第007話 - 国民管理課
○登場人物○
◆出雲サヤ(仮)♀ - 主人公。東側から闇バスで不法入国した高校生。京都で事故に巻き込まれ、玲子達に救出される。
◇浦沢 ♂ - 国民センター 国民管理課7番の担当。実は彼も…
昨晩、こんな夢を見た。
アルプスを背景にした…何もない野原に、一台のバスが止まっている。
『どうぞご乗車ください。』
いつの間に一列に並んだ人たちが、バスの中へと入ってゆく。
私も列に並び、バスに乗ろうとする。
『あぁ~…ごめんなさい、ここらで満員ですわ。』
突然出口に立った男が言った。
すると、その背後に居た女の子が私に向かって声を掛けた。
「おねぇちゃんは乗らないの?」
―午前5時 寝台特急''あけぼの,,。
短い時間であったが、安心してかなりぐっすり寝れた。
浴衣から普段着に着替え、髪を結び、洗面台で顔を洗う。
あの夢は何だったのだろう。
あの女の子は誰だったのだろう。そして、あのバスは何を意味して…
変な夢が、私の 安眠 という基準を揺らがす。
…でも、あれは夢だ。いつか忘れてしまうだろう。
私が今しなければならないことは、夢の探求ではない。西日本国民として認められに行くことだ。
コーヒーをごくごくと飲んでゆく。
オジサンには失礼だったかもしれないが、コーヒーは飲まないで正解だったかもしれない。
…もしかしたら、オジサンが目覚めを先読みしてたのかもしれないけど。
冬らしく、まだ太陽が昇る気配は感じられなかった。
ビルの合間を縫うように、列車は博多駅へと入ってゆく。
博多駅の周りには京都より高く、そして多くのビルがひしめき合っていた。
夜はまだ明けていなかったが、博多の町は京都よりずぅっと騒々しかった。
約束の地である「博多国民センター」は、福岡市街の方にある。
まだ夜も明けず、受け付け開始時間まで2時間もあったから、駅構内の小さなカフェで時間を潰した。
『東京23区、人口0人へ』
『国連「不法国家である東日本への復興には一切の協力をしない」』
『東日本、飢餓で人口20%-』
読み置きの新聞の見出しが目に入る。
完全に鎖国となった東側からは、ほんの一部の情報しか入ってきていなかった。
東側がどれだけ過酷な状態にあるか、その規模を新聞の1面の見出しが語っていた。
何度も思う。東は今どうなっているんだろう…。
―午前8時、受付開始時間丁度にセンターへと着いた。
国民を管理する局 という事もあってか、今までに見たことが無いような大きさの建物だった。
もっとも、憶えていないだけかもしれないけれど。
円柱型の自動ドアを通り、玲子の父さんが言っていた通りの道順を進む。
エレベーターに乗り、10階で降りる。
【国民管理課⑦⇒】
受付の担当者は一人だけで、あとは後ろに数名、パソコンを操る人が居るだけだった。
雰囲気から言うと、地方にある小さな郵便局の様だ。
無駄に広い他のフロアの受付は、すべてシャッターが閉まっている。
とてもこんなところで国民票がもらえるのか、本当に心配になった。
決して東側の素ぶりを見せないよう、堂々と受付に進んだ。
「あの、二日前に父から電話があったと思うんですけど…」
「あぁ、出雲さん。少々お待ちください。」
受付の男の人は、暫く窓口のカーテンを閉めると、すぐ横の扉から顔を出してこう言った。
「話は伺いました。浦沢といいます。どうぞこちらへ。」
扉の向こうには、扉が多数ある長い空間が続いていた。
コツコツコツ…
「サヤさん…でしたっけ。」
「あ…はい。」
「こっちです。」
手前から7番目の扉を開ける。
ドキッとした。
室内には四角いテーブルと椅子が2つ置いてある。福岡が一望できる窓がちょこんとついているだけだった。
(事情聴取でもされてしまうのだろうか…)
部屋に漂う無機質な雰囲気が、私の心の隅にある不安感を増大させる。
それでも私は出雲のおじさんを信じ、椅子に腰かけた。
「必要記入書類はこちらになります。」
「はい。」
黙々と書面に記入をしてゆく。
が、急に記入を続けていた手が止まる。
【前住所】
私の記憶の中で、前の住所なんて存在しなかった。
と、担当の男性が話しかける。
「…サヤさん、東側から来たんですよね?」
「は、はい。」
「お父様から伺いました。」
「…では、そこには今から言う住所を書き込んでください。…」
彼の補助もあり、何とか申請書を書き終えた。
最後に彼はこう言った。
「これであなたは東側に戻れなくなります。大丈夫ですか?」
―と。




