第1話 大団円 –– ハッピーエンド ––
本編の後日談になります。
軽い気持ちで見てやって下さい。
––––ガチャ
扉が開かれる。
そこには大勢の者がいた。
無駄に広いと思っていたこの家も、これだけの人が入れば些か窮屈に思える。
「母さん、待ってたわよ」
扉を開けた私の義娘––––十六夜咲夜が私に言う。
彼女が取り仕切り、食事の支度をしていたようだ。
テーブルに盛り付けられた豪勢な料理を見るに、もうほとんど準備は終わっているようだ。
「ありがとう、咲夜。準備していてくれたのね」
「料理は好きだし得意だから構わないわ。それにこれは、母さんへの感謝でもあるのよ」
「私への感謝……?何故かしら?私は恨まれても良いほどなのに」
「誰も永琳を恨むことはないさ」
会話に割って入ってきたのは妹紅だった。
「この世界では、ユメクイなんてモノは初めから存在しなかったらしいからな」
「……どういうこと?」
「そのまんまさ。私達の様に"あの世界"の記憶がない者には、ユメクイ––––まあ、窒息死と言った方がいいかな。その記憶は誰にも無いんだよ。何故だかは知らないけど」
「だとしたら……霊夢のおかげね」
私は目線で霊夢を探す。
レミリアとフランドールが、妖夢と優曇華を交えて何かを話している。
その少し離れたところで、霊夢は魔理沙と紫、ルーミア、そしてアリスと共に話していた。
私が霊夢を見つけると同時に、彼女は私に視線を移した。
まるで、私が彼女を探していたのを見抜いていたかのように。
これも彼女の鋭すぎる"勘"ゆえのことだろうか?
そんなことを思っていると、霊夢が私に近づいてきた。
「何よ。人のことをジロジロと……」
「いえ、ごめんなさいね」
「なんか用かしら?」
「そういうわけじゃないわ。ただ、お礼が言いたいと思っただけよ」
「礼?なんの?」
「まあ、いろいろよ。貴女には感謝してるわ」
「ふーん。まあ、感謝されて困ることはないから、されといてあげるわ」
そう言うと霊夢は元の場所へと戻ろうと蹄を返す。
「待ちなさい、霊夢」
私は霊夢を引き止めた。
「……やっぱり用があるの?」
「そうね、あるわ。実は––––「お母さんのこと?」
霊夢は私の言葉を遮り言った。
「えっ……?」
「来てるんでしょう?」
「どうして……?」
「分かるわよ。まあ、ただの勘だけど」
「そう、流石ね。残念だわ……」
「残念?」
「驚く貴女が見れると思ってたのに」
––––ガチャ
「なかなか広い家ね」
––––でも、私の紅魔館には敵わない。
今日付で紅魔館の主に戻った私––––レミリア・スカーレットはそんなことを考えていた。
ユメクイに喰われた私は1年間昏睡状態にあったわけだが、美鈴の話によれば、私は若年性脳梗塞により意識不明の重体だったらしい。
まあ、似たような状態だったのだが、記憶が改竄されている。
そして咲夜は、明日からメイドとして復帰することになった。
しばらくは美鈴がメイド長として就き、咲夜が仕事の慣れを取り戻したところで1年前と同じ配置にする予定だ。
これらを首尾よく取り決めたのは、私の代わりとして1年間主を務めていた我が妹––––フランドール・スカーレットである。
そのフランが私に言う。
「お姉様、それ嫌味になるよ」
「紅魔館の方が広いのは当たり前でしょう?あそこは私達だけが住んでるわけじゃなもの」
「そうね。確かに、2人で暮らすには勿体無いくらいの広さだわ」
「だから嫌味でも何でもないのよ」
「あの……フランちゃん?」
フランに話しかけたのは、ウサ耳が特徴的な少女––––鈴仙・優曇華院・イナバだった。
その傍らには魂魄妖夢もいる。
「何?」
「あ、あの……その、えっと……あ、謝りたくて……」
鈴仙は何故か、酷くオドオドした様子だった。
「あぁ……咲夜から聞いたよ。あの時のお姉様は貴女だったって」
「ご、ごめんなさいっ!酷いことばかり言ってしまって……」
「そうだね。私には辛い言葉だったわ」
頭を下げる鈴仙に、フランは近付き、頭の上に手を軽く乗せた。
「でも、咲夜に許してあげて欲しいって言われてるの。それに今はもう、お姉様も咲夜も帰ってきて、元通りの紅魔館になったからどうでもいいよ。……あー、でもやっぱりちょっとムカつくから––––」
フランは鈴仙の付け耳を片方だけ取り外す。
「これ没収♪」
「なっ!?ちょ、ちょっと!それは流石に––––あれ?なんで……?」
顔を上げた鈴仙は、何かを隠すように頭に手を当てた。
そして鈴仙は、何故か目を見開き、疑問を唱えていた。
「髪が、ある?どうして傷が……?」
「鈴仙?」
声を掛けたのは側にいた妖夢だった。
「あ、その……ううん、なんでもないわ」
「そっか……?まあ、でもなんだか……嬉しそう」
「え……?」
鈴仙は困惑しつつも、口角が少し上がっていた。
「ねぇお姉様、似合う?」
片耳だけのウサ耳を付け、私に向かって首を傾げながら問うこの天使は誰だろう?
「お姉様?」
「あ、え、いや……似合うわ。ええ、とっても」
「やったぁ」
そう言って笑う姿は可愛すぎる。
流石は我が妹だわ、と訳のわからない自賛をしていた。
「美味しそうな匂いだぜ」
「そうね。咲夜は本当に料理が上手だから」
「私も一度頂いたけど、かなり美味だったわ」
「お前ら2人がそこまで褒めるなんて、相当期待していいみたいだな」
私たち3人は次々とテーブルに並ぶ料理を見ながら、その匂いを楽しんでいた。
目と鼻で料理を楽しんでいると、すぐにお腹が空いてきた。
早く口でも楽しみたいものだ。
「魔理沙〜助けて〜」
「うぉっ!?ルーミア、どうしたんだ?」
ルーミアが突然魔理沙に抱きついた。
「アリスがいじめる」
「いじめてないわよ」
アリスが遅れてその場に来る。
「幼女虐待か。感心しないな」
「だから違うって……」
「アリス、こいつとまともに喋ってたら疲れるわよ?」
「霊夢ひどいぜ」
「魔理沙は面倒だけど面白いよ」
ルーミアが、フォローになってないフォローを入れる。
「おい、面倒とはなんだ面倒とは」
「"面白い"の方を強調したつもりなんだけど」
「そーなのかー」
魔理沙は腕を横に広げる。
「……真似しないでよ」
「嫌なのかー?」
「え、なんか……キモい」
「辛辣すぎて泣きそうだぜ……」
腕を落とした魔理沙は、視線も落とし、涙をも落としそうだった。
「そんな顔しないでよ、面倒だから」
「うぅ……私は悲しいぜ」
「やっぱり疲れるかも、魔理沙と話すの。霊夢の言う通りだね」
「でしょう?伊達に魔理沙と長い付き合いじゃないわ」
「霊夢は魔理沙が大好きだもんね」
「霊夢が私を……?」
「……ルーミア、変なこと言わないでよ」
「あらあら、聞き捨てならないわ」
「どうしてあんたがここで話に入ってくるのよ、紫」
「霊夢が1番好きなのは私でしょう?」
「はぁ?」
「あら、違うのかしら?お母さん悲しいわぁ」
「誰が母さんよ」
私が1番好きな人なんて、決まっている。
––––ガチャ
その時、扉が開かれた。
「黒幕の登場ね」
紫が呟く。
咲夜が開けたドアの向こうには八意永琳がいた。
咲夜と少し話しているようだ。
「黒幕って……まあ、確かに永琳はそういう立ち位置になるの?」
「彼女が居なければ、ユメクイなんて生まれなかったのよ?」
「そうだけど……永琳が居なければ、あんたも魔理沙も、それにルーミアやレミリア、フランだって……こうして笑い合えることはなかったかもしれないのよ?」
私は辺りを見渡す。
それぞれいろんな表情を浮かべているが、誰1人として負の表情を浮かべているものは居なかった。
それぞれが、それぞれの幸せを感じている。
まさに、ハッピーエンドと言えるだろう。
「それに、お母さんだって––––」
「え……?操夢が、どうして出てくるのよ?」
「お母さん、多分生きてるわよ」
「どうして……?」
「なんとなく、そう思っただけ。ただの勘よ」
「ただの勘……ねぇ」
「ちょっと永琳と話して来るわ。なんだかこちらを見ているようだし」
私はその場を離れ、永琳の下へと向かう。
「何よ。人のことをジロジロと……」
「いえ、ごめんなさいね」
「なんか用かしら?」
「そういうわけじゃないわ。ただ、お礼が言いたいと思っただけよ」
「礼?なんの?」
「まあ、いろいろよ。貴女には感謝してるわ」
「ふーん。まあ、感謝されて困ることはないから、されといてあげるわ」
私が戻ろうとすると、永琳は呼び止めた。
「待ちなさい、霊夢」
「……やっぱり用があるの?」
「そうね、あるわ。実は––––「お母さんのこと?」
私は永琳の言葉を遮る。
「えっ……?」
「来てるんでしょう?」
「どうして……?」
「分かるわよ。まあ、ただの勘だけど」
「そう、流石ね。残念だわ……」
「残念?」
「驚く貴女が見れると思ってたのに」
––––ガチャ
再び扉が開かれた。
それを開いたのは、紛れもない、私の母だった。
「沢山、人がいるのね」
予想できていたことであった。
今となってはここは現実世界だが、一応元は私の夢だ。
普通の人間ならば、ここが夢であることに気付くことすら出来ない。
しかし、夢の世界に精通している者––––ユメクイならば、話は別かもしれない。
夢の世界と同様に、体の異常が消え、そしてこうして私の前に姿を現わすことが––––
「お母さんッ!!!」
私は母に抱きついていた。
この衝動を、私は抑えられなかった。
大好きな––––本当に大好きな、私のお母さんだから。
「れ、霊夢?」
「お母さん、お母さんッ!!!」
「ふふっ––––おはよう、霊夢」
私は母を全力で抱きしめる。
母もそれに応えるように、私の身体に腕を回す。
「驚く……とは違ったけど、意外な霊夢の一面が見れたわね」
「そうね。操夢を連れて来れば騒ぎになるとは思ってたけど、まさか霊夢が赤ちゃん返りするなんて思わなかったわ」
咲夜と永琳が、私を茶化すように話している。
「ごめんね、霊夢。たくさん迷惑かけちゃったわ」
「ううん、平気よ。お母さんの為なら、なんでもないわ」
「嬉しいことを言ってくれるのね」
母は私の頭を撫でた。
「なんだか妬けちゃうわ」
「あら紫。貴女も撫でて欲しいの?」
「違うわ。どうしてそうなるのよ」
紫が私と母の間に割り込むように、横槍を入れた。
「私の方が霊夢と居た時間は長いのよ?それなのに……やっぱり本物の母には勝てないのかしら」
「紫……確かに、霊夢をこうして育ててくれたのは貴女なのよね。本当にありがとう」
「貴女に頼まれたんだもの。当然のことをしただけよ」
「私、頼んだかしら?」
「覚えてないならいいわ」
「……ねぇ、紫」
私は母から離れ、紫の下へと向かう。
「私を育ててくれてありがとう––––"母さん"」
「––––ッ!!」
私が微笑みかけると、紫は目を見開き……そして頰に涙を零していた。
「準備が出来たみたいね。宴会を始めましょうか」
永琳のその言葉を機に、私たちは各々椅子に腰掛けた。




