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確信犯  作者: 杉恵 幾
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第四章

かなり短いです。

 皆が集められたのは玄田氏殺害から一夜明けた翌日の昼頃だった。



「おう。集まったか。思ったより時間かかったな。」


「ふざけないで下さい。三人だけで大変な数の病院をあたったんですよ」


 松田が竹川に食ってかかる。





 ここは警視庁の一室。小さな部屋で、以前は資料室として使われていたらしいが何故か今は竹川がこの部屋の鍵を持っている。通称『竹川部屋』だ。長官に貰っただとか、警備員のおじさんから譲り受けたなど様々な噂があるが今の所、真相は誰も教えて貰っていない。先週田中が聞いた時は「鍵が落ちてたから拾った」と答え、去年根本が聞いた時は「合鍵を作った」と言っていたそうだ。


 小さめのこの部屋には机が三つ、それぞれが向かい合わせになるように置かれており、小さな本棚とテレビ、水道が付いておりコーヒーメイカーまで置いてある。


 竹川は椅子に座り立っている3人を見やる。


「で?どうだった」


 根本が手帳を取り出し代表して話し出す。田中はそれを横から覗き込み、松田は空いている席に座った。


「玄田氏殺害から昨日にかけて都内の病院を調べた所、該当する人物は二十四人です」


 竹川は唸りながら席を立ちコーヒーメイカーの前に移動した。コップを四つ用意したところを見ると皆の分も入れてくれるようだ。


「世田谷の事件現場と玄田氏の自宅から半径十キロ圏内の病院に絞ってくれ」


「そう言われると思いましたのであらかじめ絞ってあります。該当人物は十一人です」


 コーヒーを入れ終えた竹川が後ろを振り向くと、根本と田中が空いている席に座っていた。


「なんで座ってんだよ。ほら、田中どけ」


 そう言われたが田中は結局どかなかった。何故なら彼は全く寝ていないからだ。


「勘弁してください。一睡もしてないし、僕の担当範囲めちゃくちゃ広かったんですよ。本当にヘトヘトなんです」


 そう言うと田中は机に突っ伏してしまった。竹川はしょうがなく机に腰掛けると、コーヒーを配った。


「その該当者の内、男は何人だ?」


「八人です」


 根本が直ぐに答える。

 コーヒーを飲みながら少し考えて、竹川はまた質問をする。


「歳を十八から六十に絞れ」


 一瞬止まった根本が慌てて手帳を見直し答える。


「三人です」


「よし、連絡とれ。玄田氏殺害時間帯のアリバイを聞きたい」


「竹川さんも行きますか?」


 竹川はずずっと音を立ててコーヒーを飲み干す。


「ああ。直接話したい」


 そこでそれまで黙って聞いていた松田が竹川に声をかける。


「何故十八から六十に絞るんですか?」


 竹川はまたコーヒーメイカーの前に向かう。


「犯行に車の免許いるかなって。無免の可能性もあるけどな。後は足の怪我は学生や老人も多いだろ。そこも省いた」


 二杯目のコーヒーを飲みながら松田の質問に答える。その後田中の座っている席に近づくと頭を小突く。


「田中、お前根本から頼まれてる事あっただろ」


 小突かれた田中は勢いよく起き上がる。


「しまった。報告するの忘れてました」


「だと思ったよ。ちゃんと調べたのか?」


 田中は急いで手帳を用意する。


「調べましたよ!世田谷と埼玉の被害者の関係性ですよね?調べましたけど、二人に面識はありませんでしたよ」


 竹川は「やっぱりな」と言いながらまた机に腰掛ける。


「取り敢えずわかったことだけ報告しろ。皆でおさらいだ」


「はい」


 田中は姿勢を正して手帳の文字を読み始める。


「まずは埼玉の被害者、高嶋礼二たかしまれいじ氏。年齢は八十七歳。足が悪く、一人で生活出来ないほどではありませんがヘルパーを依頼し定期的に見てもらっていたようです。死因は頭部打撃による脳内出血。仕事一週間程の状態でヘルパーが発見しています。現場の自宅に行かれたなら分かると思いますが趣味は園芸。ヘルパーに頼んでたまに苗などを買いにも出かけていたようですよ。家族はおらず、五十年程前に離婚経験あり。子供はいませんでした。市役所務めでしたが定年してからはあまり外には出ていないようです」


 一気にまくし立てた田中はそこまで言うとコーヒーを飲んだ。


「結構調べたな。お疲れ」


 竹川が田中をねぎらう。根本はその様子を見ながら思った。竹川は根本と別行動をしている時に被害者二人について調べていたはずなのだ。これくらいの事はわかっていたんじゃないのかな。二人の様子を見ながらしばらく考えたあと、田中は褒めて伸びるタイプなのかなという考えに至ったので何も言わずに黙っておくことにした。


「そんじゃ次、世田谷のね」


 竹川に労われて少し元気になった田中は元気よく返事をした。


「はい!えー、世田谷ですね。被害者は金丸かねまるヨシ子、八十九歳。死後二週間程の状態で娘が発見。娘は都内には住んでいますがさほど頻繁には通っていません。第一発見者はこの娘で、二年前に旦那が死んでからは一人暮らしです。特に障害などはなく、一人でも問題なく暮らしていた様です」


 まくし立てた田中はキラキラとした瞳で竹川を見上げた。褒めてくれ!っと言わんばかりの視線を受けた竹川はしょうがなく彼の頭をに手を乗せクシャっと髪をかき混ぜた。


「近所の人にあったので人柄を聞いてみたんですが、とても穏やかで優しい人だったと言ってました。お菓子や料理を作ってはご近所に配っていて、クリスマスやハロウィーンなどのイベントの際には家を解放して小さなパーティーをしていたとか。とても誰かに恨まれるような人ではなかったと言ってました」


「・・・お菓子や料理。それは知らなかった。よく調べたな」


 それが果たしてなんの役に立つのかは分からないが竹川はまた田中の頭をぐりぐりと撫でた。そして最後は自ら情報を話す。


「最後は玄田武。八十八歳。健康体だがデイサービスを利用。死体発見は午前四時に新聞配達員。というか、配達員が呼んだ巡査か。ガレージにいい車が置いてあったから金には困ってないんだろうな。一つ目と二つ目の事件は殺害時刻がハッキリしてないからな。この玄田氏殺害を元にアリバイなんかは調べなきゃならんな」


 根本が二杯目のコーヒーを入れようと席を立った時、竹川が今度は彼女に質問をした。


「さっき言ってた該当の三人、情報はあるか?」


「はい。名前と年齢、それから職業くらいはわかります。あ、」


 コーヒーを入れながら答え、振り返ると先程まで自分が座っていた席に竹川が座っていた。更にコーヒーカップをこちらに差し出している所を見ると三杯目を要求しているのだろう。


「駄目ですよ、飲みすぎです。お茶にしましょう」


 そう言うと竹川のコーヒーカップを受け取り流し台に置き、紙コップに緑茶のパックを垂らして湯を入れる。


「ほうじ茶がいい」


「ありません。ご自分で買ってきてください」


「根本、俺もお茶いれてくれ」


 松田が根本にカップを差し出す。根本は溜め息をつきながら松田に手帳を渡す。


「では代わりに被疑者の情報を読み上げてください」


「う、わかった」


 そしてカップと手帳を交換し、松田は印が付いた人物の情報を読み上げた。


「まず一人目。寺田誠司てらだせいじ、二十八歲。職業は塾講師。病院を訪れたのは玄田氏の死体発見から五時間後の午前十時前後。階段から落ちたと言って来院しています」


「次」


「二人目、星野徹ほしのとおる。年齢三十一歳、職業は個人農家。来院時刻は午前八時頃。こちらは仕事中の不注意で足をくじいたと」


「次」


「三人目は弁護士、榊原隆之さかきばらたかゆき。榊原弁護士事務所の代表弁護士で、年齢は四十五歲。来院時刻は午前八時頃で、転んで足をくじいたと。三人とも来院した病院はバラバラです」


 そこまで一気に聞くと竹川は根本に入れてもらったお茶を啜った。根本は壁にもたれ掛かり腕を組んでいる。


 少し無言になった所で根本が皆に話しかけた。


「第一印象で怪しいと思うやつを言い合いましょうか」


 田中がのってきた。


「いいですねそれ!」


「何がいいんだ」とすかさず松田が注意する。


 竹川はまだボーッとお茶を飲んでいる。話を聞いているのか聞いていないのか。

 松田の注意を無視した根本が話を続けた。


「田中さんは誰が怪しいと思いますか?」


「そうですねー。僕は寺田誠司、塾講師ですかね」


「その心は?」


「感です」


 根本は次に松田に聞いた。


「松田さんはどう思いますか?」


「根本、不謹慎だぞ」


「全く無駄にはならないはずです。これも必要な話し合いかと」


 そんな分けないだろと思いながらも松田は答えてやった。


「弁護士の榊原。弁護士にはいい思い出がないので」


 一年ほど前に松田はあるヤマで弁護士相手に苦労したことがあった。それをいまだに根に持っているのだろう。


「竹川さんはどう思いますか?」


 根本に問われた竹川はすぐに答えた。


「じゃあ、星野」


「真剣に考えてくださいよ」


 根本がそういうと竹川は鼻で笑った。


「この質問自体が真剣じゃねぇだろうが。ほら、そろそろ行くぞ」


 そう言うと竹川は紙コップをゴミ箱に投げ入れた。



「それぞれに連絡してくれ。聴取だ。事件の内容はまだ言うなよ」


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