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恐怖七十二候  作者: 如月 一
啓蟄(けいちつ)
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桃始笑(ももはじめてさく)



 I市を横断する国道から少し外れた場所にその木はある。

 桜の木や梅の木と良く間違えられるが桃の木である。

 いつ頃からあるのかと尋ねても誰も答えられない。近所にすむお年寄りに聞いても、昔からという返事しか返っては来ないだろう。

 木の歴史を紐解くと江戸時代にまで遡れる。

江戸時代、木の植えられている場所には神社があった。

 明治維新を生き残った神社も先の大戦の空襲で焼き出され、跡形もなくなった。

 その空襲の中、桃の木だけが奇跡的に焼け残ったのだが、その光景や事実を知る者は既に、皆、死に絶えていた。

 人が歳をとるように、木もまた歳をとり、老いる。

 長い時を経て、その木も寿命を迎えようとしていた。

 幹の空洞化が進み、木の皮は脆くなり、触るだけでボロボロと崩れる。数年前から花も咲かなくなった。

 誰もが、もうすぐ枯れるであろうと思っていた、そんなある日。

 木の近くで交通事故があった。

 それほど酷い事故では無かったが、運転手は運が悪いことに頸動脈を切ってしまった。

 噴出する血を懸命に押さえながら助けを求めて外に出たものの、3歩も歩かないうちに力尽き、桃の木の根本に顔を埋めるようにして息絶えた。


 辺り一面、血の海だった。


 そして次の日、桃の花が何年か振りに咲いた。


 それから、桃の木は毎年のように花を咲かすようになった。

 枝振りは良くなり、幹の空洞化も、木の皮がボロボロ捲れ落ちることもなくなった。木は完全に復活したのだ。

 他にも変わったことがあった。

 一つは、木の周辺で交通事故が増えたこと。

もう一つは、真夜中、桃の木のところに女が立っているのがたびたび目撃されるようになったことだ。

 女は、道路をニタニタ笑いながら見ているという。

 木の周辺の住人で、その人物に該当する人物はいない。女は、桃の花が咲く頃、3月上旬が過ぎようとする頃が良く目撃された。


 咲くようになった桃の花。

 頻発する交通事故。

 笑う女。

 この三つに何か関係があるのか、それともないのか、誰にも分からない。










2017/03/10 初稿

2018/08/18 形を整えました

2019/11/29 文章少し調整しました



次話 菜虫化蝶なむしちょうとなる

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