第16話 会合 –– カイゴウ ––
「それは医療ミスによって生まれたものだった––––」
ユメクイが生まれたのは2年前、私––––八意永琳が少しずつ名声を手に入れ始めた頃だった。
その当時私は、"あらゆる薬を作る医者"として、世の人々に名を知らしめていた。
本来、薬とは医者によって作られるものではない。
新薬開発を専門とする研究員が開発し、臨床実験や国からの承認などを経てから、ようやく薬は世に出回る。
では、一体どうして、私はそのような名声を手に入れたのか?
それは私の薬の特徴が影響していた。
私の薬は、化学物質を使用しない。
少し手間や金のかかるものもあるが、全て民間人が手に入れることのできる物質、または動植物である。
もちろん、違法性のものなど全くない。
言わば、私の製薬は"調理"であり、人々から薬と呼ばれているだけの"料理"なのだ。
そして私は、無闇矢鱈にその"料理"を提供しない。
本当に必要な人に、本当に必要な量だけを作る。
さらにその"料理"を、受け取った患者が服用する以外の目的に使用しないことを条件に提供していた。
それが徹底して守られていることから、私が信頼を得ていることが伺えるだろう。
そうして私の薬は世に出回るも、情報が漏れることはなかった。
だからこそ、私の医療ミスは––––調理ミスとも言い換えられるかもしれないが––––露呈することが一切ないまま、現在に至ってしまったのだが……
私はある日、不眠症を改善する薬を求められ、眠りに関する研究が始まった。
その研究の中で私は、人間がほとんど全ての時間において夢を見ているということを発見した。
そうして出来上がったのが、"夢を見られなくする薬"だった。
人が常日頃から見ている夢を見られなくすることで、スムーズに眠りへと誘導する。
それが私の狙いだった。
事実、服用した患者は皆、急激に眠気に襲われる睡眠薬とは異なり、ごく自然に眠りへと誘われるようになった。
その薬が口コミで広がり、多くの人が服用することになった。
初めは順調だった。
しかしある時、私は気づく。
その薬には、重大な副作用があった––––
「––––そうして生まれたのがユメクイよ。私はその責任を取るために、こうして貴女たちに頼んでいるわ。ただ、私が死ぬ訳にはいかないから、戦線から引かせてもらっているけど」
「それに関しては、私達4人は知ってる事だろ?裏切り者ってのが見えてこないんだが?」
「今から話すわ。待ちなさい、妹紅」
永琳が全員を優しい目つきで見る。
「貴女たちの働きには本当に感謝している。本来私自身ががするべきことを代わりにやってくれているのだから、感謝の念しかないわ。ただ––––」
視線が鋭くなる。
永琳の表情は、全員が恐怖するに値した。
「––––ニュースでも流れているように、最近の窒息死の死亡件数は増える一方よ。貴女たちが月に50体以上のユメクイを"処分"しているにもかかわらず、ね」
永琳は表情を変えずに続ける。
「さらに言えば、以前は減少傾向が見られていた。だから、窒息事件も今ほど騒がれてはいなかったわ。これがどういう意味か……分かるかしら?」
永琳は笑っていた。
その笑顔は冷たく、鋭かった。
「……誰かが増やしている。そしてそれが出来るのはここにいる……いや、もっと言えば古参の私達4人だけ––––そう言いたいのですね、師匠?」
「珍しく察しがいいじゃない、優曇華。案外、貴女が裏切り者なのかしら?」
「ひ、酷いです師匠!私が師匠を裏切るわけありません!!」
「そうね、貴女は私を裏切らない。信じてるわよ」
「そ、そう真面目な顔で言われると照れます……あはは……」
恥ずかしそうな鈴仙を、永琳は先ほどとは異なる笑みを浮かべて見ていた。
そしてその笑みを消した後に、永琳は口を開く。
「とにかく、優曇華が言った様に、この中に増やして回っている者がいる可能性がある。考えたくはないけど、覚えておいて。それと、これからはユメクイを殺す前に、余裕があれば、どうやってユメクイになったかを聞いて欲しいわ。なんらかの手かがりになるかもしれないから」
全員がその言葉に頷いた。
「確かに私も、最近増えてるのはおかしいと思ってたよ。だけど、意図的に増やすメリットが分からない。ユメクイなんてもの、いない方がみんな幸せだろ?」
「私には増やしてる輩の気持ちなんて分からないし、分かりたくもないわ」
妹紅の純粋な疑問に、永琳が当たり前のように答える。
「あはは、確かにそりゃ違いないね」
妹紅は、言葉だけで笑う。
表情は真剣そのものだった。
彼女なりに、事態を重く受け止めているのだろう。
––––––––––ザワッ––––––––––
「……ッ!?」
それは本当に突然だった。
何の前触れもなく、いきなりの事だった。
私の前から永琳"だけ"が姿を消し、目の前に広がる光景も変わった。
そこはあたりに人形が散らばった、まるで子供部屋––––ドアや天井などは見当たらないが––––のような空間だった。
空には紅い月が浮いており、辺りを照らしている。
「すごい数の人形だな。まさかアリスがこの夢の主だったりするのか?」
「違うわ、妹紅。確かに私の夢にも人形がたくさんいるけど––––」
アリスは、人形を悲しそうな目で見た。
「––––私は人形を、こんな風に扱ったりしない」
散らばった人形は、頭がもげていたり、手足がちぎれていたり、とにかく悲惨な状態だった。
「お前も武器として使ってるから、そこまで人のこと言えないんじゃ……」
「妹紅、うるさいわよ」
妹紅は、アリスに怒られてしまった。
アリスはあんな粗末な使い方をしているが、人形への愛は本物の様だ。
「……それにしても、全くもって、不運なユメクイね」
「全くだな。私達が全員集まってる中で、夢を集めてしまったんだ。これ以上不運なことはないよ」
咲夜の呟きに、妹紅が反応する。
「さて、さっさとこの夢の主を探して、出してもらいましょうか」
「あ、じゃあ誰が一番に殺せるか勝負する?」
「鈴仙、あんた楽しんでるわね……」
「だって、みんなで巻き込まれるなんて初めてじゃない!咲夜だって、実は楽しんでたり……」
「あぁ?」
「咲夜さん、女性がしてはいけない顔をしています。やめて頂けると幸いです、はい」
「じゃあ私は闇でも展開しようかなー」
「ルーミア、やめなさい」
「アリスはうるさいなぁ」
「貴女が突拍子も無い事をするからでしょ?」
「本気で言ってるわけないじゃん。私だって、闇の中じゃ見えないんだもん」
「はぁ……」
「すっかりアリスはルーミアの保護者なんだな。振り回されてるだけな気もするけど」
「別に保護者のつもりは無いんだけどね」
「だったらやめてよ。面倒くさいから」
「嫌よ。私が言わないと、貴女本当に何するか分からないもの」
「はは、なんだか兄弟みたいにも見えるな」
「ねえ妖夢」
「霊夢?どうしたの?」
「いや、はしゃいでないのはあんただけかなと思ってね。やっぱり、ユメクイ特有の自信が、まだ少ないからなのかしら?」
「何なの?霊夢は私を馬鹿にしに来たの?」
「いえ、寧ろ褒めてるつもりよ。他の奴らは危機感が無さすぎるわ」
「うん、確かにそうだけど……でも、これだけ集まってて、負ける気はしないよ」
「普通なら、そう思って当然ね」
「霊夢は違うの?」
「何かが起こる気がする、程度だけど。何だか安心できないのよね」
「さすがに考え過ぎなんじゃないかな?」
「私もそう思うわ」
「え?矛盾してない?」
「仕方ないでしょ?ただの勘なんだから」
「勘なのね…………って、あれ?霊夢の勘って確か––––」
––––グチャッ
「…………え?」
私の顔に、肉片が付着した。
「よ、妖夢……?」
妖夢は体の内側から爆発したようだった。
「あはははははははははっ!!」
突然背後から声がする。
「凄い凄い!今までで一番派手だったわ!」
その、幼い声は狂気に満ち、恐怖心を煽る。
突然のことに、状況を理解できる者は居なかった。
ただ静まり返り、声の主を見ることしかできない。
––––アイツがこの夢の主だ、という当たり前の発想に至るまでに時間を要した。
「妖夢!!!」
私が叫ぶ。
その声を機に、全員が我に返る。
そして、理解し緊張感が走る。
「次は誰にしよっかなー?あ、でもやり過ぎちゃうと食べられないなー。うーん、どうしよ…………あれ?」
その声、表情、そして瞳は狂気に満ちていた。
その狂気に私は動けなかった。
妹紅は戦闘態勢をとる。
鈴仙は、なぜか微笑んでいる。
アリスは睨みつけ、ルーミアはただ見つめる。
––––そして咲夜が後ずさった。
「……そこに居るの、咲夜だよね?」
「ッ…………」
「ねぇねぇ、咲夜でしょ?」
「………………い、妹様」
「ほーらっ!やっぱり咲夜だ!」
「なんだ、知り合いか?」
妹紅が尋ねる。
咲夜は弱々しく答えた。
「……お嬢様の妹……フランドール・スカーレット様よ」
「へぇ、あんたが慕ってる可愛いお嬢様の妹か。まあ、だけど––––」
妹紅が咲夜を睨みつけた。
その瞳には明らかな殺意が感じられる。
「––––殺さなきゃいけないのはアイツだよな?」
「ま、待って……!」
「咲夜、何を待つんだよ?あいつがユメクイなのは明らかだ。それに、すでに妖夢を殺してる……許されないユメクイだ。私情を挟むんじゃないぞ?」
「ッ……」
「まあ、なんだ。さすがに咲夜がアレを殺すのは辛いだろうから、私が殺るよ。黙って見てな」
「妹紅……」
咲夜が、珍しく迷っていた。
––––妹紅を止めることは決して許されない。
だが、妹様が殺されることも許されない。
お嬢様は妹様を、本当に大切にしていらした。
その妹様が殺されるのを、ただ見ているだけなんて––––
咲夜の目は焦点があっていなかった。
私は、妖夢が殺されたという事実を理解し、少女を睨みつける。
その少女––––フランドール・スカーレットは今も笑っていた。
「ねぇねぇ、さっきから私を殺すとか言ってるけど、本気なの?無理だよ、絶対」
「随分生意気だな。まあいい、私の炎で焼き尽くしてやるさ!」
「……!?」
人体が自然発火する。
あまりの光景に、フランは驚きが隠せていなかった。
そして、その炎がフランに迫る。
フランは背中の特徴的な羽を使って––––あの羽で飛べるとは思えないのだが––––空に浮かぶ。
炎をあっさりと避けた。
「すっごい!もう一回やって!!」
「やれやれ、楽しませるためにやってるんじゃないんだけどね」
妹紅は呆れたように見せる。
「背後に気をつけな」
「え?」
フランは振り返る。先ほど避けたはずの炎が迫っていた。
「うわっ!?」
「…………なんだ、避けるのか。なら、これはどうかな?」
辺り一面が炎に包まれる。
そして夥しい量の炎が、フランに迫る。
「むぅ……さすがに当たったら熱いよね?」
そこに避ける隙間は存在しなかった。
「もっと見ていたかったけど、仕方ないね。バイバイ」
フランは"目"を握りつぶした。
その刹那、妹紅は弾け飛ぶ。
正確には、妹紅の肉片が内側から弾け飛んだ。
妹紅の肉体の崩壊とともに、彼女の炎も掻き消える。
「そろそろご飯にしようかな。お腹空いたし」
フランは何事もなかったかのように地に降り立つ。
その右手には、既に全員の"目"を所持していた。
「もしかして他の人たちも、さっきみたいな事が出来るのかしら?でもいいよ、やらなくて。もうお腹ペコペコだから。とりあえず動かないで欲しいんだけど、どうせ言うこと聞かないでしょ?だから、動けないようにしてあげるね」
フランは早口で捲し立て、その手を握った。
次の瞬間、私たちの両膝が吹っ飛んだ。
「があああぁぁあぁぁああぁぁああぁあああ!!!」
私は痛みで叫ぶ。
もちろん私だけじゃない。
しかしフラン以外に、もう1人だけ、その場に立っている者がいた。
「貴女には何もしないであげるわ、咲夜」
「い、妹様……」
フランは笑っている。
「でも勘違いしないで欲しいな。私は咲夜が嫌いなの。だってこの私よりもアイツを選んだ訳だからね。まあ、咲夜を拾ったのはアイツだから当然だって理解はできるけど、納得はできないよ。アイツだけじゃなくて紅魔館にいた皆が咲夜のことを家族として想ってた。もちろん私も想ってた。なのに咲夜はいきなりアイツと居なくなるし、美鈴は何があったか教えてくれないし、なんだか私だけ除け者にされてる気がするし、なによりも咲夜にとって私ってその程度だったんだって思った。つまり咲夜は裏切ったんだよね、私たちの想いを、いや私の想いを。そう思ったら許せない。本当に憎たらしいよ。それこそ殺してやりたいくらいにはね。だけど久々に会ったら、少し昔を思い出して懐かしんでる私がいるわ。妹様って響きも懐かしくて、嬉しく感じてる。あはは、感情って、本当に面白いよね、1つに決まらない。ふふっ、咲夜の今の表情も面白いよ。何言ってるか分からない、みたいな顔してる。珍しいね、咲夜がそんな顔するなんて。でもまあ、要するに私の言いたいコトは––––」
フランが圧倒するように捲し立てた。
咲夜は何も言えない。
「––––邪魔したら、コ ロ ス 」
咲夜は金縛りにあったように動けなくなった。
*キャラ設定(追記あり)
○博麗霊夢
「私は勘で動いただけよ」
17歳になる程度の年齢。
他人に無関心なところもあるが、人との関わりを避けているわけではない。
楽しいことも美味しいものも普通に好き。
勘が鋭く、自分でも驚くほどの的中率を誇る。
○十六夜咲夜
「まあ、1番早いのは、私がユメクイを殺すことでしょうね」
19歳になる程度の年齢。
冷静沈着、才色兼備………を装っている。
実力、容姿共に十分だが、自意識過剰。
しかし結構他人想いで、世話焼きな面もある。
また家事全般を余裕でこなせる為、嫁にしたい女子No. 1である。(作者調べ)
【能力 : 時を操る程度の能力】
時間を加速、減速、停止させることができる能力。
巻き戻すことや、なかったことにする事はできない。
武器としてナイフを具現化させる。
その数に制限はない。
○八意永琳
「また、やり直しましょう。私にはそれを手伝い、見届ける責任がある」
37歳になる程度の年齢。
若くして名声を獲得した医師。
色んな薬を作っている(らしい)。
彼女の人柄に惹かれて病院を訪れる者も多い。
○魂魄妖夢
「私、もう迷わないよ」
17歳になる程度の年齢。
真面目で義理堅い。
ただ、自分に自信がなく、他人に流されやすいTHE日本人気質。
……に見えるが、実は意思がしっかりしている……ようでしてない。
【能力 : 剣術を扱う程度の能力】
具現化した二本の刀を自由自在に操ることができる能力。
だが、いつも長い方しか使ってない。
武器として二本の刀と半霊を具現化させる。
半霊は実体を持たせることも持たせないことも可能。
また、妖夢と同じ姿になら変身することができ、妖夢の声を半霊の口から出すこともできる。
つまり、同時に喋ることは出来ないが、半霊だけが喋ることは可能。
○フランドール・スカーレット
「今の紅魔館じゃない!あの何でもない日々が良かったの!」
9歳になる程度の年齢。
突如として消えた姉、レミリアに代わり紅魔館の当主になったようだ。
詳しいことは第17話以降に描かれるだろう。
【能力 : ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】
全ての物質に存在する"目"を手の中へと移動させ握り潰すことで、あらゆるものを破壊することができる。
ただし、魂や善悪などといった形のない概念的なものを破壊することはできない。
武器として炎を纏った災いの杖『レーヴァテイン』を具現化させることができる。
○アリス・マーガトロイド
「私はもう、目の前で人を死なせない」
20歳になる程度の年齢。
人形のような美しさを持つ美女。
冷静であることを心がけているが、予想外の出来事には若干弱い。
しかし、その予想外の出来事を楽しむことができる。
また、かなりの世話焼きで、子供が大好き。
子供を愛でるのは、人形を愛でるのと同じよう感覚……らしい。
【能力 : 魔法を扱う程度の能力】
主に支援・回復系魔法を使う。
【能力 : 人形を扱う程度の能力】
具現化した人形を武器として用いる。
その人形はまるで生きているかのように行動する。
爆弾を内蔵しているものや、武器を所持しているものなど用途により種類は様々。
○ルーミア
「……はぁ、わかったよ。断る方が面倒くさそうだし」
9歳になる程度の年齢。
極度の……本ッ当に、極度の面倒くさがり。
ただ、楽しい事や面白い事は普通に好き。
突拍子も無いことを言ったり考えたりするが、実は全て計算されている……かもしれない。
【能力 : 闇を操る程度の能力】
自らの周囲に闇を展開する。
その闇の中では相手も自分も視界を奪われる。
ただ、闇の中に何らかの方法で光が生まれると違和感を感じるようだ。
武器として闇を具現化させる。
○藤原妹紅
「私はその程度じゃ死ねないんだよ」
16歳になる程度の年齢。
強気で男勝りな性格の少女。
その口調は、魔理沙とは違い自然に出している。
しかし、ちゃんと女の子である。
【能力 : 老いることも死ぬこともない程度の能力】
不死身の肉体(のようなもの)を持ち、"死"に相当するダメージを負うと肉体が再構築され、完全復活する。
魂を消滅させられない限り、負けはない。
武器として炎を出現させる。
出現させた炎に限り、自在に操ることが可能。
(何かに燃え移った炎などは、操ることができない)
○鈴仙・優曇華院・イナバ
「ひ、酷いです師匠!私が師匠を裏切るわけありません!!」
18歳になる程度の年齢。
永琳を師匠と慕う少女。
真面目で陽気な性格。
本来は臆病者だがユメクイ化の影響で少し強気になった。
人は力を手に入れると変わるのである()
【能力 : 波長を操る程度の能力】
光や音の波長を操ることで幻覚や幻聴を起こす。
相手の五感に干渉できる。
武器として弾丸を発射することができる。
自らの手で拳銃のような形を作り、発射する。




