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恐怖七十二候  作者: 如月 一
立夏(りっか)
20/72

蚯蚓出(みみずいづる)

「うわ、結構雰囲気あるね。」

ミキが石段を見上げて、ヒューと口笛をふく。

石段は奥深い森を切り裂くように急角度で登っていた。

行き先はすっぽりと闇に溶け込み見えなかった。

切っ掛けは分からない、急に蒸し暑くなったせいだろうか。

どちらが先に言い出したかも分かりようもないが、アキラとミキは肝試しをしようという話になって、ここに来ていた。

5月上旬の話だ。

「だろう。ここらじゃ有名な心霊スポットなんだぜ。」

何故か自慢気にアキラはいうと石段を登っていく。

石段は思ったよりも長くなく、すぐに白い鳥居が見えた。

水の枯れた手水(ちょうず)や半壊した社務所もある。

よく見るとあちこちに缶やらペットボトルやらがポイ捨てされている。

それがより怖さを引き立てていた。

「うは、ボロボロだね。」

社務所を覗きながらミキは嬉しそうにはしゃぐ。

「ここ、なんなの?」

「神社の跡。」

「見りゃ分かるよ。それぐらい。

なんて神社なのかって聞いてるの。」

ミキの問いにアキラは首を傾げる。

「さあ、なんか難しい漢字で読めない。」

「へー、どれどれ。

虫に丘?

虫に引・・・なにこれ。

むりー。読めねー。アハハハ。」

「だろ。だからぶっ潰れたんじゃないんか。」

「ハーー、分かる。

ね、あそこ大きな建物があるよ。」

ミキが指差したのは拝殿だった。既に誰かが侵入したのだろう格子戸が壊れ、人が余裕で通れそうな穴が開いていた。

「めっちゃ不気味。」

中に入りあちこちにライトで照らしながら二人は何か面白そうなものはないかと物色する。

「なにこれ?」

とミキのライトが正面に設置されているものに当たる。

この神社の御神体だったものだ。

細長い棒のようなものが屹立している。

先の方が丸くなっている。

それはまるで・・・

突然、ミキがけたたましく笑いだした。

「なにこれ?

まさか、男のアレ?

マジ?

あたしガン見しちゃったよ。」

といいながら、アキラの股間をパンと叩く。

そして、下からねめつけるようにアキラを見やり、囁く。

「ね、ここでしようか?」

アキラは一瞬、ミキをまじまじとみたが、吐き捨てるように答える。

「馬鹿いってじゃねーよ。」

「えー、いやなの。

もしかしてこわい?」

挑発するようなミキを突き放すように背を向け、アキラは拝殿から出ようとする。

「別に怖かねーよ。行くぞ。」

「もういっちゃうんだ。ホントにやんなくていいの?」

追い討ちをかけるミキをアキラは相手にしない。

「虫とかいそうだからここじゃやんねーよ。

ほら置いていくぞ。」

「え、ちょっと本気で帰るんだ。」

ミキはちょっと慌ててアキラの後を追って拝殿を後にした。


帰りは何か雰囲気が一変していた。

行きの高揚した気分が一気に冷めて、夜気が肌につきささるようだった。

自ずと二人とも黙ったまま石段を降りていく。

ライトの心細い光の輪に苔むした石段が延々と続いていた。

「ねえ。」

沈黙に耐えかねてミキが口を開く。

「石段ってこんなに長かった?」

「こんなもんだろ。すぐ終わるさ。」

さっきから10分以上降りているのだが石段は一向に終わる気配がなかった。

「ねえ、何か聞こえない?」

再びミキが口を開く。

「ああ?なにも聞こえ、無い‥‥?」

アキラはイライラしながら答えようとして言葉をきる。

確かにミキが言うように何かきこえる。

サワサワ。

ガサガサ。

「え、なになに、なんなの?」

ミキがパニックを起こしてアキラに抱きつく。

ザーと水が流れるような音が背後から聞こえてきた。

見上げると石段を覆うようにピンク色のものが流れ落ちてくる。

逃げる間もなくピンク色のものが二人の足元に達する。

ミミズだった。ピンク色の丸々太ったミミズの大群が二人の足元でのたくり、身体によじ登ろうとしていた。

二人は悲鳴をあげて、石段をかけ下りる。

ミミズは上から流れてくるだけではなかった。周囲の森からもザワザワと石段に上ってくる。

忽ち石段はミミズで足の踏み場もなくる。

二人はミミズを踏み潰しながら石段をかけ下りる。

「ぎや。」

ミキが潰れたミミズの体液に足を取られてバランスを崩す。

アキラはミキを助けようとするが踏ん張り切れず二人とも石段を滑り落ちる。したたかに身体を打ち付け動けないところにミミズ達が容赦なくなだれ込んでくる。

二人はあっという間にミミズの大群に飲み込まれた。


次の日、二人は石段の下で冷たくなっているのを発見された。

余りの異相に司法解剖に回される。

死因は窒息死だったが、監察医は他殺なのか自殺なのか事故死なのか判断することができなかった。

二人とも穴という穴からミミズが侵入しており、胃も腸もパンパンに膨れ上がった無惨な姿だったという。











2017/05/10 初稿

2017/08/19 誤記修正及び若干の文章修正実施


ミミズとなると先ず真っ先に思い付くのがスクワームでしょうか。

ミミズをハンバーガーに入れて食べさせてミミズ人間を作るみたいなホラー映画があるそうですが自分は見たことありません。

後、真面目な話ですが、神社は神様の住まう場所なので夜中に訪問して大声出すとかは自重されますようお願いします。

神社によっては夜の参詣を許しているところもあるようですが基本ダメとも聞いたことがあります。くれぐれも不敬の無いようご配慮ください。


次話投稿は5月15日を予定しています。


次話 竹笋生たけのこしょうず

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