第013話 - 複雑な心情
○登場人物○
◆出雲サヤ(仮)♀ - 主人公。東側から闇バスで不法入国した高校生。京都で事故に巻き込まれ、玲子達に救出される。
◇出雲玲子♀ - 帰道際、事故に巻き込まれたサヤを救出した。偶然にもサヤと同い年。
◇出雲陽三♂ - 同上。小学生らしくやんちゃで活発的。
◇出雲勲♂ - 玲子と陽三の父。妻の死後、2人の子供のために姫路で働いている。
後悔するどころか、少しばかり嬉しくなった。
これで暫くは捕まる事もないし、家に引き籠る必要もない。
浦沢さんの様に、東から逃れてきた同郷の人にも逢うことが出来た。
すぐに玲子さんに電話を掛ける。
「もしもし、出雲です。」
私はそのまま国籍が取得できたことを話した。
玲子さんは、素直に私が西の民になったことを喜んでくれた。
ただ、それだけでも嬉しかった。
もし、玲子さんたちに救ってもらえなかったら、今頃は拘束されて送還になっていただろう。
「おめでとう!」
そう言ってくれる人の有り難さとその言葉の重みを改めて感じた。
ありがとう―
そう一言告げると、玲子さんはテレ気味で「それは父に言うべき言葉だろう」と言った。
「じゃあ、折角九州まで来たんだから帰りに姫路に寄ってくるよ。」
最後にそう言うと、
「お土産とかはいいから!博多のラーメンでも食べて来な!」
「気ぃつけて帰ってきてな、陽三も待ち遠しくしてるよ!」
と、少々びっくりする位に大きな声で言った。
まるで、遠い昔の私の母の様に……勿論、憶えてはいないのだけれど。
大通りに出て、福岡の町の喧騒を歩く。
ふと、喉の奥から独り言が出てきた。
「―なぁんだ、昔とかわってないじゃん。」
えっ?
頭の中を閃光のような、稲妻の様なものが走る。
昔と…変わらない…?
昔…?
私は昔…福岡に…?
なんだろう、思い出したくない気がする。
一瞬足が止まった。
が、また再び止まった脚を前へと出した。
さっき思い出したことは極力忘れる様に自分の記憶を誤魔化した。
適当に、小さなラーメン屋を見つける。
―「お土産とかはいいから!博多のラーメンでも食べて来な!」
このことを考えていた。
店に入り、カウンター席に座り、頭上のメニューから注文をする。
店内にはサラリーマンが数名入ってくるだけで、ガランとしていた。
ゴトッ
何も言わずにどんぶりが置かれる。
―「頂きます。」
ズズズっと麺をすする。
何だろう、何故かまた家族の事を想う。
「こうしている間に、東の家族は何をしているんだろう」と、毎度の様に思う。
無事に西の民になることが出来たのは嬉しかった。
でも…
でも、やっぱり「記憶にない家族」について考えてしまう。
こうして楽に過ごしている間にも東日本の苦しい世の中で、苦しい生活を強いられているのだろうか。
まさか、私の乗っていたというバスに同乗していたのだろうか。
東京に住んでいて、地震に巻き込まれているのではないか。
この「楽な」西日本の活気溢れる土地の向こうの壁のむこうには…
誤魔化しきれない心情。
複雑な心情が私の心を大きく揺さぶる。
でも、今度こそは決して涙は流さなかった。
いつまでも泣いていては駄目だ。
行の夜行列車でオジサンが言った言葉がまた蘇る。
強く生きなきゃ、家族に顔合わせが出来ない、オジサンにも、出雲家の皆にも。
ただただ、麺を強くすすった。




