第003話 - かべのむこうⅡ
8月下旬。
訓練を終えた俺は、本格的に国境警備の任務を任されるようになった。
警備担当時間は朝4時から20時まで。結局俺は、沼津の関所の警備メンバーとなった。
日本を東西に分断する壁は、20メートルの高さがある。
「こんな高い壁、よぉく作ったなぁ…」
警備兵となると同時に、宿舎も移されたが、次の宿舎は最悪な環境だった。
場所はビジネスホテル跡だが、紛争の際に破壊されたらしく、最上階では天井が無く空が丸見えに。中層階でも窓ガラスは無く床が抜けている様の部屋もあったそうだ。
それでも警備の仕事は、侵入者・亡命者さえ来なければ仕事は無かった。
何しろ、東と西の間の交通・物流・経済は全て停止している。
たとえパスポートを持っていても、たとえどれだけの経済力が有ろうと、この国境は誰も越えることが出来ない…筈だ。
紛争が起こったあの日、俺の家のテレビの中継は沼津を映していた。
東から必死に逃れようと脱出を試みる自動車の車列。急バックで逆走し引き返す新幹線。そして…血の海。
あの日から、ここは地獄となった。
―今も、昔も。
ピピピピ ピピピピ
手元の通信機が、警告音とともに画面にメッセージと座標を表示する。
<INTRUDER FOUND 35.119217,138―>
INTRUDER FOUND…侵入者発見。週に3度はこの警報が発報される。
沼津警備班は計30名だが、うち20名が通信機の示す場所に急行。
<ALLOWED TO SHOOT>
射殺許可が下りる。と同時に、壁に登ろうとしている「目標」に向かってショットガンを撃つ。
かなり過酷だった。
…このような行為が壁のどこでも日常茶飯事で、多い日には2日に1人というタイミングで射殺されるか、東警察へ連れていかれる。
多くの亡命者は「西側に子供が取り残されている」や、「故郷に帰りたい」という理由で亡命を試みていた。
が、俺は同情はしても顔には出さず、東側の法の下で射殺・連行するのみだった。
「それがこの国の掟であり、正義なのだから。」