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東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜  作者: ODA兵士長
東方夢喰録
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第3話 崩壊 –– ホウカイ ––



「誰も私に追いつけない」


その言葉通り、少女は咲夜の前から"消えた"。

咲夜は何が起こったのか分からず、動きが止まった。

しかし、狙われるのは自分だ思っていた為、すぐさま警戒心を取り戻す。

彼女の視界に、少女は居ない。


––––後ろ?


振り返りざまにナイフを構える。

しかし、そこに少女の姿はない。


––––まさか、上!?


そう思い、空を見上げたときだった。



「霊夢!!!」



魔理沙の叫んでいるような声が聞こえた。

咲夜は、魔理沙の方へと視線を向ける。

そこには……既に上半身が口の中に入った魔理沙がいた。

そして––––食い千切られた。


「…ま…りさ……?」


魔理沙の下半身は、行き場を失い、バランスを保つことができずに倒れた。

倒れるというより、転がるという表現の方が正しいかもしれない。


「え……あ……」


顔に真っ赤な血を浴びた霊夢は、情けない声を上げていた。


––––私のせいだ。


咲夜は自責の念を抱えていた。


ただしそれは、魔理沙を救えなかったことによる後悔ではない。

咲夜にとって霊夢や魔理沙は、つい先ほど知り合ったばかりの、名前しか知らない程度の存在だ。

そこまで深い情など湧いていない。

とはいえ、咲夜もそこまで冷酷な訳ではない。

少なからず、憐れみに近い悲しみは感じている。

それでも、咲夜の心を占めているのは別の感情だった。


––––私がもっと早く、能力を使っていれば…!


咲夜は能力の使用を温存していた。

もし咲夜がその能力をうまく使えば、相手を殺すことなど、本当の意味で"一瞬"だ。

しかし、能力を見せびらかすなど馬鹿のやることだ。

咲夜は、そう思っていた。


それになにより––––格好悪い。


しかし今、能力を見せびらかす奴よりも格好悪い状況になってしまった。

咲夜は、魔理沙を救えなかったことではなく、能力を使わなかったことに後悔の念を抱いていたのだ。




「んんっ!美味しい!!!」


少女は、心の底からそう思ったのだろう。

その声色から、大きな喜びが感じ取れる。


「こんなに美味しい"夢"は久々です!」

「……」


霊夢は目を開けながらも、焦点があっておらず、意識なんて無いも同然だった。


「さて、次はどちらを頂きましょうか?ああ、逃げなくて結構ですよ。私から逃げるなど不可能ですから」

「……あ………いや………」

「あやや。まともに喋ることなんて出来ませんか」

「……調子に乗るのもいい加減にしなさい」

「ほぅ……?貴女は、そんなことを言う余裕があるんですね!仲良しこよしな人間が食べられてしまったのに!」

「安心しなさい。すぐに殺してやるわ」

「あやややや、怖いですねぇ!さすがは、私を喰らう者(笑)、と言ったところでしょうか?」


少女は咲夜に笑顔を向けていた。

しかし、一瞬だけ、目つきが鋭くなる。


「……でも、果たして私を捕らえることが出来るのでしょうか?貴女では、私に触れることすらできないのに!!」

「確かに、貴女を捕らえることは不可能みたいね。それこそ––––時間でも止めない限りは、ね」


咲夜は意味深な笑みを浮かべる。

しかし少女にはその言葉と微笑みが、ただの負け犬の遠吠えにしか感じられなかった。

少女は、あからさまに咲夜を見下し、嘲笑うかのように声を上げる。


「なるほど!!時間を止められてしまっては、さすがの私も逃げられま––––」



––––パチンッ



刹那、少女の首にナイフが当てられた。

そして、躊躇なく振り下ろされる。


「––––がはっ!!」


少女の首から、とめどなく、鮮血が降り注いだ。

咲夜は、その返り血を敢えて浴びているかのように、少女の目の前に立っていた。


「ごめんなさいね。貴女、さっきからベラベラと五月蝿(うるさ)いのよ」

「ぅ…ぁ…」


少女は声にならない呻き声上げている。

もはや少女のその姿に、戦う意思は見られなかった。


最初から、こうしていれば––––


咲夜は地面に転がる魔理沙の下半身を見ていた。


「––––ッ!」

「あら、気付いたのね」


霊夢の目の焦点が咲夜に合った。

それに気付いた咲夜は、霊夢へと視線を移す。


「さ、くや?……まりさは?まりさはどこ?」


霊夢の声に、普段の––––とは言っても、知り合ったばかりで"普段の霊夢"など、咲夜は知らないのだが––––力強さ、或いはふてぶてしさが感じられなかった。


「落ち着きなさい。彼女は喰われたわ」


咲夜は敢えて冷酷に、現実を突きつけた。

霊夢は目を見開いていた。


「でも、おそらく貴女は知っているんでしょう?まだ彼女は死んだわけじゃない」


嘘は言っていない。

この世界での時間の流れ方は特殊だ。

この世界での出来事は、現実の世界ではほんの一瞬の間に起こってしまう。


「この世界で喰われたものは、現実で窒息死する。でもそれは即死じゃないわ」

「……ッ!!」

「人間が呼吸なしでも何とかなるのは、せいぜい5分と言ったところかしら?」

「5分……」

「それ以降は、助かっても脳に障害が残るでしょうね」

「魔理沙……」

「もうすぐ、この世界は崩壊する。そしたら頑張って、彼女を救ってみなさい」



––––無理だと思うけど。



それは、口にしなかった。

だが、確実に魔理沙は死ぬだろう。

苦しんで……霊夢の顔を見ながら、死んでいくのだ。

そう言い切れる理由がある。



––––貴女たち人間は、この世界での記憶は残らない。



この世界の記憶は忘れてしまう。

人間は、頻繁に白昼夢を見ている。

だが、意識できるものは殆ど無い。

そんな、人が頻繁に見ているにも関わらず、忘れられてしまう白昼夢を集め、食べるのがユメクイなのだ。



––––貴女は魔理沙が死んでいくのを、慌てふためきながら眺めることしかできないのよ。



今まで咲夜は、かなり希ではあるものの、霊夢たちのように知り合い同士で夢に入り、片方が喰われ、片方が生き残るという者たちを見てきた。

その者たちの行く末の詳しいことは分からない。

しかし、テレビに流れる死亡ニュ––スを見れば明らかだった。

彼らのうち誰も、生き延びることができなかったのだ。



––––バリッ



そのとき、空が割れた。

文字通りだ。空にヒビが入ったのだ。


––––そろそろこの世界も終わりね。


咲夜はそう思うと、喉を抑え苦しむ少女の方へと視線を移す。


「さて、逃さないわ。今すぐ楽にしてあげる」


ナイフを持った右腕を振り上げる。


「…ゃめ……」


咲夜は、何かが聞こえた気がした。

聞こえたが、聞こえてないフリをした。


この世界にユメクイはいらない。

ユメクイは、1匹残らず殺してやる。


咲夜は、腕を振り下ろした––––














––––が、少女にナイフは当たらなかった。






ふと、地面を見る。






咲夜の手が、転がっていた。













「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」


咲夜は、似合わない悲鳴をあげた、

不意に切り取られた右手を見つめる。

それを見てさらに声をあげ、左手で傷口を抑えようとする。

しかし、寧ろ痛みは増すばかりだ。

悲痛な叫び声をあげ、(うずくま)る。


「あは……」


少女は微笑んだ。

そして力尽き、本当に死んでしまったかのように、気絶した。




咲夜がナイフを振り上げたとき、少女は最後の気力を振り絞り風を起こした。

小さな、本当に小さな風だった。

しかしそれは、どんな刃よりも鋭い風––––鎌鼬(かまいたち)––––だった。

それが咲夜の右手を切り落とし、その余波が頬の肉を切り裂いた。

腕から血が噴き、頬から血が滴る。

もはや、返り血で汚れているのか、自らの血で汚れているのか……分からなかった。


咲夜は叫び、少女が笑う。


本当に勝ったのはどちらだろうか––––















––––射命丸文の夢は崩壊した––––


























「何それ、馬鹿みたい」

「……ッ」


突然、魔理沙は目を見開いた。


「魔理沙?」


そして今度は眠るように倒れ込み、私に全身を預けた。


「魔理沙!魔理沙!しっかりしなさい!魔理沙!!!」


魔理沙は反応しない。

反応できないというより、反応しようとしていない。

生気が感じられない。

なにより、呼吸が止まっている。


しかし私には、何が起きているのか分からない––––












––––はずだった。



「……大丈夫、私が救ってあげるから」


私は魔理沙にそう伝え、窓に目をやった。


確実に魔理沙を助けるには、病院に連れていくしかない。

私の勘がそう言っている。

しかし、救急車を待ってる余裕はない。

私が連れて行った方が……速いッ!


「魔理沙、大丈夫よ。とりあえず少し時間がかかるから、空気を送るわね」


私は魔理沙の顎を押さえ、鼻をつまんだ。

そして唇を重ね、空気を送り込む。

魔理沙の胸が少し浮かび上がった。


––––これで、少しはマシでしょう?


そう思いながら、すぐに私は魔理沙を抱きかかえる。

そして窓に向かい、蹴り破った。

そのままの勢いで、私は外に"飛"び出した。


「すぐに着くから、我慢しなさい」


私は魔理沙に微笑みかけてから、病院へと急いだ。









*キャラ設定(追記なし)


○博麗霊夢

「私は勘で動いただけよ」


17歳になる程度の年齢。

他人に無関心なところもあるが、人との関わりを避けているわけではない。

楽しいことも美味しいものも普通に好き。

勘が鋭く、自分でも驚くほどの的中率を誇る。




○霧雨魔理沙

「おっす霊夢、迎えに来たぜ」


17歳になる程度の年齢。

好奇心旺盛、明朗快活。

男勝りな口調は意識してる。

内面はただの乙女。

霊夢の古くからの友人であり、一番の理解者。




○十六夜咲夜

「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」


19歳になる程度の年齢。

冷静沈着、才色兼備………を装っている。

実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。

しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。

また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)


【能力 : 時を操る程度の能力】

時間を加速、減速、停止させることができる能力。

巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。


武器としてナイフを具現化させる。

その数に制限はない。




○射命丸文

「誰も私に追いつけない」


25歳になる程度の年齢。

元大手新聞社の記者。

諸事情により、現在は別の大手企業で事務職をしている。

年功序列の考えを強く持ち、調子に乗った年下を最も嫌う。

目下の者にも敬語を使うことが多々あるが、それは決して相手を敬っているわけではない。


【 能力 : 風を操る程度の能力 】


風を自由自在に操ることができる。

風の速さや範囲、密度を操ることで、鋭い刃のような風や厚い壁のような風など、ありとあらゆる風を生み出すことができる。

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