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「………そうだよ」


「いいなぁ、お囃子やってみたいわ」


何が『いいわ』だよ。こっちは嫌々やってるんだぜ。

中学二年生にもなって何が悲しくてお囃子の稽古してると思ってるんだよ。

僕は心の中でそう叫んだ、だがしかしその言葉をそのまま口にすることはしなかった。

なぜなら言っても多分相手には伝わらないだろうと思ったからだった。

麦わら帽子を頭に乗せて笑っている彼女の笑顔はとても素敵に思えたのはこの時だっただろうか。



「やば……休み時間終わっちゃう……」


「もう行くの?」


「うん。まだ稽古があるから……」


「どこでやってるの?」


「あそこの神社の境内だよ」


「へぇ、あそこでやってるんだ。私、見に行っても良いのかしら?」


「―――勝手にすれば……」



僕は無頓着な彼女にそう冷たくあしらった。

そんな彼女は笑顔で頷くと神社まで案内してほしい、と言ってきたのだ。

何て珍しい奴なんだろう。

僕はそう思った。


境内へ向かう途中何人かのお囃子参加組と遭遇することになってしまい、後ろの彼女の事を見ながらヒソヒソ話しているのを目にした。

恥ずかしかった、すごく……。

僕は黙ったまま早歩きで境内へ向かった。

けど偶に振り返ってみると、彼女は後ろで涼しい顔をしながら僕の後ろを歩いていたのだ。



境内へ着くと休憩していた連中たちが撥を持って太鼓を叩きながら……、笛を鳴らしながら、大人たちの熱心な指導を受けていた。

皆、真面目過ぎるんだよ、こんな行事無くなればいいのに……。

僕は心の中でそう思った。

境内の中へ入ると後ろから突いて来ていた彼女が麦わら帽子を取り城のサンダルを丁寧に入り口の隅に片づけると素足で境内の中へ入って行った。



「此処が練習場なのね。素敵な場所だわ……」


「何が素敵だよ……臭いし、暑いし、面倒くさいだけだろ……」


「あら、そんなことないわよ。皆一生懸命練習してるじゃない。貴方は何をするの? 太鼓? それとも笛?」


「―――太鼓だよ」


「わぁ…素敵。しっかりと練習見させてもらうわね」



クスクス、と笑いながら境内の隅っこにある座布団の上にちょこんと座って笑顔で周りの風景を見つめていた。

まるで見たことも、行ったこともないレジャーランドに来ている子供のように目を輝かせて。

不思議な子だった。

僕は練習に戻り稽古が再開された。


大人たちは子供たちが練習するお囃子の稽古に熱心だった。

彼女の存在は瞬く間に回りから受け入れられて、何処かの子供の母親達の群れが彼女の周りには出来ていた。

僕は偶にちらっと、ほんのちらっとだけその風景を見つめていた。

本当に花になる絵面だった。

一際輝く白のワンピースを身に着け黒くて艶やかな黒髪を靡かせていたのだ。



本当にどこの子なんだろう。

誰も知らないのか? 

僕と彼女の出会いは此処から始まったのだ。

鳴り響くお囃子の太鼓と笛の音を奏ながら僕と彼女が一つの空間に入っていくのが分かった。



後に彼女が転校生だったことが判り、学校中の男子たちのアイドルになっていったのは言うまでもない。

それくらい美人で綺麗で、そして華があったからだ。

僕はそんな男子の中に紛れながら密かに彼女の事を見つめていた。

しかし彼女はそんな僕の事にはお構いなしに毎日のように学校で話しかけてくるのだった。

彼女は東京の都心からやって来たらしい。

此処は田舎の中の田舎。


彼女の振る舞いや容姿は目立ってしょうがない。

同じクラスになってしまった僕に一番接しているのだ。

それを他の男子共が羨ましがって怖い顔で睨みつけ指をくわえているのだった。

いつかあいつらに殺されるかもしれない。

僕はそう思った。





夏休み、彼女は毎日のように神社に来てはお箸の稽古を見学していた。

飽きないのか? それとも他に行くところもないのか。

僕は心の中でそう思いながら練習に励む。

そんな僕の姿を見つめていた彼女は時々目が合うとにこっと笑顔で笑い返してくるのだ。

その度に僕の心はドキッとしてしまう。

まるで何かに憑りつかれたような感覚になるのだ。



そんな日々が夏休み中ずっとだった。

僕と彼女との出会いはあの神社の裏手にある自販機の前。

それから夏休み中ずっと彼女は僕の心の空間に居座っているのだ。

彼女の正体がわかったのは夏休みの間にあった登校日の事だった。



「貴方もここの学校だったのね。改めて初めまして、ひいらぎ 柚葉ゆずはです。宜しくね」


「―――今更何だよ。僕はいずみ まこと


「泉君か。初めて名前知ったよ。ずっとお囃子の練習に言ってたけど名前教えてくれないんだもん。私も言いづらくってさぁ~」



彼女はそう言うと他の女子たちの所へ向かって行ってしまった。

その光景を見ていた男子たちが僕の傍に寄って来て根掘り葉掘り訊いてきたのは言うまでもない……。




彼女は本当に不思議な子だった。

あの時から僕はそう思っている。

ただ言えるのは僕は彼女に恐らく恋心を抱いてしまったのだろう。

彼女の事が頭から離れないのだ。

時々胸が締め付けられるような感覚に陥ることもある。



川添祭りまであと一週間に迫った。

僕は祭りに参加する事より彼女がその祭りに来ることの方が緊張してしまう。

焦って間違った演奏をしてしまわないだろうか。

そればかり考えながら今日も練習に参加していた………。

夏の暑い中、蝉たちが忙しく鳴き喚いていた。

企画参加させて貰いました。少し文字数を超えてしまいました。この続きを……書けたらいいなと思いつつ完結します。ご覧頂いた皆様方、本当に有難う御座いました。御礼申し上げます………。

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