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恐怖七十二候  作者: 如月 一
大暑(たいしょ)
36/72

大雨時行(たいうときどきにふる)

苛めが始まった切っ掛けは雨女と言われた事だと思う。

小学生四年生の頃、遠足が三回続けて雨になり結局取り止めになった。

その年の運動会も雨で中止になり、みんなの頭に遠足のトラウマが蘇る中、順送りになった日、私は風邪でたまたま休んだ。

その日はこれでもかという程の晴天で運動会は大いに盛り上がったらしい。

風邪が治り、学校に行くといつのまにか雨女と噂されていた。

最初は苦笑いで済ましていたが、少しずつ、少しずつ友達から声をかけられる機会が減っていった。

誘うと雨になるので呼ばない。

それが子供の論理だ。

子供は残酷だというが、そもそも人間の本質が残酷なのだと思う。

人は本当に些細なことでタガが外れる。そして、再現なく残酷になれる。

小学生六年で、私はいつも物を忘れたり、授業をサボる子供と言われるようになった。

教科書やノートがなくなったり、トイレのドアが開かず閉じ込めらることが良く起こった。

わたしが先生に黙って叱られているのを、クラス全員がクスクス嘲笑っていた。

最初のうちは先生に弁解もしたのだが、まるで信用してくれず、余計怒らせるだけだったので止めてしまった。

恐らく、それもいけなかったんだろう。

苛めはどんどんエスカレートしていき、雨以外の自分達に都合の悪い出来事が全部私のせいにされた。

中学になっても状況は良くならない。

むしろ、より狡猾に、陰湿になっていった。

8月すぐの修学旅行も行くなと言われた。

雨女が一緒だと、楽しい旅行が台無しらしい。

今、私は学校の階段の一番上にいる。

高まる鼓動を抑えようと深呼吸をする。

ほんのちょっぴり身を投げるだけだ。

ちょっと痛いけど、我慢できない痛さじゃない。

小学生六年の時に階段から誰かに突き落とされた。

あの時と同じだ。

1週間程入院できるなら、そっちの方がずっと良い。

私はみんなと一緒に行っては行けないのだ。

だから、勇気をだすのよ、私。

目を閉じて、そうそう、えい!


「はい、皆さん、そろってますか?」

バスガイドのお姉さんが明るい声で言う。

「隣の人同士確認してくださいね。大丈夫てますか?」

ひぃ、ふぅ、みぃ・・・

興奮して一時もじっとしていられない中学生達を懸命になだめながらガイドさんは人数を確認する。

「・・・三十八と、

はい、O.K. です。出発してください。」

運転手は頷くとバスを発進させる。

あんなに晴れていたのにバスがカーブの多い山道に差し掛かると急に崩れ始めた。

「あ、降りだした。」

女子学生の一人が窓に当たる雨粒を見て言う。

隣に座るポニーテールの女の子が笑いをこらえながら答える。

「あれ、雨女いないのにおかしいね。」

「あいつなぁ、最高にどんくさかったな。」

少し離れた所に座っていた茶髪の男子が同調する。

そして、男子生徒は一人の女生徒に意味ありげな視線を向ける。

女生徒は男子の視線を完全に無視する。

長い黒髪を赤いリボンでまとめ、姿勢良くシートに腰かけている。

切れ長の目、ふっくらした頬。クラスの中でも頭一つ抜き出た美少女だった。

見た目だけではなくクラスカーストのトップに位置する。

小さな口笛に少女は振り向く。

見ると、さっきの男子が自分の携帯画面をこっちに見せている。

画面には大の字に寝かされた女の子の画像が写っていた。女の子は全裸で、顔を真っ赤にして泣きじゃくっていた。


(破棄しろといったのに、あの馬鹿男は雨女の写真を未だに携帯に入れているのか。)


と、少女は内心でいまいましそうに舌打ちをする。

この男にしろ、雨女にしろ世の中、馬鹿ばかりだ。

私は修学旅行に出ないよう足の骨でも折れば良いと雨女にいっただけだ。

それを首の骨を折って死んでしまうとは呆れて開いた口が塞がらない。お陰で苛め調査等という面倒臭いものに巻き込まれた。

あの写真は、言うことを聞かせるために雨女を裸に剥いた時の写真だ。

調査の時に見つかったら致命傷になるので全部破棄しろと言っておいたのに・・・

今日の夜にでも携帯は回収して壊そう。

ああ、面倒臭い事ばかりやらかす。本当にムカツク女だった。

その少女が表情一つ変えずにそんなことを思っている時、雨が一際激しくなる。

運転に支障が出るほどだった。

ワイパーを最大にしても数メートル先が見えなくなる。

運転手はバスを路肩に寄せる。

「止めちゃうんですか?」

バスガイドの言葉に運転手は頷く。

「こんな雨の中を運転するわけにはいかん。せめてももう少し止んでもらわんと危ない。

あんたは生徒さんを落ち着かせてくれ。」

運転手に言われ、ガイドは生徒の方を向いておやっとなる。

その原因は最後部席だ。最後部席は5人掛けなのだが、さっきまでは誰も座っていなかったが今は、右端に誰か座っていた。うつ向いているので顔は見えなかったが髪型から女の子のようだ。

ガイドは、胸騒ぎを覚え、生徒の数を数え始める。

「・・・三十八、三十九。」

数が多いというのはあり得ない話だった。

ガイドの視線に一人の女子生徒が気付き、ガイドさんの視線の先を追う。

最後部席に座る女の子に気付き、女子生徒は絶叫する。

「あ、雨女がいるよ。」

その言葉に車内は騒然となる。

ガイドは一体、何が起きたのかさっぱりわからない。

「うそ、あいつ自殺したんだよね。」

「違うよ、階段から落ちたって、事故死だよ。」

「どうでもいいよ、そんなことより何でここにいるかだよ。」

雨女と言われた女の子は立ち上がり、口を開く。

「私、修学旅行に行きたくて、やっぱり来ちゃったよ。」

焦点の合わない目、半開きになった口元。

そして、全身ぐっしよりと濡れていた。

「私、雨女だから、迷惑かなぁ。」

その女の子はニヤーとした笑いを浮かべる。

とたんに、雨が激しさを増す。鍋の底が抜けたとはこの事だ。

突然、バスがずずずっと横滑りをする。

「なに?どうしたの?」

「まずい、地滑りだ!」

バスはバランスを崩すと谷底にまっ逆さまに落ちた。


「ぷは。」

ガイドは水面から顔を出し、息をつく。

バスは谷底にあった人工湖に沈んだ。

水中に沈むゆくバスから懸命に脱出したのだ。

「がはぁ。」

ガイドのすぐ横に運転手さんが姿を現す。

更に赤いリボンの美少女が姿を現す。

「大丈夫ですか?とにかく岸へ。」

ガイドさんに促され、三人は岸に向かって泳ぎだす。

あと少しというところで美少女の後ろからにゅーと手が出て、美少女の頭をガッチリつかむ。

「ひぃ、助けて!」

少女は悲鳴を上げる。

水面にさっき雨女と呼ばれた女の子が現れる。

「助ける?

嫌よ。だってあなたはいつだってそうしてきたでしょ。

さあ、一緒に修学旅行の続きをしましょう。みんな、待ってるから。」

そういうと雨女は美少女を水底に引きずり込む。

そうして、二度と上がってはこなかった。





2017/08/03 初稿

ついに折り返し点に達しました。

今後もよろしくお願いします。


次話投稿は8月7日を予定しています。


次話 涼風至すづかぜいたる

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