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東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜  作者: ODA兵士長
東方夢喰録 EXTRA
34/52

第4話 能力 –– ノウリョク ––





「……随分と立派だな」


そこには竹林が広がっていた。

まるで高層ビルのように背の高い竹が、辺りを覆い茂っている。

私はその竹を見上げていた。


辺りを見渡せば、驚くほど視界が悪い。

一度迷い込めば、出て来られる保証はないだろう。

しかし、ここがどこなのか––––




––––私には分かった。

感じることができた、という方が正しいかもしれない。


ここは私の世界だ。

それは一瞬で理解できた。

とは言え、何もかもが初めて見るもので戸惑いを覚えているのは確かだ。

私はもう一度辺りを見渡す。



「……にしても、腹が減った」



私はひどい空腹感を覚えていた。

こんなに竹が生えているのだ。

筍が生えていてもおかしくはない。

もし見つけたら食べてしまおうか。


あ……生の筍って毒あるんだっけ?


「まあ、焼けば食えるか?」


そんなことを思いながら、無意識に左手の手の平から炎を出す。




「……ッ!?!?!?」


人体が自然発火している。

しかも、私の手だ。

驚かないはずがない。


だが––––



「熱く……ない?」



私の手は燃えている。

しかし、熱さは感じない。

まるでこの炎が、私の身体の一部であるかのようだ。


ふと、右手からも炎を出してみた。

当然のように出すことができる。


次は、目の前の竹に向かって炎を投げてみた。

火の玉が飛んでいく。

当然、竹に火がつき燃え出した。


私はいい気になって、次々に炎を出して竹を燃やしてみた。

先ほど同様に火の玉を投げてみたり、竹に直接炎を出現させてみたり、火で生き物を形作ってぶつけてみたり……

様々な方法で、竹を燃やした。


そして、気づいた。

結構暑い……というか、熱い。

どうやら、私の手を離れ、私の管理下に無くなった炎は熱いようだ。

周りの竹が燃え、かなりの熱を持っている。


てか……私ここから抜け出せないんだけど?


調子に乗りすぎた。

私は少し焦っていた。

このまま燃え死んだらどうしよう?




その時だった。

突然、竹が爆発した。

文字通り爆竹のように、大きな音を立てて爆発したのだ。


竹の中身は空洞であり、空気が入っている。

それが熱せられて膨張し、爆発したのだ。


熱風と共に、燃えた竹の破片が飛んでくる。

避けることは叶わず、私にその破片が刺さる。

酷く熱い。そして痛い。


私は情けない声をあげながら、竹に謝っていた。

しかしそんな私の声は届かず、破片が次々と飛んでくる。

その破片の1つが、私の喉に突き刺さった。


息ができない。


苦しい。


え、私このまま死ぬの……?


























––––なんだこれ?



私は宙に浮いている。

実体を持たない魂として。

私の目ではない何かで、辺りを眺めていた。

私の肉体は燃えて消滅した。

それは爆竹による熱や炎で消滅したわけではない。

私の肉体は、自主的に発火し、燃えて無くなった。



––––死んだのか?私は……



違う。

死んでない。

直感的にそれが分かる。

そして、次に生き返ることも容易だった。

あの辺で生き返ろうか。

そう思うだけで、次の瞬間には私の肉体は再生していた。


「なんだ、この力……」


私は燃える竹林を、空から眺めていた。

今の私には身体がある。

自らの目で、しっかりと眺めている。

私の体は、宙に浮いている。


「私……どうしちまったんだ?」

「貴女が、今度のユメクイなのね?」

「れ、鈴仙!?」


私が振り返ると、そこには鈴仙がいた。

そして彼女も、空を飛んでいる。


「やっぱり……あの薬の効果かしら。それにしても、どうして私ばっかり集められるんだろう……?」

「何の話をしているんだ?」

「ああ、気にしないで。こっちの話だから」


いや、そんな言い方は逆に気になる。

そう思いながらも、私は突っ込まない。

それ以上に私の心を占める思いがある。








––––こいつ、美味そうだな。









「なんでもいい。とにかく今は、腹が減ってるんだ」

「ああ、もう。どうして私ばっかり……」

「とりあえず喰わせろッ!」


私は炎を鈴仙へと向ける。

焼いたら美味そうだし。

しかし私の炎が届くよりも先に、私の右肩に風穴が空いていた。

炎の操作などする余裕はなくなり、鈴仙は軽々とそれを避けていた。


「な………ッ」

「捕食は諦めなさい。夢を崩壊させて、急いで病院に来て」

「……いっ……てぇ…………」


私は空腹が抑えられない。


「やっぱり、言っても聞かなそうね……その目は」


鈴仙は諦めたように私を見ていた。


「ごめんなさいね」


私の心臓に穴が空いた。

飛んでいることすら難しくなった私は、重力に身を任せ、そのまま落下した。

そして竹林の炎の中へと消えていく。


それを見ている鈴仙の表情や視線は、酷く冷たい。


「いつの間にか……殺すことに、躊躇わなくなっちゃったな……私」


鈴仙は1人呟く。

それを私は、しっかり聞いていた。


「安心していいぞ。まだ殺せてないみたいだからな」

「え…?」


鈴仙が私の声に反応して振り返る。


「心臓に穴が開くと、あんなに痛いんだな」

「ッ……!?」

「いやぁ……もっと、一瞬で逝くのかと思ったけど、結構辛かったわ」

「なんで……!?」

「いや、私も分からないけど……とりあえず、腹が減ってるんだよ」


鈴仙は私の頭を撃ち抜く。

私の体は燃えて消滅する。

そして再び蘇生––––再構築(リザレクション)––––した。


「もしかして……死なないの?」

「そうらしいね。なんでかは分からないけど」

「だったら大人しく諦めてよ!終わらないじゃない!」

「お前が諦めて喰われればいいんじゃないか?」

「嫌よ、私は死んじゃうもの」

「だったら死ねばいい」

「なんて傲慢なの……もちろん、それは出来ないけど」


鈴仙は私の体を再び撃ち抜く。

鈴仙は自分の武器の使用に慣れているようだった。

戦い慣れていない私は、なす術なく被弾する。



鈴仙は死なない程度に私を痛めつけた。

腕や足に幾らか風穴を開け、今は首を掴み、程よく締め付けている。

苦しい。

だが、抵抗するほどの力も残っていない。

いっそのこと、殺してほしいと思った。


「捕食を諦めて。そうすれば、この世界は崩壊する」

「……はぁ………はぁ………」

「まあ当然、声なんか出ないわよね」


私は目が朦朧としてきた。


「貴女はこの夢を崩壊させるだけでいいのよ。そして、病院に来なさい」

「…………………ッ…………」






––––空が割れた。


空腹感よりも苦痛が勝った私は、捕食を諦めざるを得なかった––––





























––––藤原妹紅の夢は崩壊した––––














「………ッ!」


目が覚めると、私はベッドの上にいた。

朝にはなっていない。

私は少しの空腹感が残っていた。




––––私、何しようとしてたんだ?


––––鈴仙を、食べようとしてたのか?




先ほどの自分の思考が理解できなかった。

そもそもあれは何だったのだろうか?


現実ではないことは確かだ。

今の私は飛ぶことも炎を操ることもできない普通の人間だ。

あの世界は一体……?




私はそんなことを考えつつ、家を出た。

病院に向かうために––––












































扉を叩く音がする。

自らの書斎で大きな黒い椅子に腰掛け、他人には任せられない業務をこなしていた八意永琳が入室の許可をすると、その扉は開かれた。

永琳の予想通りの人物がそこには立っていた。


「失礼します、師匠」

「何か用かしら?」

「はい。先ほど、またしてもユメクイに集められました」

「……そう。やはり増えているのね……改良しているのだけど、ダメなのかしら」


永琳は心底残念そうに視線を落とした。

その視線の先には自身の右手がある。

何度か握り、そして開く。


「この能力も、完璧じゃないのね」


永琳は呟いた。


「それで……また、殺したの?」

「いえ、殺せませんでした」

「殺せなかった…?貴女の能力が効かないほどの力があったの?」

「いえ、私は能力を使いませんでした。そしてそのユメクイが強かったわけでもありません。ただ……」

「ただ?」

「……そのユメクイは、不死のユメクイでした」

「不死のユメクイ……?」

「はい。おそらく、そういった能力かと……」

「そう……それで?そのまま逃したのかしら?」

「いえ、病院に来るように言ってあります」

「病院に?」

「すでに"窒息死"が騒がれ始めています。私だけで対処しているのには限界があるかと……」

「そうね。そのユメクイが協力してくれるなら、貴女の考えもいいと思うわ。でも、そのユメクイが協力してくれる保証でもあるの?」

「……おそらく」

「まあいいわ。それじゃあ病院に向かいましょうか」

「はい」


永琳は机から何かを取り出し、立ち上がる。


「師匠、それは?」

「夢を見られるようにする薬よ。貴女も飲んでいるでしょう?」

「あぁ……なるほど」

「じゃあ行きましょう」

「はい」

「ところで、優曇華」

「なんですか?」

「今から会うユメクイに随分と信頼に近い何かを寄せているようだけど……今回のユメクイは、誰だったの?」

「あ、それは––––」

































外は少し冷えていた。

風が吹き私の体温を奪う。

私は手をポケットに入れ、寒さに耐えていた。


「もう少し、なんか着て来るべきだったかな……にしても……」


––––お腹が空いてきた。


「さみぃな……」



もしかしたら、私は寝ぼけているのかもしれない。

薬の使い過ぎで効果が切れ、夢を見たのかもしれない。

私が病院に行っても、鈴仙は待っていないかもしれない。


だが……私は向かっていた。

あれが現実ではないとは思えなかった。

もちろん、現実世界ではないのだろうが……



























「待っていたわ、妹紅」


病院に着くと、門前に八意永琳と鈴仙・優曇華院・イナバが待機していた。


「まさか貴女がユメクイになるとはね。やはり、あの薬が原因だと認めざるを得ないのね……」

「私を殺すのか?それとも、実験台にでもするのか?」

「そんな事しないわよ。実験台……の方は間違ってもないけど」

「何をするつもりなんだ?」

「優曇華、渡してあげて」

「はい」


鈴仙が私に薬を差し出した。

私はその薬に見覚えがある。


「夢を見られなくする薬か?」

「違うわ。それは夢を見られるようにする薬、"ANTI-Dm-ki"。『Dm-ki』への特効薬とも言える薬よ」

「でぃえむ……なんだって?」

「名称なんてどうでもいいのよ。とにかくそれを飲めば、空腹感がなくなるはずよ」

「ふーん……まあいいや。飲んでやるよ」

「随分と警戒心がないのね。ガサツなだけかしら?」

「ほっとけ。私はただ、お前の能力を信用しているだけだ」

「私の"能力"、ね……」

「なんだよ?」

「なんでもないわ。さっさと飲んでしまいなさい」

「何だか、はぐらかされた気がするな……まあいいか」


私はカプセル錠剤を一気に飲み込む。


「……ん?」







––––空腹感が無くなる。









そして––––









––––罪悪感が私を襲った。







「効果は現れたかしら?」

「わ、私は……人を……喰おうとしてたのか……?」

「気に病む必要はないわ。それは悪い病気みたいなものよ。悪い夢、と言った方が正しいかしら?」

「私も妹紅を殺そうとしたし、おあいこね」

「……そうか。でも、ごめん」

「じゃあ妹紅、その代わりと言っちゃなんだけど、私と一緒に戦ってほしいわ」

「戦う?」

「先ほどまでの貴女のような、野良のユメクイを殲滅する為にね」

「……そうか。だから鈴仙は戦い慣れていたんだな」

「それで、戦ってくれる?というか、戦わざるを得ないと思うけど」

「どういう事だ?」

「その薬は、"ユメクイに集められやすい"夢を見る薬なのよ」

「……あのさ、さっきから、ユメクイユメクイ言ってるけど、一体なんのことか、私にはさっぱりなんだけど?」


え、当然だよな?

いきなりユメクイだなんて言われてもねぇ?

なんで2人とも、そんなに呆れた顔してるの?

私、変なこと言ったか?




















「なるほどな」

「分かってくれたかしら?」

「とりあえず、お前の尻拭いをすればいいんだろ?」

「不本意だけど、そうなるわね」

「永琳には世話になったし、戦わざるを得ないし……やってやるよ。ユメクイの殲滅」

「ありがとう。それに、よかったわね優曇華。少しは貴女の負担が減るかもしれないわよ?」

「そうですね。そうなってくれると嬉しいです」


















––––今回の藤原妹紅の一件をきっかけに、ユメクイ騒動の原因は主に"夢を見られなくする薬"の副作用によるものだと、八意永琳は帰納的に判断した。










*キャラ設定



○藤原妹紅


14歳になる程度の年齢(2年前)

教育に熱心な両親のもとに生まれ、彼らの期待という重圧を一身に受けていた少女。

その反動からか男勝りな口調だが、中身はしっかり女の子である。




○上白沢慧音


24歳になる程度の年齢(2年前)

小学校教諭を目指し、見事にその夢を叶えた女性。

正義感が強く、とても頼りになる存在である。

幼い頃から知っている妹紅を妹のように想っている。




○八意永琳

「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」


35歳になる程度の年齢(2年前)

若くして名声を獲得した医師。

色んな薬を作っている(らしい)。

彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。


【能力 : あらゆる薬を作る程度の能力】

簡単な材料から不思議な薬を作ることが可能。




○鈴仙・優曇華院・イナバ

「ひ、酷いです師匠!私が師匠を裏切るわけありません!!」


16歳になる程度の年齢(2年前)

永琳を師匠と慕う少女。

真面目で陽気な性格。

本来は臆病者だがユメクイ化の影響で少し強気になった。

人は力を手に入れると変わるのである()


【能力 : 波長を操る程度の能力】

光や音の波長を操ることで幻覚や幻聴を起こす。

相手の五感に干渉できる。


武器として弾丸を発射することができる。

自らの手で拳銃のような形を作り、発射する。

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