第23話 裏切者 –– ウラギリモノ ––
「行っちまったな、あいつら」
私は2人––––霊夢と咲夜が出て行った扉を眺めながら言う。
その扉は閉められている。
「それにしても紫、お前も喰われたのか?」
「……食われた?」
「ああ、ユメクイの事知らないのか」
「ユメクイ……?」
「まあ、気にすんな。どうせ忘れるさ」
「はぁ……貴女に振り回されるなんて、私も落ちたものね」
「お前が落ちたんじゃなくて、私が上がったんだぜ」
「貴女の楽観的なところ、ほんの少しだけ、羨ましいわ」
紫と私は古い付き合いだ。
ほとんどは霊夢を挟んでの付き合いだったが、こうして2人で話すことも、しばしばあった。
霊夢の家に行ったり、そこから帰ったりするときにバッタリ遭遇なんてのは幾らもあったからな。
ふと見ると、気まずそうに、やんわりと笑顔を浮かべている少女がいた。
「悪いな、私たちだけ話して」
「あ、いや、別に……」
「確か、一度会ったことはあるよな?夢の中だけど」
「そうですね。私の夢の中で、会ったと思います」
「私は霧雨魔理沙、霊夢の親友だ」
「八雲紫。霊夢の母よ」
「義理だろ?」
「母よ」
「あ、えっと、私は魂魄妖夢です」
「私に敬語なんていらないぜ?」
「え……っと、じゃあ……うん」
「なんか、ぎこちないな」
「私にも敬語じゃなくていいのよ?」
「いや、流石にそれは……年齢の差が……」
「あ?」
「ひっ!?」
普段の美貌からは想像できないほどの…………いや容姿が整ってるからこそなのだろうか?
とにかく紫が、もの凄い形相で妖夢を睨んでいた。
そして妖夢は情けない声を上げている。
「やめてやれよ紫。妖夢がチビりそうだぞ」
「…………はぁ、まあ、敬語かどうかは任せるわよ」
「は……はい」
妖夢は完全にビビっている。
まあ、さっきの紫の顔は私ですら怖かった。
「それで、ここはどこなのかしら?」
「見て分からないのか?病院だぜ?」
「違うわよ。この世界はなんなの?ってこと」
「夢の世界だぜ!」
「夢の中……ってこと?じゃあ、あれかしら?なんでも思い通りになったり?」
「うーん、お前は無理だろうなぁ。現実世界と一緒だ」
「あら、残念ね。魔法でも使えればいいのに」
「たぶん、私は出来るぜ。ほらっ」
私は幾らかの輝く星とともに、魔法の箒を出現させた。
星はキラキラと輝き、そして消える。
「どうだ?凄いだろ?」
「…………貴女、いつから魔法使いになったの?」
「ついこの間だぜ。とは言っても、あれからどれくらい時間が経ったかは、分からないんだけどな」
「え?待って!魔理沙ってユメクイだったの?」
「よく分からんが、気づいたらそうなってたぜ」
「き、気づいたら……?」
妖夢は理解できない、と言った表情をした。
「さっきから何度か聞くフレーズだけど、ユメクイってのは何なのかしら?」
「夢を喰う奴らのことだぜ」
「そのまんまね」
「そのまんまだぜ」
「…………妖夢、でしたっけ?補足してくださる?」
「あ、はい。えっと……ユメクイは人の夢を集めて、その世界の中で人を喰べるんです。そして喰べられた人間は全ての意思を失ってしまいます」
「もしかして、私達って食べられたから病院にいるのかしら?」
「そういうことになります」
「なるほど……ああ、少し繋がってきたわ。魔理沙や霊夢達の言っていたことも、段々と理解出来きてきた気がする。ただ、1つ聞きたいのだけど」
「何ですか?」
「夢の中での記憶は、残らないのかしら?」
「そ、その通りです」
妖夢は驚いていた。
私も当然驚く。
紫の推理力は、半端じゃない。
「さて、何となく状況もつかめてきたし……行きましょうか」
「え、行くってどこに?」
「この世界の主、ということになるのかしら?」
「待てよ、何でお前が分かるんだ?」
「思い当たる節があるのよ。確実ではないけど、多分彼女がこの世界を作ったと思うわ」
「……いつものことだが、お前の考えることは常人には理解出来ないぜ」
「当然よ。私は常人じゃないもの」
「何なんだ。その自信は……?」
紫は立ち上がり、扉へ向かう。
「ま、待ってください!霊夢にここを出るなって……」
「馬鹿ね、貴女。あれは、振りって奴よ」
「ふ、振り……?」
「ねぇ魔理沙、貴女もそう思うでしょ?」
「え?あー、まあ、そうかもな」
「え、えぇ……?」
納得いかない様子の妖夢だが、私たちが病室を出ると、すぐについて来た。
「ところで紫、私達はどこに向かってるんだ?」
「電力管理室よ」
「……は?そんなところに向かって、何をするんだ?」
「電力を止めるわ」
「何のためにそんなことすんだ?」
「止めれば分かるわよ」
やっぱりこいつの考えていることは、理解に苦しむ。
「……それにしても紫、何でこの病院の構造が分かるんだ?」
「八意永琳のことを調べていたときに、この病院のことも調べただけよ」
「八意永琳?ああ、霊夢達が会いに行った院長って奴か?」
「ええ、そうだけど……貴女、彼女のことは知らないのね」
「会ったことないからな」
「貴女を救ったのは彼女よ?」
「マジか!?それは記憶にないぜ……」
はぁ……と何故か紫に呆れられた。
「さて、着いたわ」
「ここか。鍵はどうするんだ?」
「貴女達の能力で何とかならないの?」
「あ、私が斬りましょうか?」
「何だよ妖夢。お前、さっきまでとは違ってノリノリだな?」
「もうどうにでもなれ、と思ってね。どうせ夢だし、紫さんには何か考えがあるみたいだし。協力したいのよ」
「へぇ、そんなもんかね」
「ありがとう妖夢。お願いするわ」
「はい、任せてください」
妖夢は剣を出現させる。
そして、扉を真っ二つに切り裂いた。
「すごい切れ味ね」
「ありがとうございます」
「さて、入りましょうか」
紫に続いて、私達も部屋に入る。
「……面倒ね。妖夢、とりあえずその辺の送電線を切ってみてくれるかしら?」
「え?あ、はい」
「おいおい紫、随分と適当じゃないか?」
「いいのよ別に。どう止めるかは重要じゃないもの」
そんなことを話していると、突然明かりが消えた。
妖夢が送電線を切り落としたようだ。
「やはりここの電力は落ちてないわね」
室内の電気は消えているが、管理機材の電源は落ちていない。
「おい、紫。結局停電させた意味がわからないぞ?」
「……病院では、別電源で動く場所がいくつかあるわ」
紫は静かに話し出す。
「それはICUだったり、手術室だったり、警備室だったり……だけど、この地下にある部屋は何でしょうね?」
「……何だってんだ?」
「私の推理が正しければ、この部屋に"彼女"が眠っているはずよ」
「彼女……?そいつがこの夢の主なのか?」
「おそらくね。それでは向かいましょうか」
紫は歩き出す。
私と妖夢は、まだ良く理解できていなかったが、おとなしく紫の後をついていくことにした––––
「何よ、この停電!?」
突然、院内の明かりが消えた。
「さあね、でも今はそんなことを気にしてる場合じゃないわ」
慌てる私に対し、咲夜は冷静だった。
「さて、着いたわ。ご対面と行きましょうか?」
咲夜が扉に手をかける。
そのときだった。
「––––待ちなさい!」
後ろから突然声がする。
「……誰かしら?」
咲夜と私は振り返った。
「始祖体を手に入れるのは、この私よ!」
そこには1人の少女––––鈴仙・優曇華院・イナバがいた。
「……裏切り者は貴女だったということ?」
「私は、始祖体を手に入れるために今日まで頑張ったの。最後の最後で、邪魔しないで欲しいわ!」
「どんな事情かは分からないけど––––」
––––パチンッ
「––––私に勝てると思ってるの?」
「や、やめて!咲夜!?」
「……え?れ、霊夢?」
咲夜がナイフを突きつけていたのは、鈴仙ではなく、私だった。
「ふふっ、仲間割れなんて、何してるのよ?」
「……貴女の能力?」
「そうよ。方向感覚をズラしてあげたわ。時を止めたって、幻覚は避けられないでしょう?」
鈴仙の能力は"波長を操る程度の能力"
それは咲夜の"時間を操る程度の能力"を凌駕していた。
しかし、咲夜の能力はただ"時を操る"だけではなかった。
"時を操る"ことと"空間を操る"ことは同値である。
そのため咲夜は、空間把握能力に長けていた。
「––––そこね」
「なっ!?」
咲夜は、明後日の方向にナイフを投げつけた。
少なくとも、私にはそう見えた。
しかし、私の目が捉えている鈴仙は、肩に傷を負った。
「ぐっ……ど、どうして?」
「違和感よ。そこの空間に違和感があった。本当は心臓を狙ったのだけど……外したわね」
目に見える事が必ずしも信じられるとは限らない。
私はその光景を見て、身に染みるように感じていた。
「次は外さないわ」
「……ふふっ」
「あら、頭がおかしくなったのかしら?」
突然笑い出す鈴仙。
咲夜も私も、その笑顔の意味は分からない。
「咲夜、やっぱり貴女は本当に強いわね」
鈴仙が呟く。
「でも、大きな欠点がある」
「……何かしら?」
私に見えていた鈴仙の姿が、まるで風船のように宙に浮かび、咲夜の捉えていた鈴仙と一致する。
「これでも、私を攻撃できるかしら?」
「……ッ!?」
そして、一致すると同時に、先ほどまで鈴仙がいた場所には、レミリア・スカーレットがいた。
咲夜は鈴仙が何処にいるかを察知することはできた。
しかし、視覚に入ってくる情報は鈴仙に操られているままだった。
「貴女は、大好きなお嬢様に、ナイフを向けられるの?」
「……お前は……お嬢様じゃないっ!!!」
咲夜が普段とは違う声色で、ナイフを手に鈴仙へと迫る。
「咲夜!やめて!!」
叫んだのは鈴仙だ。
しかし、声も容姿も、レミリアのそれだった。
咲夜のナイフは、鈴仙の––––今はレミリアにしか見えないが––––喉に触れる既のところで止まる。
咲夜は躊躇ってしまった。
「ッ…………お嬢様……」
咲夜が呟く。
戦場においては、一瞬の躊躇いが命取りになる。
鈴仙は笑っていた。
「バァン」
鈴仙は右手で拳銃のような形を作り、悪戯に笑いながら言った。
咲夜の体に、風穴が空いた––––
私達は紫の先導のもと、目的地へと辿り着いていた。
「おい、紫。あれは何だ……?」
そして今私たちは、目を疑う光景を眺めている。
「姿形は、霊夢に見えるわ」
「奇遇だな。私もそう見えるぜ」
「でも、私が知ってる霊夢は人間のはずなのだけど?」
「またまた奇遇だな。私もだぜ」
「2人とも現実に戻って!?」
「馬鹿だな妖夢。ここは現実じゃないぜ?」
「あーもう!そういうことじゃない!あれはどう考えても霊夢でしょ!?」
「でも私、空を飛ぶ霊夢なんて見たことないぜ」
「奇遇ね。私もないわ」
「紫さんも、ふざけてないで––––」
その時、私達は光に包まれた。
*キャラ設定(追記なし)
○博麗霊夢
「私は勘で動いただけよ」
年齢 : 17歳くらい
他人に無関心なところもあるが、人との関わりを避けているわけではない。
楽しいことも美味しいものも普通に好き。
勘が鋭く、自分でも驚くほどの的中率を誇る。
【能力 : 空を飛ぶ程度の能力】
文字通り空を飛ぶことができる。
この能力を発展させた技が以下の2つ。
・夢想封印
攻撃技。
武器として出現させた御札に特殊な効果を持たせる。
その札が貼り付いた者は光に包まれ捕食され、跡形もなくなる。
痛みもなく、存在が消える。
・夢想天生
防御技。
ありとあらゆるものから"浮く"ことで、実体を持たない"夢"の状態となる。
相手は攻撃を当てることも出来ず、ただ防ぐ手立てのない御札をその身に受けることになる。
また、その御札は追尾性能を持つ。
○霧雨魔理沙
「おっす霊夢、迎えに来たぜ」
17歳になる程度の年齢。
好奇心旺盛、明朗快活。
男勝りな口調は意識してる。
内面はただの乙女。
霊夢の古くからの友人であり、一番の理解者。
○十六夜咲夜
「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」
19歳になる程度の年齢。
冷静沈着、才色兼備………を装っている。
実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。
しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。
また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)
【能力 : 時を操る程度の能力】
時間を加速、減速、停止させることができる能力。
巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。
武器としてナイフを具現化させる。
その数に制限はない。
○魂魄妖夢
「私、もう迷わないよ」
17歳になる程度の年齢。
真面目で義理堅い。
ただ、自分に自信がなく、他人に流されやすいTHE日本人気質。
……に見えるが、実は意思がしっかりしている……ようでしてない。
【能力 : 剣術を扱う程度の能力】
具現化した二本の刀を自由自在に操ることができる能力。
だが、いつも長い方しか使ってない。
武器として二本の刀と半霊を具現化させる。
半霊は実体を持たせることも持たせないことも可能。
また、妖夢と同じ姿になら変身することができ、妖夢の声を半霊の口から出すこともできる。
つまり、同時に喋ることは出来ないが、半霊だけが喋ることは可能。
○八雲紫
「当然よ。私は常人じゃないもの」
国家機密になる程度の年齢。
知る人ぞ知る名探偵。
洞察力、思考力に長けるが故に何を考えているか分からない。
その上、笑顔で隠そうとするから本当にタチが悪い。
霊夢のことを気にかけているが、それが霊夢の為なのかは不明。
彼女に年齢ネタは禁句です。
○鈴仙・優曇華院・イナバ
「ひ、酷いです師匠!私が師匠を裏切るわけありません!!」
18歳になる程度の年齢。
永琳を師匠と慕う少女。
真面目で陽気な性格。
本来は臆病者だがユメクイ化の影響で少し強気になった。
人は力を手に入れると変わるのである()
【能力 : 波長を操る程度の能力】
光や音の波長を操ることで幻覚や幻聴を起こす。
相手の五感に干渉できる。
武器として弾丸を発射することができる。
自らの手で拳銃のような形を作り、発射する。