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永久の輪  作者: 剣崎 輝
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 私は勢いがあまり、前につんのめった。

 外は稲妻が走り、雷鳴が轟いている。




 来た。




 私の好きな映画の中だ。

 私はゆっくりと周囲を見渡した。この部屋は見覚えがある。この映画のラスト近くに登場する部屋だ。

 ここで私が好きなミナは死ぬ。しかも、恋心を抱いた主人公ヴァンヘルを助け、ヴァンヘルに殺される。どう考えても、佐伯はヴァンヘルでくるだろう。私がミナが好きな事を知っているのだから。

「ヤバいなぁ…… 逃げきらないと……」

 私は服のボタンやファスナーを外し始める。

 そこに猛獣の唸り声が聞こえてきた。




 来たっ!




 私が振り返ると、人狼が私目掛けて走り込んできていた。

 私は人狼目掛け、服を投げ付け、その人狼の腕を掴んだ。

 人狼が服をはぎ取ると同時に私の視界が歪んで行く。それと同時に人狼も歪み、人狼から佐伯になり、また、違う映画の登場人物の服装へと変わっていく。




 思っていた通りだ。




 この男はヒーローやヒロインの相手に化ける。




 私の視界が鮮明になった。目の前にいる佐伯は辺りを見渡している。

「知らないみたいね」

 私は佐伯の腕を離しながら、口の端を上げた。

 佐伯は私を見て、口の端を上げる。

「なるほど…… 君がリクエストをしてきた映画の中だね」

「そうよ。私とあなたは元恋人同士って事。でもね、今は敵。私が貸した写真見たでしょ?」

 佐伯は私の腰に手を回してきた。

「見たよ。話も覚えている。私は希代のハンサムで不死身のドリアンだね」

「そう。そして、私は同じく不死身のミナ」

 私は佐伯をナイフで切付けた。

 佐伯は私から離れ、腕を押さえながら、私を睨み付けてきた。

「不死身とはいえ、痛みが走るんだ」

「でしょうね」

 私は佐伯を強く突き飛ばし、佐伯の胸と壁に剣を突き立てた。

「なっ!」

「あんたには話してなかったわね。私、この衣装をリクエストした頃からあんたを疑っていたのよ」

 佐伯は深く突き刺さった剣を抜こうとしていた。

「くっ…… だからって、この仕打ちはないだろ」

 私は佐伯にゆっくりと絵画を掲げる。

「あら。ちょっと違うけどストーリー通りよ」

 佐伯は顔を上げ、絵画を目にした。

「なっ、なんだ、その――」

 佐伯の悲鳴が部屋中に響き渡った。

 私は佐伯の顔を見る事が出来なかった。

 私はしばらく絵画を掲げたまま、固まっていた。ドリアンはここで死ぬのだ。いや、死ぬだけじゃない跡形もなく消えるのだ。

 絵画の下から佐伯の衣装が落ちるのが見え、息を吐いて、絵画を下ろした。

「三流とあなたが言った映画だけど、私は好きなのよ。有名映画だけじゃなく、ゲームだけじゃなく、漫画や小説も読んでおくべきだったわね」

 私は服を脱ぎ、下着一枚になり、足首に巻いていたテグスを手に取った。

 目の前が歪んで行く。






 目を開けると、サツキが抱き付いてきた。

「まどかっ!」

「ただいま」

 私はサツキに微笑み、サツキをベッドに寝かせ、服を羽織った。

「まどか、あいつは?」

「粉々になったわ。ストーリー通りに」

「粉々?」

 私はサツキに水を差し出し、頷いた。

「そうよ。私の事を知らな過ぎたのが敗因よ。でも、サツキは知っていた」

 サツキは水を受け取り、一気に飲み干した。

「美味しい…… まどかじゃなきゃ、気が付いてくれないと思ったの。あいつに掴まってからのメールはあいつに言われるままに打ってた…… 全然、自分がいうこと効かなかった…… でも、粉々って?」

 私はサツキに笑い掛け、DVDのジャケットを見せた。

「佐伯はこの映画を知らなかったのよ」

「わたしも知らない……」

「でしょうね。今度一緒に見ようね。ハチャメチャで超有名な映画や小説の登場人物が出てくる話よ。私が扮したミナ・ハーカーも、この映画の中で粉々になるドリアン・グレーも、みんな、小説の登場人物なの。でも、もう、コスプレは懲り懲りだわ」

 サツキは苦笑いを浮かべ、頷いた。

「わたしももう勘弁かな…」






 後日、メビウスから無数の遺体が発見されたニュースがテレビを賑わせた。

 携帯電話に元気になったサツキからメールが届く。




『ニュース見た? まどかが助けに来てくれなかったら、わたしもああなっていたんだよね……

 でもさ、なんで抜けられなくなったのかが、未だに分かんないよ』




 私は携帯電話を閉じ、向かいに座る男性の顔を見た。

「ごめんなさい。友人からだったわ」

「いいんですか、片平先生?」

 私『片平まどか』の担当編集者に笑い返した。

「急用じゃないから大丈夫。それより、その書き下ろし、どう?」

「いやー、実に面白く読ませて頂きましたよ! ファンタジックホラー作家片平先生の真骨頂ですねっ! 再来月号に載せます! 絶対に凄い反響あると思いますよっ!」

 私はその破顔に苦笑いを返した。

「転んでもただでは起きないですからね、私は」

「は? はあ…… まあ、経歴からすると、そうですね。で、タイトルは『永久の輪』でいいんですか? 主人公達は抜け出せているじゃないですか」

「いいの。主人公達は運良く抜け出せたかもしれないけど、他は抜け出せてないしね」

 男は頷いた。

「なるほど…… メビウスリングですもんねぇ……」

 私は編集者に笑い掛け、窓から見えるくすんだ空を見上げた。




 そう。

 永久の輪はそれに気が付かないと、抜け出せない。

 裏が表になり、表がいつの間にか裏になる。

 ゲームソフトやDVDで作られた永久の輪。




 メビウスリング――




  ―了―


後書きまでお付き合いいただき、誠に恐縮です。

この拙作は、以前登録していたブログに上げた作品を加筆修正したものです。


この拙作はオマージュと言うべきものなのでしょうか。

その辺の区切りが今一つ分かっていません。でも、二次創作ではないと思います。

うーん……

大きく括ると二次なんでしょうか?

その辺もよく分かっていません。


この作品のテーマであるコスプレは、この拙作を掲載していたブログでテーマやお題を募集した処、一番最初に書き込まれた単語でした。

同テーマ『コスプレ』で、もう一つ、拙作が上がっていますが、同時期に思い浮んだネタになります。



_/_/_/_/_/_/_/



これを加筆修正している途中で、陰惨な事件が起きてしまいました。

まさに、アキバが舞台のこの作品。

あの事件直後に掲載するのは、私の中の倫理観念上、かなり逸脱した行為だったため、今まで、掲載を見合わせてきました。

本来なら、被害者の方々、その関係者の方々の心情を汲み取り、お蔵入りさせるべき拙作かもしれません。

でも、お蔵入りはさせたくなかった。完成させた、たとえ出来が悪い作品であろうと、可愛い子には変わりはないのですから。

こんな小さな機械の中だけに置いておきたくはない。せめて、私以外の誰かに読んで欲しい。

馬鹿な親心だと、嘲笑してやって下さい。


あの陰惨な事件に巻き込まれてしまった被害者の方々に、改めて冥福を、関係者の方々のお心が少しでも早く晴れることを、さらに、謹んでお祈りいたします。



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