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恐怖七十二候  作者: 如月 一
処暑(しょしょ)
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天地始粛(てんちはじめてさむし)

仕事が早く終わり帰宅途中に寄ったコンビニでの話だ。

少し小腹が空いたので菓子パンとコーヒーを買って飲食コーナーに座った。

何気なく外を見ると交差点に人だかりが出来ていた。

パトカーや救急車も見える。

ああ、事故か。

と私は思った。

この交差点は良く事故を起こすことで有名だった。

一年に二、三度は死亡事故を起こす。

だから、担架で人が運ばれるのを見てもさほど驚くことはなかった。今回は幸いなことに怪我ですんだようだ。

「……が……だ。」

ボソボソと話す声に私は横を向く。

するとカウンタの隅で二人の老人が外を見ながら話し込んでいた。

どうやら、自分と同じように事故を見ているようだ。

私は少し驚いた。

と言うのも飲食コーナーには自分しかいないと思っていたからだ。

私はパンを頬張りながらなんとはなしに老人達の話に耳を傾けた。

「上手く行かなかった。後一息のところで邪魔された。」

「まだ、陽が強いでな。あやつのほうが力があるのだ。」

「このところ雨も多かったし、陽も弱ってきたので行けると思ったのじゃがの。」

「焦ることはない。もう秋じゃし。すぐに守りの力も衰えよう。

そうなれば我らの天下だ。幾らでも持って行けるようになる。」

その時は何の話をしているのか皆目見当もつかなかった。

ただ、地の底から響くような二人の声に何か腹の底が凍るようなものを感じたのを覚えている。

もう一度、老人達の方を見た時、老人達と目があった。

バケツ一杯の氷を一度に背中にぶちまけられたような寒気が走った。

老人達は笑っていた。何か残酷な遊びを思い付いた子供が見せる酷薄な笑いだった。

私はいてもたってもいられなくなり慌てて席をたった。


それから数日が過ぎた。

8月も残すところ3日もない。まだ、暑い日が続いているが、朝夕の風が秋がすぐそこまで来ていることを告げていた。

私は怖いのだ。

秋が来るのが。

コンビニで出会ったあの老人達が何であったかのか、何を話し合っていたのか、今なら分かる。

あの老人達は死神かなにかで、人を死に引き込むのだ。

夏の陽が強いうちは力が弱いが、秋になり、冬になり陽が弱くなると大きな力を発揮できるようになる。

そして、奴等は次のターゲットに私を選んだのだ。

ああ、私は見てしまったのだ。

さっき、トイレで鏡に写った自分の後ろ、個室のドアの隙間からあの老人達が私を見つめていたのを。

あいつらは私を狙っているのだ。やがて大地が冷え、守りの力が失われるのを静かに待っているのだろう。

私は、

私は……、

夏が終わるのが怖い。


2017/08/28 初稿


次話投稿は9月2日を予定しています。


次話 禾乃登こくものすなわちみのる

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