表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永久の輪  作者: 剣崎 輝
5/6

5

 目を開けると、そこは全く違う部屋だった。豪華絢爛といえば、いいのだろうか。だが、現実味がない。

 私はベッドから起き上がり、辺りを見渡した。明らかにデジタル的な色合い。外の景色も人工的な色合いだ。

「きた」

 私が推測していた通り。

 いや、サツキのメールがヒントになっていた。




『最近ね、良く夢見るんだ。

 フフフフ…… 夢の中でね、あたし、サクラなのっ!』




 ここはサツキが好きだったあのゲームの世界だ。

 ドアがノックされる。

「おはようございます、すみれ様」

 私はどうやら、すみれというキャラの服を着たらしい。ゲームに興味がなかった私は、さすがに名前までは覚えていなかった。

 私が黙って扉を見詰めていると、両開きの扉が開き、メイドが一礼をして、入ってきた。

「失礼します、お目覚めですか、すみれ様」

 私はそのメイドを見た瞬間、胃液が逆流してきた。




 顔が……


 顔が腐っている……


 腕の腐肉が落ち、青白い骨が見えている……




 だが、彼女は平然と動いていた。腐敗臭が部屋の中に充満する。

「今日のお召し物は如何なさいますか?」

「そんなのいいからっ! 近寄らないでっ!」

 私はベッドの反対側に尻込みをした。

 メイドは首を傾げていた。

「すみれ様?」

「いっ! いいからっ! サツキを呼んでっ!」

 メイドは首を再び首を傾げて、近付いてきた。

「すみれ様? 如何されましたか? サツキ様とは、どなたでございましょう?」

「だから、来ないでって、言ってるじゃないっ! えーっと、サツキじゃなくて、サクラよっ! サクラを呼んで来てっ!」

 メイドは合点がいったように頷いた。

「ああ。サクラ様ですね」

 メイドの口が上がると、ニチャという音と共に、頬の腐肉が崩れる。

 私は口を必死に押さえ、吐き気を我慢した。

「お呼びしてきます」

 メイドの言葉に何度も頷き、メイドが部屋を出て行った瞬間に、窓に走り、窓を全開にし、口を押さえたまましゃがみ込んだ。吐きたくなかった。極力、私を残したくなかった。私を残したら、後がどうなるか予測が付かないからだ。それにここにいた形跡を残したくないからだ。いや、知られたくないからだ。

 私は立上がり何度か深呼吸をする。

 緑がかなりたくさんあるのに新鮮な空気の気がしないのは、やはり、ゲームの世界、作り物の世界だからなのか。どこか肺に入ってくる空気でさえ、デジタル化した感じが拭い切れなかった。


 しばらくすると、ドアがノックされた。

「サクラだけ入れてっ! あんたは入って来ないでっ!」

 ドアの開く音がし、人が入ってくる気配がした。

「やっぱり来たね」

 その声に全身が粟立った。

 私はゆっくりと振り返りドアを確認する。よく分からないが、どこぞの軍隊の制服を着たあの佐伯が立っていた。

 私の眉間に力が入る。私がここに来たことは、早かれ遅かれバレるとは思っていた。だが、まさか、ここに入ってこれるとは考えもしていなかった。

 私の頭の隅で、サツキ奪回作戦が練り直され始める。どう考えようとこの状況下、ガチンコしかないだろう。ある程度、予測はしていたが、極力避けたかった。

 私は軽く息を吐き、口を開いた。

「佐伯……」

 佐伯は片眉を上げる。

「ほう…… 君はこの世界に縛られてないようだね」

 私は肩を竦ませた。

「お生憎様。私はこのゲームを触りしか知らない人間でね」

 佐伯も肩を竦ませた。

「たとえ知らなくとも、服を着てやってきた者は、必ず染まってしまうんだがな。君は余程、意志が強いのかな」

「さあね。取りあえず、サツキを返してもらうわ」

 佐伯は口の端を上げた。

「それはどうかな…… 帰る気が彼女にあるかどうか。サクラ」

 佐伯は少し後ろを振り返り、ドアを見た。

 ドアの向こう側からサツキが静々と入ってくる。

「お呼びですか?」

 私はサツキのやつれ具合に涙が出そうになった。

 行方不明になってから、この世界にきてから、何も食べていないのだろう……

 唇はガサツキ、髪はバサバサで目が窪んでさえきている。

「サツキっ!」

 私は佐伯を払い除け、サツキの肩を鷲掴みにした。

「すっ、すみれ様、なっなにを」

 サツキは驚いたように、私を見上げてきた。

 私は佐伯が言った言葉の意味を理解した。私の頭がフル回転する。私はサツキの手を引き、イスに座らせた。

「すみれ様?」

「座っててちょうだい」

 サツキは素直に頷いた。

 私は背にいる佐伯を振り返った。

「よーく分かったわっ! ここはあくまでも貴方の世界なのねっ! 貴方が作り上げたゲームの世界なのねっ!」

「いや、勘違いしてほしくないな。ゲームを作ったのは、ゲーム会社であり、そこのスタッフですよ。ただ、ゲームの世界に魅了された皆さんを、私はお連れしたに過ぎません。言うなれば、私はゲームのプレイヤーですかね」

 私は佐伯に微笑んだ。

「なるほど。じゃあ、あなたはこのゲームのプレイヤーであり、主人公なのね」

 佐伯は口の端を上げた。

「そう。そして貴方は登場人物の成りをしたゲームのバク…… 大変惜しい逸材ですが、消えてもらいましょう」

 佐伯はそういいながら、いつの間にか手にしていた日本刀を、ゆっくりと構えた。

 私は肩を竦ませた。

「バクね…… 確かにこのゲームにはバクかもね」

 私は腰から素早くナイフを取り出し、サツキの衣装を切り裂き、服を無理やり脱がせた。

「いやぁっ! 何をなさ‥る…… まっ、まどか?」

 下着姿のサツキは胸を隠しながら、私を見上げる。

「助けにきたよ、サツキ」

 サツキの瞳からボロっと涙が零れ落ちた。

「まどか……」

 私がサツキにもう一度笑い掛け、佐伯に視線を戻すと、佐伯は口を開け、何が起きたのか、まだ、把握出来ていないようだった。

「ウィルス性のバクって増えるんでしたよね」

「な…… なんて事をっ! 私の衣装を切り裂くとはっ! なぜ、切り裂けるっ!」

 私は口の端を上げた。

「私はこのゲームは知らない。でもね、ウチにもゲーム機ぐらいはあるのよ。貴方のゲームの中では貴方がプレイヤーかも知れないけど、私のゲームの中では、私がプレイヤー」

 私は腰にぶら下げてきたコントローラーを佐伯に見せた。

「衣装が貴方の世界に導くなら、衣装に付けてきた物はこの世界に持ってこれるのはセオリーよね。だって、人間の体さえ持ってこれるんだから」

 佐伯は肩を竦ませた。

「なるほど。頭がなかなか切れるようだ」

 私は口の端を上げた。

「どういたしまして」

 私はサツキにコントローラーを差し出した。

「サツキ。帰りな」

「まっ、まどか…… まどかはどうするの?」

「私の事は心配しないで」

 サツキは首を振る。

「いやっ! まどかも帰ろうよっ!」

 私はサツキの手にコントローラーを握らせる。

「もちろん、帰るわよ。でもね、きっちり、片を付けないとね。ゲームも終わらせなきゃ気持ち悪いでしょ。サツキのゲームはここでお終い」

 私がコントローラーから手を放すと、泣き顔のサツキの顔が歪みグニャグニャと揺れながら、消えていった。

「――さてと」

 私は目の前にいる佐伯に口の端を上げる。

「こんな気色悪い悪趣味なゲーム、とっとと終わらせるわよっ!」

「コントローラーを手放して何が出来る?」

 佐伯は日本刀を振りかぶっていた。

 私は慌ててその白刃から逃げながら、服を脱ぎ、佐伯に投げ付けた。

「悔しかったら追いかけてきなっ!」

 私の服を被り振り払っている佐伯の姿が歪んでいく。

 次は佐伯も何度も見たと言っていた映画だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼らの曲から新たな物語を!
書きませんか?
読みませんか?
まーったりロング企画
『TM Networkの楽曲オマージュ小説』
企画概要→どんな企画?
参加表明BBS→参加する!
感想・交流BBS→お話しする!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ