第027話 - あんまりじゃないか。
…地震は、収まった…?
体感した揺れというものは、前回のものよりも大きく感じた。
一瞬の出来事で、しばらく理解ができなかった。
そう、確かさっきまで幸乃と一緒に行動していて…
「…幸乃?」
ズキズキ痛む足を無理矢理に立てて、再会出来たばかりの友人を探そうと試みる。
辺りに人の姿は見当たらない。
皆がちゃんと避難したのだろう、そう思った。
カンカン…
すぐ近くで、金属音がした。
その音に誘われるがまま勘を頼りに向かう。
その「助けの音」の発生源は、数歩先の大通りからだった。
奥で、ビルが傾き倒れかけているのが見える、見た目以上に「街が」もう限界までボロボロになってきていた。
そして眼下には…
無残なる、虫の息同然。
巨大なコンクリートの塊に下半身を押し潰された、古き友人の姿だった。
「…幸乃? 幸乃!?」
この辺りにも、やはり人目は無かった。
「……あおいちゃ…」
「いき…て……よかった……」
嘘だよ。
なんで、数年ぶりに会えた親友とさ。
なんで、もう「さよなら」しなきゃいけないのさ。
あんまりじゃないか。
「待ってて。今助けを呼んでくる。」
直ぐに靴の紐を確かめ、走り出そうとした。
でも、走り出せなかった。
何者かが、私の足を引っ張る。
靴を最後まで必死に掴んでいるのは、幸乃だった。
「いか……ないで……」
「たぶ……たすか…ないから……」
「な、なんで…」
「…いいの……」
「これが……さい…ご、……だから…」
「お…がい……」
「これ…おね…ちゃ……に…」
赤く染まったその手に握られていたのは、髪留めだった。
小さい、鮮やかで綺麗な花の装飾の着いた髪留め。
「最後に、幸乃のお姉さんにこれを渡してほしい。」という、彼女からの最後の我儘な?お願いだった。
「……ありが…とう…、…ありが……う………」
「…あおいちゃ……」
「諦め…、………生き…て……」
「幸乃、もう喋らなくてもいいよ。」
私の言葉は気にせず、最期の時まで口を開き続ける。
「あおい…ちゃ…」
「うん…どうしたの…?」
「しっか…り、前を…向……て…」
「いつ…か……立…派に……」
「生き…て……。」
私をしっかりと見つめていた、幸乃の綺麗な瞳が閉じた、その時。
私の親友は、この世を去った。
身体を持ち上げていた、私の腕に幸乃の体重が一気にのしかかる。
魂が抜けるってこういう事なんだと、生まれて初めて理解した。
その後に判明する事だが、下半身と腹部に数トン近くの重い物体がのしかかって潰れている中、彼女があそこまで喋れたのはもう「奇跡」としか言い様が無かったらしい。
私は、最後に
「ごめんね…」
と言いながら、親友の所持品を全て受け継ぎ、横浜へと向かった。
結局、鶴見被災者共同体の者は46人しか見つからず終い。
幸乃のお父さんも結局は見当たらなかった。
この頃、あの羽田空港スラムでは地震による他共同体による襲撃を受け、いわゆる「内戦」が勃発。
そこだけで何万人もの命が「災害」ではなく「戦火」で亡くなった。
私は、今日も懸命に生きてゆく。
「諦めないで、前を向いて生きて」
といった、親友の言葉を胸に刻みながら。




