表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜  作者: ODA兵士長
東方夢喰録
30/52

最終話 終焉 –– シュウエン ––






「………………ぁれ?」


私は、食事をとっていた。

トレーの上にある、ごく普通の食事だ。








––––いや、私が今食べていたのは…………







「––––ッ!?」


私は口に手を当てる。

吐き気がする。

いや、吐かなければ。

私は、私は、なんてことを––––




「大丈夫よ。落ち着きなさい」

「––––さ、咲夜……?」

「魔理沙の時も言ったはずよ。ユメクイの食欲は、簡単に抑えられるものではない。おそらく貴女のアレも、それに似た状態だっただけ」


咲夜は私の背中を摩りながら、落ち着いた口調で言った。


「––––やっと、終わったわね」


その時、咲夜ではない声がした。

振り返ると、そこには八意永琳が居た。


「霊夢。貴女、まだ思い出してないかしら?」

「え…………?」

「ここは、貴女の夢よ。そして貴女は目的を達成してしまった。この夢はそろそろ崩壊するわ、貴女の意思で」

「ここが……私の夢?一体どういうこと……?」

「私にも分からないわ。ここは現実でしょう?」

「違うのよ、咲夜。もうこの世界はおわる。さあ霊夢、反転させなさい」

「は、反転……?」

「そうよ、夢と現実を反転させるの。この夢を正夢にするのよ。今の貴女にはできるはず」

「そ、そんなこと––––ッ!!!!」




私の脳内に、電流が流れたかのような衝撃が走った。

そうだ。

私は今までこのために––––




「––––反転させるわ」

「霊夢……?」

「見てなさい咲夜。この世界からユメクイが消えて、ハッピーエンドを迎えるわ」

「ちょっと、一体どういう––––」












































––––博麗霊夢の夢は反転した––––








































「……………………!」


目が覚めた。

ここは、私の部屋だ。



––––始まりは、いつも此処なのね。



「でも、今回は違う。やっと、還ってきた」


私は笑っていた。


「此処から、また始めるのね」


夢の反転。

それは今の私にとっては、至って簡単な作業だ。

理屈なんか知らないが、感覚で出来る。

そうして世界は反転した。


この世界の創造主は私だが、すでに私にその権利はない。

ここが、現実世界なのだ。

私の持つ"夢を操る程度の能力"では、何も干渉できない世界になった。


そして、何故かは分からないがスタート地点は此処らしい。

本来の現実世界––––私がこの世界と入れ替え、今は夢の世界になったもの––––との矛盾を無くすために此処からやり直せ、ということなのだろうか?


「それじゃあ、今までのことを覚えているのも、私だけということかしら?……なんだか、残念ね」


同じ『Ym-ki』型の八意永琳なら、覚えているかもしれないが。




––––ピンポーン


インターホンが鳴り響く。


––––ピンポーン


この鳴らし方は、何度聞いただろうか。


「まったく、うるさいわね………………っしょ」


私は身を起こす。

ベッドからでて、欠伸をする。

まるで寝起きだ。

本当に長い夢を見ていた。

そして頭を少し掻きながら、玄関へと向かった。


––––ピンポンピンポンピンポーン


インターホンが鳴り響く。

どんな顔してこと扉を開けよう?

おそらくそこにいる私の親友に、なんと声をかけよう?



––––いつも通り、がイチバンよね。



「何度も鳴らさないでくれる?迷惑な––––」


私は、扉を開けた。

そこにはいつも通りのアイツが––––



「おっす霊夢」


そこには私––––博麗霊夢の名を呼ぶ、霧雨魔理沙がいた。



「迎えに来たわ」


そして、もう1人––––



「…………紫、なんであんたがいるのよ?」

「娘の様子を見に来ちゃ、悪いかしら?」



––––八雲紫がいた。



「あんたが来るのは今日の夜じゃ……?」

「え?」

「……いや、何でもないわ。そもそも、あんたに娘なんていないでしょうが」

「貴女は私の自慢の娘よ?」

「あーはいはい。そーですねー」

「……お疲れ様、霊夢」

「え?」


真剣な眼差しを向ける紫。


「貴女は、よく頑張ったわ」

「紫……覚えてるの?」

「当たり前じゃない。なかなか忘れられるようなものではなかったわ」

「なんで…………」


夢の中での出来事を、人間は覚えていられない。

それが夢喰世界のルールだったはずだ。

どうして––––?


「偏にこれも、私の頭脳ゆえの結果ね」

「相変わらず、むかつく自信ね」


ただの人間であった紫でさえ覚えてるなら––––


「魔理沙、あんたも……?」

「私も当然覚えてるぜ。でも私は、最後の瞬間を見てなかったんだよなぁ……」

「あ、あれは見なくていい!」


あんな姿、魔理沙に見せたくない。


「いきなりでかい声出すなよ…………そうだ、ケーキ買って来たんだが、食べるか?」

「そこはいつも通りなの?」

「まあ、この世界が始まった時には既に持ってたからな」

「なるほどね。とりあえず上がりなさい、用意するから」

「了解だぜ」

「紫、あんたも食べるでしょ?」

「ええ、頂こうかしら」

「じゃあ適当に座ってなさい」


私は台所に食器を取りに行く。

あまり物が置かれていない部屋にポツンとある小さなテーブルの脇に2人は座った。


「ほら、お皿とフォークね」

「サンキュー」

「ありがとう」

「魔理沙、あんたはショートケーキ食べたいんだっけ?」

「え?あー、そうだなぁ。霊夢が来ないせいで一個しか買って来れなかったしな」

「また食べさせてあげようか?」

「い、いいっ!自分で食うぜ!」

「食べさせてあげる……?魔理沙、貴女もしかして霊夢に『アーン』でもしてもらったのかしら?」


紫は魔理沙に顔を近づけた。

笑っているが、その表情は明らかに怒りの色を示していた。


「い、いや、そのな……」

「な、なんて羨ま……けしからんことをッ」

「ゆ、紫……?顔が怖いぜ……?」

「霊夢はやらないわよ」

「私はあんたの物じゃないわ」


とりあえず、暴走気味の紫の頭を叩いておいた。


「い、痛いじゃない……」

「うるさい。あ、私モンブラン貰うから」

「娘を想うのは当然よ?私もモンブランが良いわ」

「だからあんたの娘じゃないわ。なら譲るけど」

「酷いわぁ、私はこんなに想ってるのに。譲らなくていいから、一口アーンして頂戴?」

「キモい」

「……泣くわよ?」

「うっさい」

「……」


紫は口をへの字にして、目に薄っすらと涙を浮かべながら、上目遣いでこちらを見る。

………………うわぁ。


「だははははっ!なんだよその顔!紫、歳考えろよ!!」

「…………魔理沙、コロス」

「ひっ!?」


はしゃぐ2人を冷めた目で見ながら、私はモンブランを口にした。

濃厚な栗の甘さが口の中に広がる。


「んー、、美味しい」


美味しいものを食べるって幸せよね。

そんなことを思いながら、食べ物だけでなく、2人とともにいるこの空間に、私は幸せを感じていた。


「あ、私、食べ終わったら、行きたいところがあるわ」

「私もあるぜ」

「3人とも意見が揃うなんて、全く珍しいことではあるけれど……私もあるわよ。そしておそらく、貴女達と同じところでしょう」












































私は病室にいた。

服装はラフなものだった。


––––今日は、オフかしら?それとも夜勤?


なんだか記憶が曖昧な…………

いや、ここに戻るまでに色々ありすぎたのだ。


だが……なんとなく……思い出してきた。



––––そういえばいつも、始まりはこの日だったわね。



「……咲夜?」

「ッ!」


声がした。

私が愛してやまない、少女の声が––––



「お嬢様……ッ!やっと、お目覚めにッ……」

「ちょ、ちょっと咲夜!?」


私は無礼を承知で抱きついていた。

こうせずにはいられなかった。

もう何処にも行かせない。

私が護ってみせる。


「はぁ……貴女らしくないわね…………ねぇ咲夜、ここどこよ?」

「……病院でございます」


私は顔を上げる。

おそらく、涙でグチャグチャだ。

声も震えている。


「酷い顔ね…………って、病室?なんで?」


お嬢様には、記憶がないようだ。

当然だろう。

人間は夢の中での出来事を覚えていられない。


「それは––––「待って」


お嬢様が左の手の平を私に向けて、言葉を遮る。

右手で顳顬辺りをトントンと叩きながら、俯いている。


「覚えてるわ。私、喰われたのよね?」

「お、お嬢様……?」

「喰われて、貴女がここに運んだ。違わない?」

「はい、仰る通りですが……何故、覚えてらっしゃるのですか?」

「それは私にも分からないわ。だけど、覚えてる。全部」


お嬢様は顔を上げた。

その表情は、どんな花より華やかな、輝かしい笑顔だった。


「咲夜はいつも私を第一に考えてくれていたわね……ありがとう。そして、これからもよろしくね」


私の目には涙が浮かんでいた。

お嬢様は私を受け止め、私の頭を撫でてくださった。


「まったく、いつも強気な貴女がこんなに弱いところを見せるなんて……」


突然、勢いよく扉が開かれた。

私は驚きながらも、お嬢様から離れて振り返る。

1人の少女が飛び掛かってきた––––


「お姉様!咲夜!!!」


その少女––––フランドール・スカーレット様は私とお嬢様をまとめて抱き寄せた。


「ふ、フラン!?危ないでしょ!?」

「お姉様!良かった!ちゃんと生きてる!!!」

「ええ、生きてるわよ。落ち着きなさい」

「––––すみません、咲夜さん!教えたつもりはないのですが…………え?お、お嬢様……?」


妹様に遅れて入ってきたのは、紅魔館の門番––––現在はメイド長らしいが––––紅美鈴だった。

妹様が手の力を緩め、美鈴へと振り返る。


「レミリアお嬢様……?どうして……?」

「美鈴には記憶がないのね」

「どういうことですか、咲夜さん?…………って、大丈夫ですか?」

「何が?」

「咲夜さん、目が……真っ赤ですよ」


私は恥ずかしくなり、視線を逸らす。


「大丈夫よ、気にしないで」

「そ、そうですか……?」

「それにしても、美鈴は覚えてないようね」

「何をですか?」

「違いは何なのかしら?」

「––––霊夢と関わったかどうか、だと思うわ」


扉の方から声がする。


「霊夢と関わったか……?」

「ええ、おそらくそこの赤毛の彼女は、霊夢とあまり関わりがなかったのでしょう。あの世界は霊夢の夢だから、彼女が大きな影響力を持っているわ。おそらくその影響を受けていない者は、記憶することが難しいのよ」

「じゃあ、あの世界で霊夢と関わった者だけが、覚えているということ?」

「恐らくそうなるわ」


扉の縁に背中を預け、胸の下で腕を組みながら、八意永琳は語った。

彼女には、本当にお世話になった。


「ところで貴女、これからどうするの?」

「これから……?」

「そこの妹ちゃんと一緒に、紅魔館へ戻るのかしら?」

「それは……」

「戻ってきてよ!また、前みたいに暮らそう?」

「妹様……」

「"前みたいに"ということは、私が紅魔館の主人に戻るということでいいのかしら、フラン?」

「もちろん!あれはお姉様のものであって、私のものじゃないよ」

「ふふっ、やはり紅魔館を持つべき器は私の方が––––「だってあれ、近所の人たちに趣味悪いって言われてるから、私のものだって思われるの嫌だもん」

「なっ……!?かっこいいでしょ!?」

「そう思ってるのは、お姉様だけよ」





「……紅魔館へ戻らせてもらうわ」

「ええ、貴女にはそれが1番良いと思うわ」


私は和気藹々とされてるお嬢様と妹様を眺めながら、母さんに言った。


「でも私は、まだ貴女を娘だと思ってる」

「母さん……」

「何かあったら、いつでも訪ねてくれて構わないわ。もちろん、何もなくてもね」

「……ええ。ありがとう。本当に……ありがとう」


私は頭を下げていた。

私の足元に、雫が落ちているのが分かった。






––––私って、こんなに泣き虫だったかしら?

































レミリアの病室を出ると、そこには私の助手が立っていた。


「師匠……」

「貴女だけは裏切らないと思ってたけどね––––優曇華」

「あ、あはは……やっぱりバレてますよね」

「そうね。まったく……お仕置きが必要かしら?」


私は優曇華へ手を伸ばす。


「ひっ!?ご勘弁をぉ〜………………え?」


私は優曇華の頭を撫でながら、言った。


「ありがとう」

「師匠……?」

「貴女が私のために行動してくれたことは分かっているわ。そして、結果として貴女の行動があったからこそ、操夢は目覚めることができたし、こうして終わりを迎えることが出来たのよ」

「私は…………師匠のお役に立てたのでしょうか?」

「ええ、もちろんよ」


私が笑いかけると、優曇華は今まで見せたことのないほどの輝かしい笑顔を、私に見せてくれた。




























「ルーミア!あたい、変な夢を見たわ!」

「そーなのかー」


学校からの帰り道、私たちは公園に寄っていた。

私とチルノは地べたに座り込んでいる。

大ちゃんはチルノを挟んだ向こう側にしゃがんでいる。


「おんなじようなことを何回も繰り返して……あ、でも最後はちょっと違ったかな……」

「へー」

「そういやあんた!夢の中で飛んでたことがあったわ!あたいは飛べなかったのに!」

「そーなのかー」

「ずるいぞ!あたいにも飛ばせろ!」

「そーなのかー」

「ちゃんと聞け!」

「えー、面倒くさい」

「ご、ごめんねルーミアちゃん。チルノちゃんも、ルーミアちゃんを困らせちゃダメだよ?」

「私は別にいいよ。チルノはいつもこうだから」

「で、でも……迷惑だよね?」

「……うるさいチルノも面倒だけど、大ちゃんも結構面倒くさいよね」

「え……?」

「それにしても、チルノは覚えてて、大ちゃんは覚えてないんだね」

「どういうこと……?」

「忘れていいよ」

「えぇ……?」


ルーミアはニヤッと笑うと、空を見上げた。

日差しが私を照らす。

私の闇を侵食するように。


––––もう私に闇なんてないのかもしれない。

その日差しが心地いい。


「わはー」


私は手を広げ、地面に背中をつけた。

私は太陽にやられてあげたのだ。

まあ……つまり日向ぼっこだね。


「あたいも!わはー!!」


チルノも寝転がる。

ノリのいいやつは嫌いじゃない。

私がチルノを見ると、チルノも私を見た。

2人で笑い合う。

…………こーゆーの、何だかいいね。


「ふ、2人とも!?汚れちゃうよ!?」

「大ちゃんも、ほらっ!」

「ちょ、ちょっと!……うわぁ!?」


チルノが大ちゃんの手を引いた。

しゃがんでいた大ちゃんは、バランスを崩して倒れてしまう。

チルノに覆い被さるような格好だ。


「ご、ごめんねチルノちゃん!痛かったよね?」

「大丈夫、へーきだよ」

「2人は相変わらず熱々だなぁ」


違うよっ!と否定しながらもどこか嬉しそうな大ちゃんを見ながら、私とチルノはまた笑った。

そうしていると、後ろから『にゃ〜』と声がする。


「おおっ!お前、また来たのか!」


その猫は以前3人で餌を与えていた猫だ。

今、その猫には首輪がついている。


「ほーら、おいで!今日は何も持ってないけど」


チルノが寝転がったまま、猫を呼ぶ。

その猫は警戒することなくチルノへ寄り添った。


チルノは猫の首筋を撫でている。

気持ちよさそうに猫が鳴いているのが分かった。


それを見て、私も大ちゃんも顔に自然と笑みが浮かんでいた。




––––私も、少しだけ……チルノへ寄り添ってみた。


「チルノ、ありがとう。もちろん大ちゃんも」

「……は?」

「……へ?」

「私、行くところがあるから……そろそろ帰るよ」


私は立ち上がり、チルノたちへ背を向けた。














––––友達って、案外いいものだね。






































「妹紅、少しは部屋を綺麗にしたらどうなんだ?」

「あーうんうん、今度ね」

「今度と言っても、やらないだろう?」


いつも世界が始まるとき、私の部屋には慧音がいた。

そして毎度同じく、慧音の小言から始まる。


「分かったって。そんなに何度も言われると耳にタコができる」

「そ、そんなに言った覚えはないんだが……」

「いや、何度も言ってる。繰り返し、繰り返し、何度も」



––––本当に、何度もね。



「でも、ありがとう。いつも私なんかと居てくれて」

「……と、突然どうした、妹紅?」

「何でもないよ。とりあえず、用事を思い出したんだ。部屋は後で綺麗にしておくから」

「ま、待て妹紅!」

「だから、掃除なら後で––––「私は!!」


慧音が私の言葉を遮る。

真っ直ぐ私を見ていた。


「私は、妹紅 "だから" 一緒に居たいんだ。私 "なんか" などと言うんじゃない」










私の頰を温かい何かが通っていた––––





































「…………あれ、私どうして……?」


少女は狼狽えていた。

当然だ。

自分は既に死んだようなものだ。

夢の中なら分かるが、ここは現実世界。


「しかも何だか……ちょっと前の世界?」


付いていたテレビから流れてくるものは、以前にも見たことがあるものだった。


「…………そうか。終わったんだ」


ふと、訳が分からないまま呟いた。


終わった……?

あれは……

いや、あれらは……全部夢だった?


「分からない……けど」


少女は顔を上げる。

その表情に曇りはない。


「行こう」


少女––––魂魄妖夢は部屋の扉を開けた。










































「…………夢…………だったのね……」


少女は呟く。

そこは彼女がよく知る自室。

幾らか人形が飾ってある。


そうだ。

この世界はいつも、ここから始まった。

思えば、ほとんど同じような世界の繰り返しだった。

最後の二回はいろいろ変化があったが……


今となっては、どうでもいいことだけど。


あの世界は、所詮夢の世界。

本当の現実世界はここから始まる。


「じゃあ、行ってくるわ––––上海、蓬莱」


扉を開け、外に出た少女––––アリス・マーガトロイドは空を見上げた。


雲ひとつない、青空だった。



















































「遅かったじゃない、霊夢」

「主役は遅れて登場するものでしょ?」

「まあ、あれはあなたの夢だし、これもあなたの夢と言えなくもないし……主役は譲るわ」


私が扉を開けると、咲夜が出迎えた。

そこには、よく知る顔がたくさんあった。


「それにしても……本当に勢揃いしてるわね。みんな記憶あるの?」

「らしいわね。永琳の話だと、夢の中で貴女との関わりが深かった人が覚えていられるらしいわ」

「そう……なるほどね。道理で私の知る顔がたくさん居るわけね」


私は部屋に集まる少女達を眺めた。


ルーミアの世話を焼くアリス。

それを見ながら笑う妹紅。

その横で妖夢はフランに謝られていた。

フランの隣にいる赤毛の女性––––彼女が紅美鈴だろうか?––––は、ただ困惑しているようだった。


そんな輪の中に鈴仙は入っておらず、永琳と2人で少し離れて立っていた。

私に気づいて、少し気まずそうにしている鈴仙。


そして私の隣にいる紫は、永琳を見ている。

その視線に永琳は気づいているようだが……


私と話す咲夜の隣には、レミリアがいた。

レミリアと目が合う。笑いかけてきた。

とりあえず私も笑顔を返す。


なんだか目のやり場に困ったので、咲夜へと視線を戻した。

咲夜と目が合う。


「霊夢、お疲れ様。色々あったけど、上手く纏まったわ」

「そうね。誰も失わずにすんだ。すごく……いい世界になったわ」

「あなたのおかげよ。ありがとう、霊夢」

「咲夜…………」


咲夜は笑いかけた。

なんだかその笑顔にも、私は目のやり場に困ってしまった。


「ふふっ、本当に霊夢は可愛い反応するわね」

「な……ッ」


顔を上げ、咲夜を見る。

再び目が合う。

咲夜が私の頰に手を伸ばした。


「ストォォォォオオオオップ!!!」

「ま、魔理沙!?」


咲夜の手を、魔理沙が掴んでいた。


「どうしたのかしら、魔理沙?」

「どうしたのか、じゃねぇよ!霊夢は、やらん!」

「わ、私はあんたの物じゃないわよ」

「そうね。私の(もの)だもの」

「紫のでも無いわよ」

「じゃあ誰のものなんだよ?」

「私は誰のものでもないわよ……」

「霊夢は競争率が高いわね」


ふと、後ろから声がする。

振り上げれば八意永琳がいた。

紫は敵意剥き出しだった。


「……八雲紫。あなたは勘違いしているようだけど、貴女を喰べたのは私じゃないわ、本当よ」


永琳は真っ直ぐ紫を見る。

紫は眼力を弱め、ため息をついた。


「………………まあ、いいわ。この世界では関係ないしね」

「それじゃあ、紫と呼んでもよろしくて?」

「……勝手になさい、永琳」




「あの2人が話してると、なんだか周りに纏うオーラが違う気がするわ……」

「……そうだな。なんというか、うん、怖い」


呟く咲夜に、魔理沙が同調する。


「別にそんなことないでしょ」

「霊夢、そう思えるのはお前だけだと思うぞ?」

「そうなの……?」

「あ、あのっ、霊夢……さん」

「……なによ、鈴仙。てか、なんで敬語?」

「あ、それは…………あはは」

「別に、私あんたに怒ってないし、むしろ私が倒しちゃったわけだし」

「で、でも裏切りを……」

「だったら私より、他の奴らに謝りなさいよ」

「別に私らも怒ってないさ」


妹紅が私たちの会話に入ってきた。


「お前も、お前なりの考えがあったんだろ?鈴仙」

「う……うん」

「正しさなんて、誰にも分からない。それは人の数だけあるんだからな。私たちはお前を責めるつもりも、そんな資格もないんだよ」

「妹紅……」

「私も同じ気持ちよ。終わり良ければすべて良し。今はこうしてみんなで笑っていられるのだから、それで良いでしょう?」

「アリス……」

「私は納得できないわ」

「さ、咲夜…………?」


鈴仙が咲夜を見る。

咲夜は鈴仙に顔を近づけ、その目を見る。


「貴女なんかに負けた、己の弱さがね」

「え……?」

「咲夜って、言い回しが面倒くさいよね」


ルーミアが咲夜と鈴仙の間に入る。

ルーミアが咲夜を見る。

咲夜は若干、ルーミアを睨んでいる。

だがそれに怯まず、咲夜から鈴仙へと視線を移して、ルーミアは言った。


「必要以上に申し訳なさそうにする鈴仙もね」

「ルーミア……うん、ありがとう。みんなも、ありがとう」


鈴仙は頭を下げた。


「だからそれが面倒く––––ッ!?」

「静かにしましょうね?」


アリスがルーミアの口を押さえていた。


「––––ぷはぁ、いきなり酷いなぁ」

「貴女が要らないことを言おうとするからでしょ?」

「ははは、本当にアリスは保護者になってるな」

「本当だね。2人で並んでると、親子か姉妹みたいに見えるよ」


妹紅と妖夢が2人を見て笑う。

釣られて、周りも笑っていた。


みんなの笑顔が、魔理沙の病室に"なるはずだった"空間を満たしていた。










––––夢物語は、終焉を迎えた。













































八意永琳は、地下室に向かっていた。

そこには博麗霊夢の遺体と脳が別々に保管されている。


夢の中で死んだものは意思を失い、窒息死を起こす。

そう、本来ならば。


博麗霊夢の肉体は、既に死んでいる。

生きているのは脳––––魂と言うべきかもしれない––––だけだだった。

脳が保管されているこの液体は、脳が潰れない程度の圧力をかけ、高濃度の酸素や養分等が溶け込んでいる特殊な液体だ。



––––つまり彼女に『窒息死』はない。



彼女はまだ、生きている––––





永琳は軋む音とともに扉を開く。

部屋の闇は、飲み込まれてしまいそうな錯覚に陥るほど暗く、そして深かった。

扉の脇にある照明のスイッチを手探りで探す。

ある程度の位置は把握している。

すぐにスイッチを押した。

部屋の明かりが灯る。



––––永琳は目を見開いた。



「おはよう。そんな時間じゃないかもしれないけど」

「貴女、どうして––––ッ!?」


––––夢の中では、全ての状態異常が消える。


博麗霊夢の夢は、特殊であった。

彼女の夢は人々に記憶障害を起こすほどの大きな力を持っていた。

だからこそ、そこが夢であることに誰も気づくことができず、また状態異常が治るなどの夢特有の現象も殆ど起こらなかった。


––––しかし、その彼女の夢の力に対抗できるほどの強い力を持っていたら?


記憶障害は起こらず、夢の中として生活できるのかもしれない。

いや、きっとそうなのだろう。

八意永琳は心の中でそう呟く。

だって今、目の前に、全ての状態異常が消えた博麗操夢が––––







「なんだか、お腹が空いたわ」

「……ッ」


永琳は息を飲んだ。

それを見た操夢は、クスッと笑ってから言う。


「あ、今のは夢喰としてじゃないから安心して。普通にご飯が食べたいの。それに、今の私に能力なんてないから」

「え……?」

「だって私、霊夢に食べられちゃったから。そっくりそのままあの子に移っちゃったわ。だからこそ、この世界がある訳だし」

「……そうね、確かにそうだわ。警戒の必要はない…………のよね?」

「たぶんとしか言えないけど……もう私はただの人間よ。能力を使うことも、夢を展開することも出来ないわ」

「分かったわ。なら、うちに来なさい。ご飯を用意するわ」

「あら、本当に?優しいのね」

「……今日は、多くの者が私の家に来ることになったわ。今更1人増えようと、影響ないのよ。もちろん食事面においてのみだけど」


彼女を連れて行けば、おそらく大騒ぎになる。


「もしかして、その中に霊夢もいるの?」

「当然でしょう?」

「それはそれは––––楽しくなりそうね」


博麗操夢は、悪戯に笑った。










































–––– 東方夢喰録 完 ––––




















◎(読まなくても損をしない)あとがき


東方夢喰録をここまでご覧下さった皆様、本当にありがとうございました。


注意書きにもある通り、この作品には『ヒトクイ』及び『ヒト喰イ』という元ネタとなる漫画が存在します。

この作品を少しでも面白いと感じてくださった方は、是非その漫画をご覧になって下さい。

この作品の数万倍は面白いですよ!


この作品を書き終えて、自分はかなり満足しています。

自分の中で全力を尽くせたと思っていますし、こうして最後まで書き抜けたことが自信にもつながりました。

本当にここまでお世話になりました!

そして、これからもODA兵士長を宜しくお願い致します!!!






◎(できたら読んでほしい)告知


この作品のEXTRA編を作ることに致しました!

主な内容としては、まだ過去が詳しく明かされていないキャラの過去話や、本編では語られなかった空白の時間を埋める内容になります。

かなり蛇足感が拭えませんが……EXTRAには"余分な"って意味もあるんやで(ニコッ

是非EX編も楽しんで頂けたら幸いです!!!






最後にもう一度。

ご愛読ありがとうございました!

これからも宜しくお願い致します!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ