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恐怖七十二候  作者: 如月 一
立春(りっしゅん)
2/72

黄鶯睍睆(うぐいすなく)

怪談

日常

妖怪

 古くから鳥の鳴き声を人の言葉に置き換える事は良くやられている。これを聞き倣し(ききなし)と言う。

 例えばフクロウの鳴き声の聞き倣しは『五郎助奉公、ボロ着て奉公』となる。

 上手く考えたと思う反面、聞こえなくはない程度、或いは単なるこじつけとも思える。

 要は気の持ちようだ。

 ウグイスの『ホーホケキョ』も法華経の連想から『法、法華経』となり、経読み鳥とか日本三霊鳥などと呼ばれていた。


 Hさんが鳥の鳴き声に目を覚まさせられるようになったのは、2月も10日ばかり過ぎた頃だった。

 ウグイスである。

 夜も明けぬうちにアパートのベランダでホーホケキョ、ホーホケキョと鳴くのだ。

 珍しいとか風流だ、と思ったのも最初の内だけ。

 さすがに2日も3日も続けられると頭にくる。

 ウグイスがホーホケキョと鳴くと、ベランダに出て追い払うのがHさんの日課になった。

 だが、不思議な事に、ウグイスは追い払われても、追い払われても、すぐに戻って来ると、ホーホケキョと鳴き続けるのだ。

 追い払っては、戻ってきて鳴く。戻ってきて鳴けば、追い払われる。

 そんないたちごっこを一週間も続けた頃だろうか。

 その日も、陽が昇らぬ内からホーホケキョとやられたので、Hさんは傘を持ってベランダに飛び出した。

 傘を振り回してウグイスを追いたてるが、すぐに戻って来るとベランダの隅にちょこんととまる。

 この野郎と、Hさんが傘を振り上げた、その瞬間。


いつまでーー!


 と突然、ウグイスは野太い男のような声で鳴いた。

 びっくりしてその場にへたりこむHさんを、ウグイスは暫く睨みつけていたが、やがて、何処へともなく飛んでいった。

 どの位時間が経ったか定かではないが、Hさんは、ハッと我に返ると慌てて電話をかけたという。

 電話の先は疎遠になっていた父親。

 母親は既に他界しており、父親は一人暮らしだった。

 しかし、何度かけても繋がらない。

 嫌な予感に会社を休んで家まで行って見ると、果たして、既に冷たくなっていたそうだ。


 幾ら調べても、ウグイスが『いつまで』と鳴くという話は聞かない。実在する鳥でそんな鳴き声をするものも、私は知らない。

 いや、ひとつだけ心当たりがある。

 『いつまで』という名の鳥の怪異である。

 『いつまで』は、旅先などで命を落とし放置されている人の魂が鳥となって、その人の親類縁者の所へ行き、いつまで放って置くつもりだ、との怨みをこめて「いつまで」と鳴き、去っていくそうだ。

 『いつまで』の声を聞いた者は、祟られると言う。

 その話をHさんにするべきかどうか、私は、ずっと悩んでいる。






2017/02/09 初稿

2018/08/17 形を整えました

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