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恐怖七十二候  作者: 如月 一
小寒(しょうかん)
68/72

水泉動(しみずあたたかをふくむ)

むかし、むかしの話。

ある山奥に小さな村があった。

村人達は貧しいながらも助け合い、それなりに平和に暮らしていた。

ところがある年の事。

佐之助の女房のお(かな)のお腹が大きくなった。

最初はおめでたかと、皆で喜んでいたのだが、どうも違う。

十月十日と言われるのにお金のお腹はみるみる膨らんでくる。いくらなんでも早すぎる。

そのうちお金の様子が変になった。

目が落ち込んで、頬もげっそり痩ける。髪なんかも束になって抜け落ち、もうどくろに薄皮を貼り付けたような感じになってしまった。

その癖、腹は臨月のお腹の様にはち切れそう。

心配ではあったが、村に医者などいないので、家で横にしておくしかなかった。

その内、佐之助はおかしな事に気づく。

お金が夜中にこっそりと家を抜け出て何処かに行くのだ。

朝、何処に行っていたのか問いただしても、そんな事はしていないと言う。

嘘をついているようには見えず、本当に記憶が無いようだった。

そこで佐之助は夜中、こっそりとお金の後をつける事にした。

その夜もお金は家を出る。佐之助はお金を追いかけた。お金は村を抜け、近くの山の中に入っていく。

やがて、妙な岩だなの所に出るとうずくまり、じっとして動かなくなった。

暫く見ていても何をしているのか分からない。

佐之助は痺れを切らしてそっと近づき、お金と呼んだ。しかし、反応しない。

何をしてるのか覗き込むと、岩と岩の間に顔を突っ込み、何かをペチャ、ペチャ、飲んでいる。

佐之助は恐ろしくなって、お金を岩だなから引き剥がすと、物凄い形相で佐之助に襲いかかってきた。

なんとか押さえ込んで、そのまま家に引きずって帰ってきたが、暴れるのを止めないのでやむ無く縄で縛って動けなくした。

それで村長等を呼んで、どうしたものかと相談していたところ、突然、お金が絶叫した。

何事かと見ると、お金が口を大きく開けでいる。

開けた口から、ゴボリ、ゴボリと水が吐き出された。

奇怪な事に、吐き出された水は床や地面を伝い、周囲で見ていた人々に襲いかかってきた。

水は人々の足にまとわりつくとそのままするすると顔まで登り伝い、強引に口の中に入っていった。水が入り込んだ人は苦しみ、最後にはお金と同じように口から水を吐き出す。そして、その水がまた、人を襲った。

人々はなす術もなく村から逃げ出した。

とは言え、この村以外に行く当てもなく人達ばかりだ。

どうしたものかと、村の外れで途方に暮れている所に旅の修行僧が現れた。

村長が事情を話すと、その僧侶は、何とかしましょうと、言うと一人で村の中へ入っていった。

僧侶が村の中に入ると、気配を察したのか水が大蛇の様にうねうねと迫ってきた。

しかし、僧侶は少しも動じず、経を唱えながら近づく水を錫杖で打った。

途端に水は形を失いただの水のようになり地面を濡らす。

僧侶は村人を呼び戻すと水の犠牲になった者達、まるで干からびたミイラの様だったそうだ、を(ねんご)ろに伴うと、佐之助に見つけたという岩だなへと案内させた。

僧侶は経を唱えながら岩だなをぐるぐると回った後

『この怪しき水の物の怪の本性はこの岩だなの奥に居るが、拙僧の力では抑えることは出来ても浄める事は叶わない。

これも御仏の御導きと存ぜれば、拙僧の身を持ってこの物の怪を封じましょう。

そういたしますので、あなた方は末長くこの地を護って下さい』

と村人達に言い、岩だなの正面に祠を立てさせ、自らを祠の下に埋めた。

その後、村人達は二度と水の物の怪に苦しまされる事はなかったと言う。





と、言い伝えのあった村は過疎化が進み、戦後直ぐに廃村になった。

それから間もなくダムができ、村はダム湖に沈んだ。祠も岩だなも同様に湖深くに沈み、言い伝えを伝えるものは今はもう何もない。


「班長、D30のカメラに反応が有りました」

ダムの監視所で若い男が年輩の男に報告する。

「全く、新年になってまだ10日しか経ってないのにご苦労な事だな。こんな山奥のダム湖なんて来ないでもいくらでも死に場所なんて有りそうなもんなのにな」

机に足を投げ出し眠っていた男は、目を擦りながら愚痴をこぼす。

「はあ、そうですね。何でこんなダム湖に身投げしに来るんですかね。やっぱ、自殺者に呼ばれてんですかね?」

「知らねーよ。パトロール中の第3班に連絡して止めさせろ。カメラ、フォロー出来るか?」

「うんと、D30の3カメからは消えましたね。方向的には7、8、9カメのどれかに映ると思いますよ」

「カメラに掴まえられたらスピーカで警告入れてやれ。それで引き返すならめっけものだ」

「了解。それで引き返した奴いませんけどね。

……

所で、こんな都市伝説知ってますか?

このダム湖に身投げしに来る人って、このダムの用水利用者だけだって言うの」

「いや、知らん。そうなのか?」

「さあ、自分がここに勤めるようなって知ってる限りは当てはまりますけどね。でも、さすがに全く知らないダム湖まで行って死のうとする奴は少ないんじゃないですか。だから、用水利用者ばかりだとしても不思議はないでしょ」

「そりゃ、そうだよな。で、そんなのが都市伝説なのか?」

「いえ、いえ、都市伝説なのは、このダム湖の水に変な麻薬のような成分が混じってて、そのせいでこのダム湖に誘い込まれて身を投げるんじゃないかって言うのですよ」

「へ、その麻薬みたいなのってのは何処から来るんだよ?」

「知らないです。都市伝説ですからね。都市伝説」

若い男は、新しいカメラのフレームに入ってきたダム湖へ向かう人影を確認した。

警告テープを再生するスイッチを押しながら、若者は思う。

このダム湖に身を投げようとして近づく者は何でみんな、こんなに頬が痩けているんだろう、

まるでどくろに皮を貼り付けたようだ、と。


2018/01/10 初稿


正直、水の怪異を考えるのに自分のイメージが貧困で苦労しました。

荒木大先生のジョジョに出てくるンドゥールやアクアネックレスのイメージを脱却できません。

もっと別の切り口があると思うのですが……

精進が足りませぬ。

そこで、被害者の方に目を向けてみたのですが、如何なものでしょうか。

読了後に水分取りたく無くなったら大成功なのですがどうでしょうか?


次話投稿は1月15日を予定しています。


次話 雉始雊きじはじめてなく

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