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恐怖七十二候  作者: 如月 一
穀雨(こくう)
17/72

霜止出苗(しもやんでなえいづる)

 あーー、夜風がヒンヤリして気持ちいい。

 夕暮れ時に降った雨が空気を冷やしてくれたみたい。

 4月も後1週間で終わる。春も終わり夏になろうとしている。

 微かに風に青葉の匂いが乗っているのが感じられる。

 心が癒される。

 都会の喧騒を逃れ、たまに田舎でのんびりするのもいいものだ。

 昼間に山で取った山菜を夜に食べるとか最高。

 そういえば、土筆(つくし)のようなアスパラなような、良く分からない山菜を見つけたっけ。

 美味しそうな匂いだったので一口かじったら、まるでチーズのような舌ざわりで甘くコクがあった。

 あんなの初めて。

 思わず全部生で食べちゃったけど、あれがどんな名前なのか宿の人に聞いておくのを忘れちゃった。

 また、明日にでも聞きましょう。

 ああ、なんか、体を熱い。

 月も綺麗なので、ちょっと外に散歩にでようかな。

 丁度、田植えの時期だから村のあちこちで田んぼに水が入れられている。水面に月が写って凄く綺麗。


 ……ある誘惑と闘っていたけど駄目だ。

 裸足になると、そっと田んぼに足をいれる。もしも、農家の人に見つかったら凄く怒られるだろう。でも、我慢できない。

 何でか分からないけど、手足が火照って堪らないのだ。

 水のヒンヤリした感覚と足を包む柔らかい土の感触が堪らなく心地よい。こんなにも気持ちよいものとは知らなかった。

 最初はおどおどしていたがすぐに大胆になり、ズンズンと田んぼの中を歩いて感触を楽しむ。

 しばらくして、田んぼの真ん中で立ち止まり、また悩む。

 手も熱いのだ。チリチリする。そっと水面を手で触る。背筋に電流が走るような快感に身を震わせる。

 思いきって両手を田んぼにズブズブと突き入れる。

 ほぅ、と熱い吐息を洩らして快感に身を任せる。

 鼻の先に触れんばかりに水面がある。

 泥臭い水の匂いが鼻腔を甘くくすぐる。

 甘く……?

 頭の何処かで、何かおかしいと思う。

 思うのだけど、誘惑を抑えるには余りにも甘美な匂い。

 そして、喉が焼けつくように乾いていることに気付く。

 恐る恐る水面を舐め、その甘さに驚愕する。

 もう自分を止めることが出来ない。

 気付くと田んぼの水を貪り飲む自分がいた。甘く、豊潤な喉ごし。お腹がパンパンになるのに飲むのを止めることが出来ない。

 こんな、こんなことって……、あり得ない


 翌朝、田んぼの真ん中で一人の女性が死んでいるのが見つかった。

 司法解剖の結果、溺死と断定された。

 余りに異様な死に方に殺人が疑われてかなり念入りな捜査が行われたが、結局、自殺として処理されることになった。

 かなりセンセーショナルな話だったので新聞にも載った。

 因みに、その同じ新聞の科学欄に新種の菌類が発見されたと記事も載っていた。

 その菌類は植物に寄生するのだが、繁殖するために寄生した植物を食べた鳥や動物といった中間宿主を植物の育ちやすい場所や誘導する特性、ゾンビパラサイト特性を持っていると報告されていた。

 当たり前の話だが二つの記事を関連付けて読むものはいなかった。









2017/04/25 初稿

2018/08/25 形を整えました


宿主を操る寄生虫は本当にいるみたいですね。

冬虫夏草が代表格でしょうか。

安心してください。

人間を操る寄生虫はまだ、認知されていません。

まだ、ね。


次話投稿は4月30日を予定しています。


次話 牡丹華ぼたんはなさく

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