処を取っている
が、記憶が無く東から来た証拠(京都バス事故)がないこととすればなんとか誤魔化せる という事だ。
好都合な事に、京都バス事故では乗客名簿が無かった故に全員が死亡したこととなっていた。
荷支度を済ませ始める。
国民センターは 大阪・神戸・高松・博多の4か所にあるが、どこも規制が厳しいらしく新規国民を認めることが出来なくなっていたそう。
唯一規制が緩い博多まで行き、そこでおじさんの知り合いの協力で国民票を発行してもらう…という寸法だ。
「サヤ、これ持ってって!」
携帯電話と財布を受け取る。
「えっ、でも」
「えーのえーの、金はバイトでまた巻き返せるし。携帯は前の機種だから。」
陽三からも、袋にぱんぱんに詰まった飴玉をもらった。
「それじゃ、切符買ってくるわ。」
「陽三、''あかつき,,やで、忘れんようになぁ~」
「分かってるぅ!」
まだ私が外に出れる状態じゃないと考えた玲子さんは、気を遣って陽三に切符を買わせてくれていた。
「ごめんねぇ、新幹線だと身分証目が必要になるから夜行列車になるけど…」
「ううん、大丈夫。ゆっくり移動できる方がのんびり出来るでしょ?」
幸い(?)にも、西側は壁周辺地域の一部を除けば旅行は国民の思うがままにできている。
飛行機だって、新幹線だって、電車だって、クルマだって…皆好きなように自由に動いている。
私は、以前の日本を憶えていない。でも、ここには以前の日本があるように感じた。
記憶ではない、感覚が…
…東側は今、どうなっているんだろう。
午後10時30分、京都駅―
プルルルルルルルルルルル…
「―まもなく、6番線から 寝台特急あかつき が発車いたします。」
駅員が、発車のサインであるベルを流しながら列車の発車を告げる。
「それじゃあ、気を付けて…」
制服姿でお見送りをしてくれた玲子さん、学校の部活帰りからわざわざそのまま見送りに来てくれた。
「ありがとう、行ってきます。」
「ちゃんと西日本民になって戻ってきてや。」
「うん。」
別に故郷に帰るわけでもないのに、玲子さんの表情は少し寂しげだった。
シュー…バシュッ
……ゴトッ…
列車は静かに動き始めた。
結局、陽三は寝てしまい見送りには来なかったけど、誰も居ないままホームを眺めるよりは玲子さんだけでも居てくれていた方がずっと有り難かった。
通勤客の嵐の中、手を振る少女が窓から消える。
と同時に首都となった京都の高層ビル群と歴史ある建築物が映る。
私は旅に出た。
記憶にない、東側の知らない家族と知らない土地を捨てるために―




