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恐怖七十二候  作者: 如月 一
立春(りっしゅん)
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東風解凍(こちこおりをとかす)

 S県の県境でトラックと乗用車が正面衝突した。

 トラックの方は軽傷で済んだが、乗用車の運転手は助からなかった。

 もうすぐ40になる中年の男だった。

 男はS県から遠く離れたN市の郊外で肉屋を営んでいたが、連れ合いも親類縁者もなかったので店は処分される事になった。

 青い服を着た回収業者が住宅兼店舗に現れると、家具やら電化製品やらを手際良く仕分けしていく。

 あっというまに目ぼしいものは回収され、最後に残ったのが店の奥の冷凍庫だった。

 個人経営の肉屋としてはずいぶんと大きな冷凍庫だと誰もが思ったと言う。

 回収業者の責任者が鍵束をガシャガシャ言わせながら冷凍庫の扉を開く。

 春が立ったばかりの少し肌寒い空気よりも冷たい冷気が扉から洩れでて、男達の頬を撫でた。

 冷凍庫には牛や豚の大きな塊が何個も天井からぶら下げられていた。男達は肉の塊を次々と外へ運び出す。

 壁際に積まれていた木箱を運び出すと箱の裏から扉が現れた。

 責任者は首をかしげる。こんな扉の事は聞いていなかったからだ。

 扉には鍵が掛かっていた。

 持っていた鍵を全部試したが合わない。

 天井と床のところに換気用の隙間が開いていたので、床の隙間から中を見るが、見える範囲にはなにも無さそうだった。

 このまま放置しようと決め、帰ろうとした時、ゴトリと固いものが床に落ちる音がした。

 扉の向こう側からだ。

 もう一度、床の隙間から覗いて、腰を抜かす。

 扉の向こう側からも、こっちを覗く顔があったからだ。

 すぐに警察が呼ばれ、扉がこじ開けられる。

 扉の先は思ったより小さな空間だったが、誰もが言葉を失った。

 小部屋には女、子供の死体が乱雑に並んでいた。

 警察の調査の結果、肉屋の経営者は連続殺人者(シリアルキラー)だったそうだ。

 結局、小部屋には六、七人の死体が有った。

 数が不確かなのは、死体は全てバラバラに切断されていて、手だけとか、腰だけ、とパーツ単位でしか残ってなかったからだ。

「冷凍庫を止めてたので、凍りついていたのが溶けて、倒れてきたんでしょうね」

 と、回収業者のAさんは言う。

 そして、最後に、自分の思い違いだろうけど、と前置きをしてから、こう言った。

「自分が隙間から覗いた時、あっちから覗いていた顔は目が開いていたと思うんですよ。

目が合っちゃった、ってやつ?あんな感じだったんですがね。

でも、運び出される被害者の顔は、みんな、目を閉じていたんです」




 


2017/02/04 初稿

2018/08/17 形を整えてました

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