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恐怖七十二候  作者: 如月 一
小寒(しょうかん)
69/72

雉始雊(きじはじめてなく)

机の中に入れた指先にネチャネチャしたものが触れた。

「うん?」

手を引き出すと茶色い物が付着していた。

僕はうんざりした気持ちになる。

その正体がなんなのか確める気も起きない。

時間の無駄だ。どうせまた、誰かがゴミでも入れたのだろう。

何が楽しいのかよく分からないが、僕は学校で苛めにあっていた。

教科書や体育着が無くなることは日常茶飯事だ。一度は机がバラバラになっていたことがあった。これは学校も無視できずに緊急で苛めの調査がされた。流石にヤバイと思ったのか首謀者連中の箝口令が生徒の間で厳重にひかれたようだ。

僕のところにも苛めなんてチクったら容赦しないぞと直接の脅しがきた。

ばれるのが嫌なら苛めなんかしなきゃ良いと思うぞ、と言ったら集団で殴りかかってきた。

なので、全員叩きのめした。

ところが、なぜか僕が一方的に乱暴を働いたと言う話になってしまった。

机も、僕がバラバラにしたのだ、となって苛めも存在しないと結論つけられた。

百歩譲って僕が乱暴を働いたとしても、何で机をバラバラにしたのも僕のせいになるのか理解に苦しむ。

余りに馬鹿馬鹿しいのでいちいち反論する気も失せた。

幸い、苛める側も直接的な力では勝てない事が分かったようなので喧嘩を吹っ掛けられる事はなくなったが陰にこもった嫌がらせが増えた。

例えば、今回のように机の中にゴミを入れられたり、誰も口を聞かなくなったり無視したり、所謂村八分だ。

SNSで僕に関する、あることないことの噂がやりとりされていることも知っている。

対象は僕だけではなく僕の家族にも及んでいた。

曰く、僕の姉は淫乱で金持ちの愛人をやっている。

曰く、父親は年がら年中変な仮面を被っている。多分、変態の殺人鬼だ。

曰く、母親は車イス生活をしているが実は普通に歩ける。きっと傷害者詐欺に違いない。

曰く、お祖父さんは物凄く貧相な顔で貧乏神みたいだ。

どれもこれも笑えてくる。彼らはそんな家族が現実にいた場合、どんな事になるか想像したことがないのだろうか?

ま、どちらにしても気にしなければ良いことだった。向こうが無視をするならこちらも無視をすれば良い。かえって気楽なものだった。

そう、1月15日になるまでは。

その日、家に帰ろうとした時、突然凄い痛み感じ、昏倒した。

完全に油断していた。

気がつくと倉庫の様なところにいた。

裸で後ろ手に縛られて、床に転がされていた。

「気がついたか」

聞き覚えのある声がした。

2メートル近い長身。痩けた頬。爬虫類を思わせる目。その特異な容貌で一度でも見たら忘れられない。学校の不良グループを束ねるリーダだ。横に子分を5人ほど引き連れている。

こいつら全員叩きのめした記憶がある。

そのためだろうか、全員が殺気を発散させていた。

「おらぁ」

挨拶がわりに1人が蹴りを入れてきた。

それが呼び水になってか、全員が僕を滅茶苦茶に蹴った。

特にリーダ格の爬虫類男が執拗に腹を蹴ってきた。

流石に堪える。

「アニキ、もう止めないと死んじまいますよ」

「死んじまっても構わねぇ」

「いや、でもクイーンがこないうちは不味いんじゃ?」

クイーンの名前が出たとたん爬虫類男は蹴るのを止めた。

「クイーンか?ああ、不味いな」

そうか、クイーンが来るのかと床に転がったまま僕は思った。

目の前の不良グループは実は頂点ではない。学校を支配しているのはクイーンの率いるグループだっあ。

野球部主将、通称アスリート。

そして、学校一の美女と謳われる、文字通りクイーン。

この2人が率いるグループが学校カーストの頂点だった。

このグループから見たら不良グループごときは御用聞きのようなものだ。

ガチャリと扉の開く音がした。

音のした方を見ると2人の人間が入ってくるところだった。

1人はクイーン。もう1人はアスリート。

「あら、無様ねぇ」

クイーンは床に転がってる僕を見るとくすくすと笑う。

「どう?少しは懲りたかしら」

「ほら、クイーンに聞かれて黙ってんじゃない」

なんと答えれば良いのか分からず黙っていたらすかさずアスリートに蹴られた。

「全く、本当に生意気。あんたみたいなクズが立場もわきまえず私達に反抗するのは我慢できない」

クイーンは僕の顔をまともに蹴りあげた。鼻の奥で鉄の味が広がる。

鼻から血がポタポタと床に垂れた。

「『雉も鳴かずば射たれまいに』と言う諺を知ってる。あんたは鳴いたのよ。大人しくしてればそれなりだったのに。残念ねぇ。今から、地獄を見せて上げるわ」

クイーンはハイヒールで僕の後頭部を踏みつける。

「くっくっく」

僕は顔を血まみれにした状態で笑いだした。

「なに?何が可笑しいの。

それとももう壊れちゃったの」

「よく言ったものだ。問題なのは誰が雉なのかって事だよね」

「はぁ~あ?あんた、何ワケわかんないこと言ってるの?」

ホトホトうんざりしていた。もう1秒たりともこんな奴らとは付き合ってはいられない。

僕は力を解放する事にした。

たちまち、筋肉が盛り上がり、全身が銀色の毛に覆われ始める。

軽く力を入れると縛っていた縄が簡単に切れた。

周囲でざわめき起きる。鼻が伸び、口が裂け、牙が伸びる。

「何、何なの?」

クイーンが金切り声を上げる。

僕は手近にいた2人の不良に近づく。あまりの早さに2人は全く反応できない。

僕は2人に強烈なボディーブローを食らわす。

そのまま10メートル程吹き飛び壁に叩きつけられる。もっとも2人は壁に叩きつけられる前に絶命していた。僕の両手には2人の肝臓(レバー)が握られていた。殴ったと同時に抉り取ってやったのだ。 

僕は肝臓(レバー)をクチャクチャと喰らう。

「狼男だ」

誰が叫んだ。

と同時に3人の不良が出口に向かって逃げ出す。

「惜しいなぁ」

僕の足元の床が凍りつく。

氷の床は逃げようとする3人に伸びる。

たちまち3人に追い付くと足を床に凍りつけた。

「なんだこりゃ!」

3人がパニックに陥り必死に足を外そうとしたが、足は根が生えたようにびくともしなかった。

僕はゆっくりと3人に近づく。

「確かに狼男に似ているけど遥かに格が上だよ。氷銀狼(フェンリル)と言うんだ」

僕は両手を閃かせ、2人の首を落とし、3人目は触れることもなく全身を凍らせた。余りの凍気にヒビが入り自然に砕け散った。

「このやろ!」

爬虫類男がスタンガンを押し付けてきた。しかし、スタンガンは作動しない。僕の体に触れたとたんに凍りついたからだ。

僕は軽く、本当に軽く蹴って爬虫類男の膝を砕く。

こいつは楽には殺さない。生きながら腸を喰らってやる予定だ。

と、アスリートがバットで殴りかかってきた。

超高校生級のスイング速度!

僕は紙一重で避ける。アスリートはしつこく殴りかかってきたが僕は全て避ける。わざとギリギリで避けてやる。

ぶっちゃけ、音速を超えるライフル弾でも避けられる僕にとってはアスリートのスイング速度は遅すぎて欠伸がでる。

避けるのも飽きてきたところでバットを奪い取る。そして、そのバットで右肩と左膝を砕く。

奪うのは選手生命だけだ。命までは取る気はない。

僕はこいつが将来有望な後輩を同じようにバットで殴って選手生命を奪った事を知っている。

ならば同じ重荷を背負って残りの人生を生きていくのがお似合いだろう。

苦痛でのたうち回っているアスリートを放置して

爬虫類男の方を見ると這いつくばって懸命に逃げようとしていた。

出口まで後3メートル位のところまで来ていた。

結構頑張ったようだが時間切れだ。

僕は爬虫類男のところまでいくと両肩を順番に踏み砕いてやった。

慌てて遠ざかるハイヒールの音が聞こえる。クイーンの物だが、今は十分に恐怖を味わってもらえば良い。

それよりも爬虫類男の料理が先だ。

僕は芋虫のようにのたうつ爬虫類男を冷ややかに見下ろした。


人型(ひとがた)に戻った僕は家に電話をかける。

家族会議の招集をするためだ。

勿論、僕の家族はみんな人外の存在だった。

実のところ血縁関係もない。

人間の世界に溶け込むための疑似家族のようなものなのだ。

姉さんはサキュバス。

父さんは不死の殺人鬼(ブギーマン)

母さんは下半身が蛇のエキドナ。僕と同じく神話級の存在だ。

貧乏神のような貧相な老人と言われたじいさんは本物の貧乏神だったりする。

「ああ、姉さん。僕だよ。みんな居るかな?

ちょっと面倒臭い事になってね。

うん、ごめん。でも不可抗力だよ。でね……」

こうなった以上、徹底的やらせてもらう。

取りあえずは逃げたクイーンをどうするか決めたいところだ。

なんと言っても

『雉は鳴いてしまった』

のだから。





2018/01/15 初稿

皆様のご支援で日間ランキングも上位にランキングすることができました。

有難うございます。

次はいよいよ最後の節季になります。

最後まで宜しくお願いします。


次話は1月20日を予定しております。

次話 款冬華ふきのはなさく

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