第029話 - 仙台沖
―宮城県沖、太平洋上。
朝の深紅な太陽に染められた、一隻の大型船のシルエットが映る。
「…こちらNEW-HITACHI号、現在仙台から27マイル北西を航行中で…」
「―どうっすか、陸の様子は。」
「そりゃ駄目ですよ、返事なんて帰ってきませんし。」
無駄に広い操縦室、煌びやかに照らされるのは2人の男。
「―船舶交通事情もすっかり変わっちまいましたねぇ…」
そう操縦者に話しかけるのは…
東日本の政治家の中で、「天邪鬼」と呼ばれた男、結城誠だ。
生まれも育ちも新潟県上越市の彼は、政治家となる前から家から眺める壁の存在に不満を抱いていた。
ちょうど北海道小樽での会議を済ませ、相方と共に帰路についていた。
「…で、政治の方はどうだったんです?」
操縦士も質問を返す。
「こっちもダメダメだ。狂った論理に燃える馬鹿な政治家だらけっす。」
結城はここ数年で壁の建設反対派から政治家になった「不良議員」だ。
東西を人々の心の先からぶった切るあの壁は、彼にとって非常に不快なものだった。
「東にだって、西にだって帰りたい人が居るのに、日本人の心をも切り裂いたあの壁が恨めしいよ。ほんと。」
そう海を眺めながら呟いたのは操縦士の1人だった。
彼と同じ意見を持つ政治家だって、数え切れないほど大勢いた。
しかし、東側の政府は「自国の不利益につながる」として彼らを政治上から抹消し、酷い時には刑務所へと放り入れる様だった。
その為、ここ数年で政治という議論の卓上に「壁の解体」すなわち「東西併合」を置く者は居なくなった。
彼もその一人だ。
旧客船を改造した船内はギシギシと音を立てながら陸地へと向かう。
その中の個室で、また2人の男が会話を交わす。
「何が国の不利益だ、国民をここまで振り回しといてさぁ…」
卓上の東西国境付近の国土地図を眺めて、結城からふとため息が出る。
「はぁ~…いい年のおっさんが国土地図肴に缶ビールかよ。」
彼は同じくして政治家の相方、齋藤だ。
「震災復興省も海外から復興の手を待っているばかりだ、恥ずかしいよ。」
「―西側含めて世界中に迷惑まき散らしといて、こんどは救援のおねだりかっつーの。」
「もう正直陸になんて戻りたくないね、なんならずっと海の上に居たいな。」
そう呆れ顔で言い放つのは結城の方だった。
「なんだ、お前らしくないな。」
「政府の赤字と国民生産性の低下…それに首都圏大震災。これじゃ東西が併合する前に東側が破綻してしまうよ。」
「―そうなったら東西が共に凍結されたまま列島自体が消滅するまでそのまんまさ。」
まだ東日本政府の体制は変わっていなかった。
国の不利益は他国任せ、「五月蠅い政治家」は首を切り落とす。
海外との交流もなくなり、人口減少の中国民に徴兵と労働を強いる。
かつての戦中に日本とほとんど大差なかった。
《結城さん、斎藤さん、着港の目途が経ちました。これからいわき港へ向かいます。》
陸上という現実が迫る中、2人は缶ビール片手にこれ以上何も話さなかった。




