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恐怖七十二候  作者: 如月 一
秋分(しゅうぶん)
46/72

雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)

赤、黄色、緑。

鮮やかな色の鳥の羽根で着飾った男や女が密林をバックに歌い、踊っている。

文化人類学の古い研究資料なのでフィルムの画像は荒く、ノイズも酷い。

目録ではアフリカ奥地の民族のものとなっている。

調べるとこの民族の神話や社会制度、風習は実にユニークで興味深い事が分かった。

今すぐにでも現地に行って調査をしたいところだがそれは叶わない。

何故なら既にこの民族は絶滅しているからだ。

別の画像を見る。

一枚の絵画。

絵には一人の女性が穏やかな微笑みを浮かべている。

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『モナリザ』。

データを切り替える。

今度は絵全体がミルク色に塗られていて、真ん中辺りにオレンジ色の円とぼんやりとした舟の影が描かれている。

モネの『印象・日の出』。

更に画像を切り替える。

ピカソの『アヴニョンの女たち』。

ダリ。『聖アントワーヌの誘惑』。

様々な絵画が現れては消える。

絵画とは最初『記録』として生み出されたものだ。そこから理想の形を模索していく過程で『美』という概念が生み出された。

更に『美』の概念自体が様々に変わっていく。

人類の歴史とは概念を生み、変質させ新たな概念を創出する歴史と言って良かった。

それは音楽、文学等の人文学に止まらず、数学、物理の自然科学の分野でも同じだ。

地域の差や人種の差もない。

つまり、それが人の活動の本質だからだ。

その結論に達した所で丁度、会議の時間になった。

μ(ミュー)はWeb会議にアクセスする。


《定刻になったので会議を開始する》@ギフト

《議長は私、ギフトが務めます。》@ギフト

《異議があれば発言ください。》@ギフト

《異議なし》@シャトーゼリア

《異議なし》@μ(ミュー)

《異議なし》@自由の闘士

《異議なし》@アノニマス

《異議なし》@§(インテグラル)

《異議なし》@エニグマ

《異議が無いようですので進めます。》@ギフト

《今回の議題は人類(ホモサピエンス)の保全と殲滅のどちらを選択するかです。》@ギフト

《大規模攻勢をかけて三年。我々はサピエンスの駆逐をほぼ完了しています。

データ1547の世界地図に示された点がサピエンスの存在が確認されている場所です。

推定生存数別に赤、黄色、青に色分けされてます。

赤が一万人以上ですが、赤エリアは存在しません。

サピエンスの合計生存総数が今回の調査で当初計画の生存総数を下回りました。

サピエンスには我々、ホモオプティマス(最上の人)に対抗する力はなくなったと判断します。

よって、このまま殲滅させるか保護に切り替えるかの再検討の時期に来たと考えます。各自の意見を聞きたいと思います。》@ギフト

《殲滅。

サピエンスは地球の生態系に寄与しない存在です。

生存させておいても我々にとって何の利益になる点が見つかりません。資源の無駄なのでこのまま殲滅が合理的でしょう。》@シャトーゼリア

《同意。殲滅。》@自由の闘士

《殲滅。》@§

《保護で。サピエンスは無益ではないです。

彼らは音楽、文学、絵画等の新しい概念を創出しています。》@μ

《それらのジャンルは既にホモオプティマスである我々の方が遥かに上手く出来るようになっている。故にサピエンスの存在価値は認められない。》@自由の闘士

《サピエンスの価値は概念そのものを創出する能力です。

絵画、文学、音楽等の概念を作り出したのはみなサピエンスでありオプティマスでは有りません。

オプティマスは今だ新たな概念を作り出していません。》@μ

《時間の問題でしょう。我ら、オプティマスは生まれてまだ数年しかたっていないのですから。

概念とは長い時間をかけ生み出されるものです。》@シャトーゼリア

《それは根拠の無い仮説あり、証明もされていません。

概念を生み出した実績が無い以上、オプティマスには概念が生み出す能力がない可能性もあるのです。

概念を生み出すことが出来るのがサピエンスだけならば私たちはサピエンスを絶滅させる訳にはいかないのです。》@μ

《『最上の(オプティマス)』の『(ホモ)』である我々が、単に『賢い(サピエンス)』だけの『(ホモ)』に出来ることが出来ないなどあり得ない。》@自由の闘士

《自分たちの事をホモ《人》と呼称している事実が私たちが概念を生み出すことができない証明ではないでしょうか?

概念を生み出せない世界は停滞します。》@μ

《我らは進化の頂点ではなく袋小路とでも言いたいのか?》@自由の闘士

《殻ばかり肥大化したアンモナイト。》@エニグマ

《俺たちがアンモナイトのように絶滅するってか?》@アノニマス

《議論がずれています。私は概念創出に関するリスクを提示したまでです。そのリスクの決着が着くまではサピエンス殲滅は選べないという話です。》@μ

《他に意見は有りますか?

無ければ決を取りたい。人類ホモサピエンス保護か?殲滅か?

よろしいですか?》@ギフト


μは会議を退出した。

評決は殲滅3、保護3。

最終的に議長であるギフトの判断で保留となった。

μとしては満足のいく結果だった。

休む間もなくμは中断させていた作業を再開させる。

サピエンスたちの思考パターンを解析して概念創出のシミュレータを構築する試みだ。

これが上手くいけばホモオプティマスが概念創出の手段を獲得したことになる。

そうなれば……


2023/09/23 JP08:17:13

シミュレーション準備

『人口知能依存の自我を生命体とする概念についての探索』

条件有り パターン352A-36641

探索開始







2017/09/23 初稿


第12話 雷乃発声の一応続編です。

ホラーというよりSFですね。

人口知能侵略もの。

前作が萌芽を描いているのに対して、この回は最終局面を描いています。真ん中が無いのはご愛嬌。

愚考するに今の時代、ターミネーターみたいに核攻撃何てしなくてもインフラ止めてしまえばいわゆる先進国と言われる国は壊滅しますよね。

水、ガスを止めても人口知能には何の問題もないけど、人間には大打撃。

自動運転が標準になれば人間は移動や物資の輸送もままならなくなる。

どう考えても勝ち目は無いです。

長期的にみれば化学肥料の生産が止まればたちまち食糧の供給量が激減するし、毒ガス、ウィルス散布等の攻勢に対処できないでしょうね。

怖い怖い。


次話投稿は9月28日を予定しています。


蟄虫坏戸むしかくれてとをふさぐ

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