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東方夢喰録 〜 Have a sweet nightmare!! 〜  作者: ODA兵士長
東方夢喰録
29/52

第29話 夢喰 –– ユメクイ ––








「––––夢想天生」



「面白くなってきたわね––––夢操天生」










私––––魂魄妖夢は上空で博麗親子が戦う様子を見ていた。

見ていることしか、できないのだ。

私には、この状況をどうにかする力はない。


「咲夜。私たち、本当に何もできないんだね」


悔しさも込めながら、私は咲夜に言う。


「そうね。先ほどの魔理沙の攻撃はかなりの高火力だったはず。それなのに無効化されるなんて……笑うしかないわ」


そう言う咲夜は、上空の2人を睨みつけていた。

彼女自身、かなり悔しさを感じているのだろう。

言葉とは裏腹に、その表情には笑みなどなく、純粋に怖かった。


「か、顔が怖いよ、咲夜」

「咲夜の顔が怖いのは元々だと思うぞ?」


妹紅が突然口を挟む。


「あ?喧嘩を売ってるの?」

「本当に怖いな……」

「妹紅でも、この状況はどうにもならないの?」


死ぬことがない妹紅なら……

と、淡い期待を抱きながら、私は妹紅に尋ねた。


「そうだな……いくら死なないとは言え、魂ごと消されちゃ、一溜まりもないだろうな」

「そっか……」

「妹紅、この世界では死んでも、この夢から戻ることができたら––––つまり始祖体が死ねば、現実で目を覚ますらしいわよ?」

「え、本当か?なら一か八か行ってみるのもアリか……」

「もう言わせないわよ」


突然アリスが会話に割り込んできた。

なんだか、妹紅に怒っている?


「え?あ、あぁ……今のは言うつもりじゃ……ってか、さっきのアレは忘れろ!」


妹紅は少し頰を赤らめながら、必死に訴えた。

私と咲夜は意味がわからない。

堪らず咲夜が問う。


「なんの話かしら?」

「妹紅が馬鹿だって話だよ」


アリスの後ろから、ひょこっと顔を出したルーミアが言った。


「……ねぇ、ふざけ過ぎなんじゃない?そんなに気を緩めてもいい状況なの?」

「おっと、まさかお前にそんなことを言われるとはな––––たしか、フランドールだったっけ?」


私にとっては面識のない彼女––––名はフランドールというようだ––––が全員に警告するように語気を強めて言った。


「たしかにこの子の言う通りね。あんなに狂ってた子に諭されるなんて、なんだか複雑だけど……」


アリスが言う。

狂ってた、とはどういうことなのだろうか?

私には分からなかったが、突っ込んで聞きたいと思うほど興味はなかった。


「あの時の私は、私じゃなかったから…………そんなことより、なんとかして霊夢を助けてあげられないの?」

「お前の能力はどうなんだ?始祖体って奴を壊してしまえば……」

「……それは私も試したけど、シソタイって方だけじゃなくて、あの2人とも"目"が掴めない。まるで実体のない、夢のような存在だわ。私は物質的なモノしか壊せないから…………」


フランド––ルは空に手を当て何度か握ってみせた。

しかし、何も起こらない。


「ねぇ妖夢」

「ん?どうしたの、ルーミア?」

「妖夢はあの子に思うことないのか?」

「え、どうして?」

「……あぁ、知らないならいいや。面倒だし」

「え、何それ……」


なんとなく、ルーミアの言っていたことが気になるが、彼女はアリスの元へと戻ってしまった。

私はふと、フランドールを見る。


目があった。

すぐ逸らされてしまったが……



––––あれ、もしかして私を殺したのって……?



「妖夢。妹様も悪気があったわけじゃないのよ。今の妹様とあの時の妹様は別人だと考えて欲しいわ」

「や、やっぱり私、あの子に……?」

「ええ、そうよ。妹様を恨むのは貴女の勝手だから、私が指図することではないけど、妹様に手を出すなら容赦しないわよ」

「そ、そんな、手を出すなんてしないよ!」


そう言った後、私は俯く。


「……私は元々、咲夜に殺されてもおかしくなかったわけだし、力のない私が殺されても文句は言えないよ」

「はぁ……貴女、本当にユメクイ?」

「え……?」

「さっきも同じようなこと言った気がするけど、貴女は自分で思ってるほど弱くないわ。自信持ちなさい」

「そんなこと言われても……」


私は、ふと上空を見上げる。

そこでは2人のユメクイがぶつかり合っている。

お互いに能力を打ち消し合い、ただの殴り合いと化しているその戦いは、先ほど地下で見た鈴仙と霊夢のような、綺麗なものではない。

しかし、私たちに介入の余地はない。

咲夜のナイフも、妹紅の炎も––––もちろん私の剣も、あの親子には無効だ。


「……私には、何もできないよ」

「本当に、そうかしら?」

「……え?」


私は咲夜に視線を戻す。

咲夜は上空を見上げていた。


「ここ最近、霊夢とずっと一緒にいたから、影響されたのかしらね……私の勘が言ってるのよ」


咲夜は私には視線を向けた。

その顔は、微笑んでいる。


「––––貴女が霊夢を助けてくれる、ってね」

「私が……霊夢を?」



私は、自信がない。

意思がないわけでも、弱いわけでもない。

その意思を、自分を信じることができないのだ。

私は、弱い存在だ。



––––貴女は自分で思ってるほど弱くないわ。



そんなこと言われたら、少し、期待してしまう。

私が、本当は強いんじゃないかって、期待してしまう。

あり得ないのに。

そんな訳、ないのに。



––––でも、嫌だ。



もう、こんな弱い自分、嫌だ。

だけど……そう思ったところで、何もできない。

私は、弱い存在だから––––




「あんた、馬鹿ね!」

「……え、な、なによ……?」


突然、背中を叩かれた。

振り返れば青髪の少女がいた。


「人の言うことを聞かないと、食べられちゃうのよ!」

「…………は?」

「咲夜が強いって言ってるんだから、あんたは強いのよ!」

「ッ…………」

「まあ、あたいほどでは無いけどね!」


少女は何故か偉そうに踏ん反り返っていた。


「……ふふっ」

「な、なんで笑ってんのよ……?」

「ううん、なんでもないよ。その……ありがとう。えっと…………名前、教えてくれる?」

「あたいはチルノ!あんたは?」

「私は魂魄妖夢よ。ありがとうね、チルノ。私––––もう迷わないよ」


私は二本のを出現させる。

そしてそのうち一方の剣––––それは、普段はあまり使わない、少し短い方の剣––––を抜いた。

それを自らの横腹に当てた。


「ちょ、ちょっとあんた!?何してんの?」

「これで、もう迷わない」


その様子を見たチルノは慌てている。

近くにいた咲夜や他の者達は私を見て一瞬驚くが、何かを察したように私を見つめた。


「そんなの刺したら痛いじゃ––––ッ!!」


私は自らの腹部へと刺し込んだ。

普通ならば、その体制から剣を刺すなど不可能にも思える。

だが、その剣はまるでそこに何もないかのように体の中へと入り込んだ。


「はぁぁあああ!!」


私は切腹した。

















魂魄妖夢は二本の剣を出現させる。



一本は楼観剣。

その剣はかなり長く、扱うにはかなりの技術が必要となる。

ただし、その一振りでユメクイ10体分の殺傷力を持つため、扱えさえすればかなりの脅威となる。



そして、もう一本は白楼剣。

その剣は少々短めであり、妖夢が実戦で用いることは少ない。

しかしその剣には特殊な効果がある。

それは、"迷いを断ち斬る"ことができるのだ。








そして私は今、その白楼剣で切腹した––––


































「––––なんで」


私は疑問を唱える事しかできなくなった。


「なんで、こんな事にっ!」


そう言いながら、私に殴りかかる母を受け止める。


「私にも分からない。ただ、お腹が空いてるのよ」

「お母さんを止めるなんて––––殺すなんて出来ないわよ!」

「なら、大人しく喰われなさい!」


母の目が、怖かった。


「……私が食べられても、魔理沙達は眠ったままなの?」

「そうね。目覚めるのは私だけよ」

「私が死ぬのなんて、どうでもいいわ。ただ、魔理沙達が目覚めるなら私は……」

「どうするの?私を止めるの?」


母の腕は私の体へと伸びている。

普段なら、絶対に振り払わないだろうその腕を、私は掴み食い止めていた。














––––私は、迷っていた。















「––––ダメ。やっぱり、出来そうに「霊夢!!!」


私が力を抜こうとしたその瞬間に、横から声がした。

私も、そして母もその声の方へと顔を向ける。

そこには、剣を振りかぶった妖夢がいた。


「はぁ!!」


妖夢が、私を斬る。

それは真上から振り下ろされた、凄まじい速さだった。

私は––––私の迷いは斬り捨てられた。


「あとは任せる!喰うも喰われるも霊夢次第よ!」



––––夢操封印



妖夢が母に消された。

跡形もなく、綺麗さっぱりと。


「もうすぐで食べられそうだったのに……要らない邪魔が入ったわ」


母が呟く。


「さて、霊夢。そろそろ貴女を––––「ごめんなさい」











「––––え?」

「ごめんなさい。お母さん」


私は右手で、母の顔面を鷲掴みしていた。


「れい……む?」















「––––死んで」
















私は母の顔を握りつぶした。

それは一瞬だった。

悲鳴など、聞こえるはずもなかった。



「いただきます」



私は左手で首元を持つ。

右手についた顔の肉片を舌で舐めとる。

頭蓋骨の破片が舌に刺さった。














––––しかし、それが堪らない。










モットタベタイ––––











今の私は、どんな表情(かお)だろう?


























––––空が割れ始めた。

































「妖夢…………貴女、霊夢に一体何を?」


十六夜咲夜は呟いた。

変わり果てた霊夢の姿に、恐れをなしながら。

すでに"封印"された妖夢に向かって。


「何もおかしいことはないわ」


突然、後方から声がする。

その声の主は、八意永琳だった。


全員が永琳に注目する。


「あれが、夢喰(ユメクイ)よ。純正の夢喰、博麗霊夢よ」

「どういうこと?」

「貴女達は知らないだけ、いや、覚えていないだけ。夢喰が、どうやって人を食べるのか」


永琳が上空を見上げる。

それに合わせて、全員が見上げる。


手で千切り、歯で噛み切る。

原始的な食べ方で捕食をする霊夢の姿があった。


––––夢喰が、どうやって人を食べるのか。












空が、割れた。



















––––博麗操夢の夢は崩壊した––––










*キャラ設定(追記なし)


○博麗霊夢

「私は勘で動いただけよ」


年齢 : 17歳くらい

他人に無関心なところもあるが、人との関わりを避けているわけではない。

楽しいことも美味しいものも普通に好き。

勘が鋭く、自分でも驚くほどの的中率を誇る。


【能力 : 空を飛ぶ程度の能力】

文字通り空を飛ぶことができる。

この能力を発展させた技が以下の2つ。


・夢想封印

攻撃技。

武器として出現させた御札に特殊な効果を持たせる。

その札が貼り付いた者は光に包まれ捕食され、跡形もなくなる。

痛みもなく、存在が消える。


・夢想天生

防御技。

ありとあらゆるものから"浮く"ことで、実体を持たない"夢"の状態となる。

相手は攻撃を当てることも出来ず、ただ防ぐ手立てのない御札をその身に受けることになる。

また、その御札は追尾性能を持つ。




○十六夜咲夜

「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」


19歳になる程度の年齢。

冷静沈着、才色兼備………を装っている。

実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。

しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。

また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)


【能力 : 時を操る程度の能力】

時間を加速、減速、停止させることができる能力。

巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。


武器としてナイフを具現化させる。

その数に制限はない。




○八意永琳

「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」


37歳になる程度の年齢。

若くして名声を獲得した医師。

色んな薬を作っている(らしい)。

彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。


【能力 : あらゆる薬を作る程度の能力】

簡単な材料から不思議な薬を作ることが可能。




○魂魄妖夢

「私、もう迷わないよ」


17歳になる程度の年齢。

真面目で義理堅い。

ただ、自分に自信がなく、他人に流されやすいTHE日本人気質。

……に見えるが、実は意思がしっかりしている……ようでしてない。


【能力 : 剣術を扱う程度の能力】

具現化した二本の刀を自由自在に操ることができる能力。

だが、いつも長い方しか使ってない。


武器として二本の刀と半霊を具現化させる。

半霊は実体を持たせることも持たせないことも可能。

また、妖夢と同じ姿になら変身することができ、妖夢の声を半霊の口から出すこともできる。

つまり、同時に喋ることは出来ないが、半霊だけが喋ることは可能。




○フランドール・スカーレット

「今の紅魔館じゃない!あの何でもない日々が良かったの!」


9歳になる程度の年齢。

幼いながらも頭が良く、思考力に長ける。

但し、精神的には成熟しきっていない部分もあり、まだ成長途中であることも伺える。


【能力 : ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】

全ての物質に存在する"目"を手の中へと移動させ握り潰すことで、あらゆるものを破壊することができる。

ただし、魂や善悪などといった形のない概念的なものを破壊することはできない。


武器として炎を纏った災いの杖『レーヴァテイン』を具現化させることができる。




○アリス・マーガトロイド

「私はもう、目の前で人を死なせない」


20歳になる程度の年齢。

人形のような美しさを持つ美女。

冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。

しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。

また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。

子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。


【能力 : 魔法を扱う程度の能力】

主に支援・回復系魔法を使う。


【能力 : 人形を扱う程度の能力】

具現化した人形を武器として用いる。

その人形はまるで生きているかのように行動する。

爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。




○ルーミア

「……はぁ、わかったよ。断る方が面倒くさそうだし」


9歳になる程度の年齢。

極度の……本ッ当に、極度の面倒くさがり。

ただ、楽しい事や面白い事は普通に好き。

突拍子も無いことを言ったり考えたりするが、実は全て計算されている……かもしれない。


【能力 : 闇を操る程度の能力】

自らの周囲に闇を展開する。

その闇の中では相手も自分も視界を奪われる。

ただ、闇の中に何らかの方法で光が生まれると違和感を感じるようだ。


武器として闇を具現化させる。




○チルノ

「あたいはこの館を征服するわ!」


9歳になる程度の年齢。

自由奔放、天真爛漫、おてんば娘。

(バカ)じゃないぞ!自分に正直で、考えることが少し苦手なだけだッ!




○藤原妹紅

「私はその程度じゃ死ねないんだよ」


16歳になる程度の年齢。

強気で男勝りな性格の少女。

その口調は、魔理沙とは違い自然に出している。

しかし、ちゃんと女の子である。


【能力 : 老いることも死ぬこともない程度の能力】

不死身の肉体(のようなもの)を持ち、"死"に相当するダメージを負うと肉体が再構築され、完全復活する。

魂を消滅させられない限り、負けはない。


武器として炎を出現させる。

出現させた炎に限り、自在に操ることが可能。

(何かに燃え移った炎などは、操ることができない)




○博麗操夢

「––––楽しくなりそうね」


40歳になる程度の年齢。

始祖体と呼ばれ、全てのユメクイの(はは)となる存在。


【能力 : 夢を操る程度の能力】

夢の中ならば、全ての現象を操ることができる。

また、夢を現実にすることも可能。

この能力を発展させた技が以下の2つ。


・夢操封印

攻撃技。

相手の存在を消し去る。

そこには光も音も痛みも存在しない。

一瞬で消えて無くなる。


・夢操天生

防御技。

ありとあらゆるものを"操る"ことで、実体を持たない"夢"の状態となる。

相手は攻撃を当てることも出来ず、ただ防ぐ手立てのない操作をその身に受けることになる。


夢想天生と夢操天生が対立した場合、他の能力等が武器とならず、二人の闘いはただ力の限り殴り合うだけの赤子の戦いと化す。


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