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確信犯  作者: 杉恵 幾
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第二章

誰が待っているわけでもありませんが、遅くなりました。ふわっとしたキャラ設定がなんとなく固まってきた今日このごろ。

文を書くのは難しいですね。

 周囲には扉を開ける前から独特の匂いが漂っていた。

 所轄の刑事、鈴井は説明する。


「これでも換気はしたんですけどね。二週間も経っていたのでまだ臭います。さぁ、好きなように見てください」








 扉を開けると露骨に臭いがキツくなる。マスクを持ってこなかった事を少しだけ後悔した。


 そこは一般的な作りの寝室だった。広さは十二畳程だろうか。扉の正面にベッドがあり、右の壁には窓がある。左にはタンスと鏡台が並んでいた。どの調度品も質が良さそうだがそんな事はどうでもよかった。



「これは・・・」



 根本が声を漏らす。

 一見しただけで、なかなかの値段がするであろう事が分かるベッドの、一部が赤黒く染まっていた。二週間も経っているので湿り気は全くなく乾いている。


 しかし、根本が思わず声を漏らしたのは、ベッドの血痕を見てのことではなかった。



「あれは、なんだ?」



 入って正面の壁、ベットヘッドの真上に絵が描かれている。赤黒い線で。



「四つ葉のクローバー・・・」


 壁には一筆描きで描けるような簡単な四葉のクローバーの絵が描かれていた。


 鈴井が根本の呟きに答える。


「ええ、四つ葉のクローバーです。そして、もうお聞きかもしれませんが埼玉でこれとよく似た現場が昨日発見されました」


 根本は絵を見たまま質問した。


「埼玉の事件とは緑区の高齢男性が殺害されたものですか?」


「その通りです。やはりご存じでしたか。殺害場所は寝室で、争った形跡はなし。ベッドには血痕と壁にクローバーの絵が」


 竹川に目を向けると彼も絵を睨んでいた。


「ただ、この絵が少し違和感がありまして。なんだか変ですよね。バランスかな?」


 鈴井は顎に手をやり首を九十度傾けて絵を見る。しかし、その疑問は竹川がすぐに解決した。



「根っこでしょう」



 そう、この四葉のクローバーにはひょろっとした根の様なものが描かれていたのだ。



「ああ!それだ!先っぽのにょろにょろしたのは根なのか!」



 少し抜けている所轄の刑事を無視して竹川と根本は現場を見ることにした。


 


 見るからに高そうな調度品達が無事なので、物取りの犯行ではなさそうだ。しばらく周りを確認したが特に気になるものは見当たらない。ベッドは激しく乱れてはおらず、恐らく寝込みを襲われたのだろうという事がわかる。ベッドの血痕は様々な方向に細かく飛び散っていて、そこから誘導されるように絵に目を移した。何で描いたのかは分からないが、指の跡のようなもの見つけられなかった。



「竹川さん、ここ」



 根本が絵の一点を指差す。丁度、茎と根の境目のあたりだ。


「ああ。線は一本だが、ここで一度止まってるな」


「根を描き足したのでしょうか」


 二人してこれでもかと言うほど壁に顔を近づける。傍から見ればかなり滑稽な姿だろう。


「そうだな。初めに一般的なクローバーの絵を描いた後で、何を思ったのか根を描き足している」


「これには意味がありますよね」


「あるな。ただの蛇足ってわけじゃない。描いた後で、これだけでは足りないと思ったんだ」


「・・・一般的には描かない根が、足りなかったと思う心理は何だったのでしょうか」


 竹川が壁から顔を離し、伸びをする。


「わからん」


 そのまま体をくるっと回し扉の前で二人の行動を興味深そうに見ていた鈴井に声を掛けた。


「他に埼玉の現場との共通点はありましたか?」


 彼は手帳を取り出し、何枚かペラペラと捲って目当てのページを探す。しばらくして見つかったのか腕を目一杯伸ばし、顔から手帳を離して読み上げた。


「えーっと・・・、最近老眼が来ましてね。あ、ありました。被害者の左右の手の中指が切り落としてあったそうです。殺害に使った凶器とは別に刃物のようなものを使ったと思われています。それと、凶器は今回の現場と埼玉、同じものが使われた可能性が高いですね。金属製の棒の様なものです。特定は出来ていませんが両手で振り下ろすくらいのサイズ感のものかと」


 不可解なワードが飛び出したので、思わず根本は聞き返した。


「中指?」


「ええ。両手とも中指の付け根からズバッと。恐らくその絵は切り落とした指で描いたものではないかと鑑識が言っていました」


 竹川は顎に手をやり何やら考えている。


「切られた指はどこにありましたか?」


「床に転がってましたよ。両方とも」


 根本が竹川を見ると、彼はまだ何やら考えていたが気にせずに話しかけた。


「私なら、絵を描くのに切りにくい中指を切るのではなく、切りやすい人差し指を切ります。もちろん、一本だけ」


「俺でもそうするな。もっと言えば、指なんて切らずに殺害する際に飛び散った被害者の血を使って描くさ。わざわざ指を切ってそれをペンの代わりに使おうだなんて思いつきもしない。まぁ、ペンとして使うなら中指が長くて使いやすそうだがな」


 竹川が自分の手を握ったり開いたりしながら言うと、根本はそんな事は聞いていないと彼を睨んだ。


「それで、お前はどう思った?」


「指が無造作に床に転がっていたということは切った指に意味があるのではなく、中指を切るという行為そのものに意味があったのではないかと」


「恐らくそうだろうな」


「意味は分かりますか?」


 竹川はその質問には答えずに鈴井に話しかけた。


「被害者の写真はありますか?」


「いやー、流石に持ってませんよ」


「そうですよね」


 ため息をついて根本のいる方を向く。


「松田に連絡しろ。遺体の状態が見たい。PCに写真を送るように言ってくれ」


「自分で言ってくださいよ。私は松田さんより後輩なので彼に指示は出来ません」


 顔しかめた竹川は「俺、あいつ苦手なんだよな」といいながら携帯を取り出した。


「私だって苦手ですよ。田中さんじゃ駄目なんですか?」


「田中は優しいが仕事は遅い」



 竹川は大きなため息をついてから携帯を耳に当てた。













「根本、埼玉行くぞ」


 車に戻ってそう言われた根本は思わず竹川の顔を睨み、早口でまくしたてる。


「今からですか?嫌です。私が運転するんですよ?もう合同捜査本部が立ち上がってるかもしれません。そうすれば捜査資料は手に入るんですからやめましょう」


「合田さんからはまだ連絡が来ないから先に行く。時間がない」


 どうして時間がないのか分からなかったが、わざと大きく息を吐きエンジンをかけた。





 埼玉との合同捜査本部が立ち上がったという知らせが入ったのは、現場につく15分前だった。



















「もう少し待っていればここまで来なくてよかったのに」


「そんなに怒るなよ。ほら、さっさと行くぞ」



 現場は世田谷と同じで閑静な住宅街だった。しかし、外観は先程と違いさほど裕福な印象は受けない。


「所轄はもう引き上げてるらしいが、玄関前に警備がいるから挨拶しとけ」


 自分でしろよと思いながらも根本は頷いた。









「警視庁から参りました、竹川と根本です。話は通っていますか?」


 警備の彼は敬礼をして答えてくれる。


「はい、伺っております。案内などは出来ませんがよろしいですか?」


 そう聞くと、竹川はビシッと音がしそうなくらいの敬礼をして返事をした。


「構いません。雨の中ご苦労様です。ご迷惑をお掛けします」


 竹川の敬礼を見た彼は、もともと伸ばしていた背筋をさらに伸ばし慌てて敬礼を返した。




 竹川は初めて来る地域の場合、普段の彼からは想像できないほど低姿勢になる。初めて見た時はかなり驚いたが、どうやらこれは彼なりのルールらしい。例外的に個人で捜査をしているので、この方が周りの対応がいいようだ。ただ、彼が個人で捜査をするのは係長や管理官の指示なので竹川自身が進んでしていることではないのを根本は知っていた。以前、尋ねてみたところ「やりやすいから別にいいけど」と言っていたので単独捜査に関して本人はあまり気にしていないようだった。根本が竹川と組んで捜査をするようになったのは二年ほど前からなので、何故このような形で捜査をするようになったのかは知らないが、聞いた話によると根本と組む前は本当に一人で捜査していたらしい。それは、異例中の異例。有り得ない事だった。









 二人は、植木鉢や盆栽に囲まれた玄関に着くと傘をたたみ中に入った。竹川はまるで間取りを知っているかのようにずんずんと廊下を進んで行く。そして廊下の突き当たり、右側の引戸を開けた。何故迷わずにその部屋を当てられたのかは分からないが時間の無駄なので聞かなかった。


 そこは和室で、窓際にはリクライニングベッドが置いてあった。やはり部屋には争った形跡はなく、そして壁には四葉のクローバーが描かれていた。



「根本、ここ見ろ」


 竹川がクローバーの絵を指差す。差すのは丁度、茎と根の境目のあたり。


「一筆描きだ」


「こちらが二番目の犯行ということですね」


「世田谷が死後二週間でこっちが一週間なんだからそりゃ当たり前だ」


 竹川は舌打ちをしてから簡単に室内を見てまわった。しばらくすると大きな溜息を吐いた。


「根本、松田からデータきたか?」


「PCは車の中です」


「じゃあ車行くぞ」


「いえ、私取ってきます。竹川さんは部屋を見ていてください」


 そう言うと彼は少し唸ってあさっての方向を見ながら言いにくそうに答えた。


「あー、結構見たし、もうここはいいや。東京に戻ろう」


 根本は思わず近くの壁を蹴り、竹川は肩をビクつかせた。


「失礼しました。折角時間を掛けてきたのに、余りにも滞在時間が短かったものでつい」


「怖いなー。そんなに怒るなよ。ごめんごめん。飯奢るから」


「ならさっさと行きましょう。時間の無駄です」














 車中では竹川が送られてきたデータを確認していた。


「データと一緒に俺の悪口がきた」


「なんてきたんですか?」


「写真が見たいならちゃんと捜査本部に来いって。来れば写真でも遺体でも見せてやるってよ。あと、いいご身分だって書いてある」


「まったくその通りですね」


 ハンドルを握りながら笑いをこぼす。


「遺体が見られるのはいい特権だがあそこには行きたくないな」


「煙草臭いからですか?」


「臭えんだよあいつら」


「皆さん吸ってないとやってられないって仰ってましたよ」


「やってらんねえのは自分の頭が足りねえからだよ。ほら、見ろよ。被害者の写真だ」


「運転中です」


「あー、じゃあそこのファミレス入って」


「戻らないんですか?」


 竹川はPCを閉じながら窓の外を見る。


「時間はないんだがな。もう遅い」







 根本は彼の呟きの意味が分からなかった。





















 トイレの前の席をとってもらい、二人だけの捜査会議が始まった。


「世田谷の現場、もう少ししっかり見ておけば良かったな」


 注文を終えた根本がメニューを片付け、PCをセットする。


「また戻りますか?」


 竹川は壁に貼ってあるスイーツのポップを見ていた。


「パフェは頼みました」


「さすがだ。あと、世田谷はいいや。田中に聞こう」


「写真は何枚か撮っておきました。世田谷も埼玉も」


「お前は本当に仕事が出来るな。俺の相棒が田中じゃなくて良かったよ」


 根本は少し笑いながらPCの画面を竹川の方向に向けた。


「田中さんには何を聞くんですか?」


「埼玉の遺体の写真が欲しい。後は世田谷と埼玉の被害者の関係性」


「急ぎですか?」


「いや、大体想像はつくからさほど急ぎはしない」


「了解しました」



 そう言うと根本は早速、田中に連絡を入れる。その間竹川は紙ナプキンで蝶々を折っていた。折角撮ったのだから写真を見ろ、と根本は内心舌打ちをした。











「それで、遺体の写真がどうのこうのと仰ってましたよね」


 竹川は思い出したように、「そうだった」と言ってから二人が見える位置にPCを置いた。


「これ、世田谷の遺体の写真だ。腐敗が酷ぇがなんとなく分かるだろ。頭しか殴られてないし、滅茶苦茶に殴ったわけじゃなさそうだ。殺った後は恐らく殴ってない」


「恨みによる犯行ではないということですか?」


「執拗に殴ってるわけじゃないからな」


 竹川は先程作った紙ナプキンの蝶をグシャッと握りつぶした。


「世田谷と埼玉、被害者に面識はあると思いますか?」


「それが分かんねえから田中に聞いたんだろ」


「刑事の感的には?」


 彼は唸りながら背もたれにもたれかかり、腕を組んだ。


「恐らく、面識はないし共通点も少ないはずだ」



 感だと言う割にはかなり自信のある口調だった。



「なぜそう思われるんですか?」



 その時、テーブルに焼き魚定食が二つ運ばれてきたので根本は急いでPCを閉じた。



「焼き魚か」


「それで、なぜそう思われるんですか?って」



 二人して焼き魚定食を食べ始める。



「だから感だよ。お前がそう言ったんだろ」


「絶対確信してますよね」


「してねーよ。さっさと食え」


 根本は味噌汁を飲んだ。


「わざわざ痕跡の残りやすいメッセージを残した事。これに意味があるのはもちろんです。そして、二つの現場で全く同じメッセージが残っていたということは、その被害者達に対して共通の思いや恨みがなければ成立しない気がします。しかし、殺害方法は残忍な手口ではありましたが強い恨みは感じない。ということは、被害者に対してのメッセージではないという可能性も出てきます。もしそうならば、被害者同士に接点はないかもしれない」


「わかってんなら聞くなよ。お前ちょっと性格悪いよな」


「先に竹川さんの意見を聞こうと思ったんです」


「まぁ、それも被害者同士に接点があったら成り立たない仮説だ」


「面識はなかったとしても共通点はあるはずですよね」


「今わかってる共通点は年配で一人暮らしってことだけだな」



 そこからは暫く二人共無言で箸を進めた。








 竹川がパフェを食べ終わった頃に根本が話しかけた。


「この後はどうされますか?」


「そうだな、被害者二人の共通点を探したい」


「接点ではなく共通点ですか?」


「ああ。二人に面識はなかったと仮定して動く」



 根本は少し違和感を感じた。竹川は見た目には分からないが確実に焦っている。彼は余程のことが無い限り不確かな情報だけでは動くことがないからだ。



「・・・先程から何度か時間がないと仰ってましたよね。私にはよく分かりませんでした。どういう意味ですか?」


 竹川は空っぽのパフェの器を見つめながら答えた。




「この雨、いつまで続くと思う?」




 質問をしたのにまた質問で返され、少しムッとしたが根本は窓の外を見ながら素直に答えた。


「ラジオでは明日の昼前には止むと言っていましたが」



 竹川はまた質問をする。



「最初の事件と二回目の事件、期間はどれくらい空いてる?そして、二回目の事件から今日でおおよそ何日経ってる?」





 そこで根本ははっとした。

 竹川はそのまま話続ける。



「そうだよ。世田谷が二週間前、埼玉が一週間前。そして今日は埼玉の事件からおおよそ一週間。今日の雨は明日の昼前まで降るそうだ」



 スプーンでパフェの器の底をコンコンと打つ。




「恐らくこの事件はまだ続く」



 スプーンのぶつかる音がやけに大きく響いた。



「雨の日は足跡なんかが消えやすくていいよな」







 つまり彼は、この雨が止むまでに次の犯行が起こると言っているのだ。






 根本は思わず机を叩いていた。


「なぜ上に報告しないんですか!!まだ・・・、まだ間に合うじゃないですか!!」


「間に合わねえんだよ」


 呟く竹川の声は酷く情けない声だった。


「一週間も二週間も遺体が放置されてたってことは犯人の目撃者なんてのは今後期待出来ない。更に、被害者同士の共通点がわかってない今、次のターゲットを予測する事も不可能だ」


 いつの間にかパフェの器を打つ手は止まっていた。


「世田谷と埼玉、二つの現場のメッセージはほぼほぼ同じだった。違いがあればなにか推測出来るかもしれんと思ったが、空振りだ。後は、事件が起きないように祈るしかない」



 彼が言うことはもっともだった。しかし、根本は彼の様に落ち着くことは出来なかった。


「主任に報告します」


「ああ、頼むよ」


 竹川はスプーンを置くと窓の方を向いてしまう。外はやはり雨が降っていた。



 根本は電話をかける為に席を立ち、トイレの方向へと歩き出しす。ふと背中から、竹川の呟く声が聞こえてきた。












「煙草が吸いてえな」


 彼女は聞こえなかったふりをした。

場面がころころ変わったりして読みずらかったかと思います。いやー、難しい。物語を書く練習だと思って気長に頑張ります。

お粗末さまでした。

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