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恐怖七十二候  作者: 如月 一
春分(しゅんぶん)
11/72

桜始開(さくらはじめてひらく)

とある街の川縁(かわべり)

一組のカップルがのんびりと散策を楽しんでいた。

「うーん。いい天気だ。」

男が大きく伸びをしながらいう。

女は無言で小さく頷く。

川沿いには桜の木が植えられていた。

「あれ?桜、もう咲いてるの?」

「うん。五分咲きとかテレビで言ってた。」

と、女は答えて、くしゅん、とくしゃみをする。

「はは。とうした。花粉症?」

「いや、そんな事ない。」

と答えながら、女はまた、くしゅん、とくしゃみをする。

「鼻が、ちょっとムズムズする・・・」

と言いながら、くしゅん、くしゅんと続けざまにくしゃみをする。

両手で顔を押さえてくしゃみをする恋人を、少し可愛いと感じながら、男は女の肩に手を伸ばす。

しかし、女は肩を揺すってその手を拒絶する。

くしゃみが止まらない。

「ゴメン。なんか目もチカチカして涙が止まんない。

私、酷いことになってるから、ちょっと待って。」

女は両手で顔を隠すとうずくまる。

くしゃみではなく、今度は咳き込みだす。

コホン、コホン。

ゴホ、ゴホ。

ゲホ、ゲホ、グァ、グァ、ゲホン、ゲホ、ゲホン。

咳はたちまち激しくなる。

まるで、喘息の発作のようだ。

初めはニヤニヤしていた男も、さすがに異変に気づき、女を抱き起こす。

「大丈夫か?」

問いながら、振り向かせた女の顔をみて、ギョッとなる。

真っ赤に充血した両目から鮮血がしたたり、血の涙を流しているようだ。

ゼーぜーと浅い呼吸。

肌は青紫色になり、口許は血が混じった涎でピンク色に染まっていた。

男は、グッタリしている女を引きずるように土手に上がると助けを求めて大声で叫ぶ。

しかし、誰も助けにはきてくれなかった。

川縁、土手、そこここで人が倒れていた。

倒れたまま、ピクリとも動かない者もいれば、女のように激しく咳き込んでいる者もいた。

遠くで救急車のサイレンの音が、幾つも聞こえていた。

男は、不意に目に痛みを感じ、反射的に擦る。

指にヌルリと感触が伝わってくる。

見ると、血がベットリとついている。

「なんだ、コレ?!」

と、大声で叫ぶと、大きく咳き込む。

胸に焼けつくような熱さを覚える。

息ができない。

男は、女を抱いたまま、その場に崩れ落ちた。


3月中旬。

桜が咲き始めたその日、全国、いや、全世界でほぼ同時に新種の花粉症が発生した。

花粉により急激な粘膜の炎症を起こし、失明や呼吸不全を引き起こす、その花粉症は劇性花粉症と呼ばれ、わずか1週間で全人口の5分の1を死亡させた。

そして、有効な治療法、予防法は今も見つかっていない。













2017/03/25 初稿


劇性花粉症の発生と桜の花粉はなんの関係もありません。偶然、開花時期と発生が重なっただけです。全国的にソメイヨシノの伐採行為が横行した。という裏設定があります。花粉症の原因は、花粉ではなく人間の方にあると思います。(すいません。お医者さんではないので、医学的には嘘いってるかもしれません。)


次話投稿は3月30日を予定しています。


雷乃発声かみなりすなわちこえをはっす

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