菜虫化蝶(なむしちょうとなる)
ちょいグロです。
3月の中旬。
一人の女性が死んでいた。
野原でうつ伏せで倒れていた。
全裸で首のところから腰のところまでの皮膚がバックリと裂けていた。不思議な事に血は一滴も出ていなかった。
異様な死に方だったのて検死かけられたが結果は自然死と断定された。
背中の傷は深そうに見えたが皮膚で止まっており、致命傷にはならないと考えられたからだ。
精神的病んでいたようなので、あるいは自殺も疑われたが、毒物らしきものの検出もなかった。
格好な新聞ネタとして、暫く耳目を集めたものだがすぐに色褪せ、忘れられた。
以下は彼女の残した日記の抜粋である。
最近 眠るのが怖い
とても怖い
いつも同じ夢をみる
あれは夢なの?
真っ暗なところ
ただ 微かな音だけが聴こえる
シャリ シャリ
シャリ シャリ
暗闇の中 音だけが聞こえる
気が狂いそう
暗闇の中 わたしは横たわっている
指一つ動かせない
音は相変わらず聞こえてくる
わたしは 何時間も 音を聴き続ける
ただ、ひたすらに 聴き続ける
眼が醒めるまで ずっと ずっと
最近 起きると どっと疲れる
夢の中で眼が慣れるなんて事があるのかな
とにかく うすぼんやりだけど見えてきた
暗闇の中 自分はどこかに横たわっている
どこなのか?
それは分からない
相変わらず指一本動かせない
最近 ちょっとだけ首が動かせるようになった
わたし 裸だ
欲求不満なのかな
体の下の方で何かが動いてた
細長い何かが足の方でチラチラ見える
蛇?
良く見えない
もうちょっと首が動いたら
なんなのか分かるのに
シャリシャリいう音は相変わらず聞こえてくる
耳障りな音
ああ ああ
なんてこと なんてことなの
音の正体が判った
青虫が 大きな青虫が わたしをかじり取っているのだ
わたしをかじりとるたびにシャリシャリと音がする
痛くも痒くもない
痛くも痒くもないの
ただ 音がするだけ
休みなく 音だけが
シャリシャリシャリシャリ
シャリシャリシャリシャリ
首だけだけど 大分動かせるようになった
でも 動かない方が良かった
酷い事になってる
右足は膝のところまで骨だけになっている
今 青虫は左足の太股を一生懸命かじっている
皮膚が綺麗にかじりとられ 理科教室の人体模型のように
赤い筋肉が剥き出しになっている
見たくない
見なきゃ良かった
でも 見ずにはいられない
青虫が 真ん丸に太った青虫が
わたし 食べられている
お腹の上を 這いずりまわり はむはむと
わたし 食べられている
夢だから
夢だから
ただの夢だから
痛みも何もない
どうってことない
たとえ お腹の中を食べ尽くされても
眼が覚めれば ちゃんと 元通り
青虫も 居やしない 居やしないのよ
助けて
助けて
我慢できない
左の乳房を喰い千切られ 心臓が 剥き出しになっている
ドクン ドクン
規則的に 脈打つ 心臓に
あいつが
わたしの腕より大きくなった 青虫が かぶりつく
止めて 止めて
さいきん なにも たのしくない
なにをたべても 砂のよう
なにをみても ドキドキしない
青虫に 心臓を食べられたせい?
自分の顔は 見れないけれど
この間 青虫が 下顎 辺りで 蠢いていた
味を感じなくなったのは 舌をたべられたから?
青虫はもういない
わたしもいない
あるのは青虫が食い散らかした 無惨な 残骸
標本のような見事な肋骨にまもられるように
大きな蛹が鎮座している
暗闇の中 もう なんの音もしない
ああ ああ
外に出ないと
熱い 熱い アツい
あの子が 生まれるの
外に出ないと あの子の為に
大空へ あの子を
あのこ
かえす の
2017/03/15 初稿
2018/08/18 形を整えました
バイオハザードぽくなりました。
オマージュです。
そういえば、バイオハザードの映画またやるみたいですね。(ミラジョボじゃない3DCGの方)
ちなみに好きなキャラはクレアです。
次話投稿は3月20日を予定しています。
次話 雀始巣