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東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜  作者: ODA兵士長
東方夢喰録
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第9話 追懐 –– ツイカイ ––




––––私はいつも1人だった。





幼い頃から、どこか冷めていた私は、同年代の連中が馬鹿に見えて仕方がなかった。

そんな風に思っていた私は、当然のように周りから浮き、そして嫌われていた。

友達なんてものは出来るはずがなかった。



家に帰れば、父が母に暴力を振るっていた。

私は部屋にこもり、怯えることしかできなかった。

母はいつも私に謝っていた。

父は私に無関心だった。



しかし、私が成長していくにつれて、父の私を見る目がおかしくなっていた。

私が中学生の頃だった。

父が私に手をかけた。

私は恐怖で抵抗できなかった。

そんな私を助けたのは母だった。



母は狂ったように泣き叫び、そして刺した。

ナイフで父を刺した。


何度も……


何度も……



何度も、何度も、何度も––––


















––––気づけば私も、父を刺していた。









既に息絶えた父は、無抵抗に刺されている。

私は声も出さずにナイフを突き刺す。

そして抜いて、また突き刺す。

それを繰り返す。

その感触は驚くほど柔らかいものだった。


––––ほんの少しだけ、愉快だった。




父は死に、母は有罪判決となった。

私は母に庇われ、無罪となった。

この事件は、かなり大きなニュースになった。

母の判決に関して、世の中の意見は割れていた。

最低な父親を持った母と娘に同情する人々。

一方で、狂った母親に恐怖し極刑を求める人々。



しかし少し経てば、そんな事件のことは人々の記憶から消えていた。




両親を失った私は、引き取ってくれるような身内もおらず、一人暮らしをする余裕もなかったため、施設に預けられた。

施設での生活は、よく言えば穏便なものだった。

事務的な作業として世話をする職員。

目の光を失った子供達。

誰も私に干渉しない、快適な空間ではあった。

しかし同時に、刺激が無さすぎた。


そんな施設で1年ほど過ごしたある日のこと。

私は、夜中に施設を抜け出した。






1本のナイフを手に––––







私は、あの時の感覚が忘れられなかった。

柔らかい肉を切り、温かい血に染まる。

あんなにも刺激的で興奮することなんて……他にない。

私は獲物を求めて、ひたすら歩いていた。







どれほど歩いただろうか?

まだ夜明けにはなっていないが、かなりの時間が経ち、もうここがどこだか分からなかった。

そんなとき、私は猫を見つけた。

そして私は笑っていた。


私はその猫に近づいた。

猫は私に気付いたが逃げなかった。

いや、逃げられなかったのだ。

その猫は足を怪我していた。


私はさらに、その猫に近づいた。

猫は私を威嚇していた。

しかし、その威嚇に何の恐怖も感じない。

寧ろ、その反応が私の気分を煽った。



そして私は満面の笑みで、ナイフを振り上げた––––















「––––何してるの?」


私はナイフを振り下ろす直前で固まった。


「何を、しようとしているの?」



––––ドクンッ



私の心臓の鼓動が響く。


「だんまりかしら?」

「…………」

「……まあいいわ。貴女、ここがうちの庭だって知ってる?」

「…………は?」

「貴女、不法侵入よ」

「…………?」


ふと、左手に大きな館があるのが見えた。


「気づいてなかったみたいね。はぁ……うちの門番は一体何をしてるのかしら。勤務時間外だけど」

「……」

「貴女、どこから来たの?名前は?」

「……忘れた」

「忘れた?何?記憶喪失とでも言うの?」

「……名前なんて、私にはない。帰る場所も、ない」


父に付けられた名前があるが、あんな名で呼ばるなど不愉快だった。

名付け親が母なら、こんなこと思わなかったかもしれないが。

そして帰る場所がないのは……本当だ。


「へぇ……なんだか訳ありみたいね」

「……」

「私はレミリア。レミリア・スカーレット。この館の主よ」

「主……?貴女が?」


レミリアというその少女は、明らかに私より年下の、まだあどけなさが残る幼い容姿だった。


「そうよ。私はスカーレット家の跡取り娘。将来が約束された存在なの」


レミリアは自分の立場に誇りを持っているようだった。


「そうだ。貴女、ここでメイドとして働いてみないかしら?どうせ帰る場所どころか、行く場所すらもないんでしょう?」

「私が……メイド?」

「そう。なかなかいい案だと思うのだけど、どうかしら?」

「なんで?」

「ん?」

「なんで、見ず知らずの私なんかを雇おうだなんて思うのよ?警戒しないの?」

「庭をウロつかれるよりはマシよ」

「だからって警戒心なさすぎだと思うわ」

「すぐに貴女を消してやってもいいのよ?」


レミリアは私を睨む。

その目は、正直怖かった。


「ッ……まあ、私にとっては悪い提案じゃないしね。いいわ。メイド、やってやろうじゃないの」

「ふふっ、威勢のいい人。でも、ここで雇う前に、その口の聞き方なんとかしないとね」


レミリアは私に近づいて来た。

ナイフを持ってるこの私に、怯むことなく。


「は?………………っ!?」


一瞬だった。

右手と襟元を掴まれた所までは覚えている。

その後は何があったのか、理解できない。

気づけば私は、地面を背にして天を仰ぎ、ナイフを失っていた。


「私のことはお嬢様と呼びなさい。そして、敬語も忘れないようにね」

「……は、はい」

「さて、貴女の名前を考えましょうか……」

「え?」


お嬢様は、うーんと、首を唸りながら考える。


「そうねぇ……んー…………あっ」


お嬢様は空を見て、何かに気づいたようだった。


「ねえ、貴女には、あれが何に見える?」


お嬢様は空を指差し、私に問う。

そこには大きな月があった。


「……満月、ですか?」

「惜しいわね。あれは満月じゃないわ」


お嬢様は視線を私に落とし、年相応の可愛らしい笑みを浮かべた。


「あれは十六夜。そんな夜に咲かせた出会いの花」

「……」

「十六夜……咲夜。これが貴女の名前よ」

「お……お嬢様……」

「惚れたかしら?月が綺麗、なんて言わせないわよ」

「死んでもいいわ」


お嬢様は呆れたようにため息を吐き、そして言う。


「敬語を使いなさい」


私は手首を捻られた。












「お嬢様!!!」


遠くから、お嬢様を呼ぶ声がした。

そしてその声の主はこちらに走ってくる。


「こんなところにいらしたんですね!もう、夜中に抜け出すのはやめて下さいとあれほど……」

「私は夜行性なのよ」

「明日は朝から、妹様と出かけるのでは?」

「…………あ」

「起きられなくても知りませんよ?」

「えっ!?なんでよ!起こしてよ!」

「言うこと聞かない人の言うことなんて聞きませんっ!」

「なによ!ケチ!アホ!ダメーリン!」

「ひ、ひどいです!名前をいじるなんて最低です!」

「はぁ……分かったわよ。朝は自分で起きるわ……それよりも」


お嬢様は私の方に振り返った。


「あの子は、今日からこの館で働く十六夜咲夜。教育係は貴女が適任ね。よろしく頼むわ、美鈴」

「え!?い、いきなり!?というか、私ッ!?」

「貴女、世話をするのが好きなんでしょ?例えば……そこの野良猫とか」

「ば、バレてたんですか……?」

「当たり前じゃない。私はこの館の主よ?」

「ッ……恐れ入りました」

「分かればいいのよ。じゃあ、よろしくね。私は部屋に戻って明日の為に寝るわ。あ、1人で戻れるから、2人で話してていいわよ」

「はい。お休みなさい、お嬢様」

「ええ、お休み美鈴。咲夜もね」

「お、お休みなさい」


お嬢様は欠伸をしながら、館の方へと消えていった。


「それで、貴女が新しいメイドさんなんですか?」

「ええ、そうよ」

「なんでまた、この館でメイドなんか……それにこんな時間に」

「流れよ。深い意味なんてないと思う。私に合わなかったら出て行くつもりだし」

「そ、そんな勝手な……はぁ、お嬢様も変わった人を気に入ったんだなぁ……」

「気に入った?」

「え?ああ……まあ、なんでもないですよ」

「……それにしても、あの子が本当にこの館の主なの?」

「はい、そうですよ。この館はお嬢様の"お小遣い"で建てられたものです。両親はイギリスに住んでいますが、お嬢様が日本で暮らしたいと希望されたため、こうして別々に暮らしているらしいです。お父様もお母様も仕事で世界を飛び回っているので、イギリスに住んでいるという表現も正しくはないかもしれませんが」

「へぇ……世の中にはいろんな人がいるのね」

「ええ、この世界は本当に広いので、想像もつかない人や出来事なんて幾らでもあるんです」


何故か物知り顔で言う、赤毛の女。

私より長身で、何よりその胸に目がいく。

私なんか……………………コホンッ


「とにかく、貴女のお世話は私が任されましょう!私は(ほん)美鈴(めいりん)。この館で門番をしています」

「門番?門番なんかにメイドの仕事がわかるの?」

「少し前まではメイドだったんですよ」

「へぇ……なのに今では館の外に追い出されちゃったのね?」

「ち、違いますよ!私はメイドながらも、腕が立つので……適材適所というやつです」

「なるほどね。つまり脳筋ってことでいいかしら?」

「違いますよ!?」



こうして、私はこの紅い大きな館––––紅魔館で働くことになった。






私の教育を任された美鈴は、さすが元メイドなだけあって、家事を卒なくこなしていた。

しかし、どこか不器用な面があった。


その点私は、やはり難なくこなすことが出来た。

分からないことでも一度見れば覚えられるし、教えられたことを応用することもできた。

美鈴から教わることは、早くも無くなっていった。



「咲夜さん、本当に優秀ですよね」

「そうかしら?私は普通にしてるだけなんだけど」

「いやいや、普通はこんなに早くできるようになりませんよ!もう私より手際いいじゃないですか!」

「それは美鈴が脳筋だからよ」

「だから違いますって!」


美鈴は全力で否定する。

最近はこのときの美鈴の表情が面白くて、何度も振ってしまう。


「にしても、真面目な話。咲夜さん、異常に出来ますよ。やはりお嬢様には"視えて"いたんでしょうか?」

「見えてた?何が?」

「お嬢様は、たまにこうおっしゃるんですよ」


美鈴が腰に左手を当て、右手で顔を覆う。

そして指の隙間から目を光らせながら言った。


「私には、運命が視えるのよ!」

「……ぷっ、なにそれ」


私はたまらず吹き出した。

美鈴は続けて、両手を胸の前に置き、こう言った。


「運命を操るなんて、私には容易いわ」

「あははっ。なんか、言いそうね」


私は堪えきれずに笑い声をあげた。

美鈴も満足そうな顔をしてから、一緒に笑った。



「––––2人して私の悪口なんて、いい度胸ね」

「「ッ!?」」


私たちは硬直した。

恐る恐る、声のする方へと視線を向けた。

するとそこにはレミリアお嬢様––––




––––の妹である、フランドール・スカーレット様がいた。


「どう?私も似てた?アイツの真似!」


妹様は輝かしいほどの笑顔を向けていた。


「い、妹様……心臓に悪いですよぉ……」


美鈴が弱々しい声を出す。


「それに妹様、お嬢様をアイツ呼ばわりは……」

「いいじゃん、アイツはアイツでしょ」

「こらこら、お姉様をアイツ呼ばわりしないの」

「あら、居たのねお姉様」

「「お、お嬢様!?」」


振り返ると、お嬢様は私達を見てニッコリと笑っていた。


「2人にはお仕置きが必要ね」


気づけば私達は2人とも、天を仰いでいた。





「痛たた……」

「ねえ美鈴」

「なんですか?」

「貴女、腕が立つんじゃなかった?」

「お嬢様には敵いません」

「なんでお嬢様、あんなに強いのよ……」

「なんでも、護身用に柔道を習われたそうです」

「相当有名な人が教えたんでしょうね、あんな小さい体で私達二人を捻るなんて……普通考えられないわ」

「本当です……イタタタ……」



「ねぇ2人とも。聞こえてるわよ?」


天を仰ぐ私達を見下ろして、お嬢様は仁王立ちしていた。


「随分と仲良くなったみたいね。貴女たちは私の家族みたいなものだから、笑い合ってくれるのは本当に嬉しいことよ。でも––––」


お嬢様の眼光が鋭くなる。


「––––主人を笑うなんて、どうかしてるわ」


お嬢様が私達の腕を捻る。

痛みを訴え、もがく私と美鈴。

その光景を見ながら笑う妹様。


そんな環境に、私は心地良さを感じていた––––








*キャラ設定(追記あり)

キャラが増えてきてこのコーナーが長ったらしくなってしまった為、今回からはその回の登場キャラのみの設定を載せていきます。



○十六夜咲夜

「いいわ。メイド、やってやろうじゃないの」


16歳になる程度の年齢。(3年前)

容姿端麗で、頭が良く、運動神経も抜群。

だが、それ故に周りを見下す為、友達はいないようだ。

中卒で紅魔館に就職した模様。




○レミリア・スカーレット

「すぐに貴女を消してやってもいいのよ?」


11歳になる程度の年齢。(3年前)

義務教育?なにそれおいしいの?的な英才教育を受けに受けまくった天才児。

えいさいきょーいくってすげー。

『うー☆』なんて言わないカリスマ系お嬢様(のつもり)




○フランドール・スカーレット

「今の紅魔館じゃない!あの何でもない日々が良かったの!」


6歳になる程度の年齢。(3年前)

純粋無邪気。

狂気なんてないよ、たぶんね。

ただ、悪戯は好き。レミリア相手には特に。

……実はレミリアよりも、頭が良かったりする。

(勉強が出来るという意味ではなく、思考力という意味で)




○紅美鈴

「私はメイドながらも、腕が立つので。適材適所というやつです」


25歳になる程度の年齢。(3年前)

元メイドの現門番。

居眠りなんてしません。夜中に入り込んだ咲夜が悪い。

お嬢様相手に手加減しているため、ガチで戦ったら余裕で美鈴が勝ちます。

実は強い美鈴。

ただ、腰が低い。

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