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確信犯  作者: 杉恵 幾
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第一章

 本編開始です。読みにくいです。

 電話が鳴っている。覚醒しかけた耳が次に拾った音はザーという水の音だった。


「・・・・・雨」


 根本由紀ねもとゆきはベッドから起き上がるとスマートフォンに手を伸ばした。画面には、『竹川』と表示されている。


「はい、根本です」

「竹川だ。休みなのにすまないな」


 刑事とは思えない甘い声が聞こえてきた。しかし、この声がここぞという時には恐ろしく迫力のあるものに変わることを根本は知っているので、その甘さに惑わされたりなどはしない。

 話しながらも着替えを始める。


「いえ、問題ありません。事件ですか?」


 電話の向こうでは扉が閉じる音と、ガチャンと鍵を締める音が聞こえた。竹川はもう家を出たらしい。


「俺も詳しい内容は分からないんだが事件であることには間違いないな。合田さんからさっき連絡がきた。すぐに来いと言われたが行けるか?」


 今日は燃えるゴミの日で昨日の夜にまとめておいたものを今朝出そうと思っていたが諦めた。ゴミ捨て場は出勤路の反対にあるからだ。


「了解しました。三十分程で着くかと思います」


 根本がそう答えると電話越しに竹川の小さな笑い声が聞こえた。


「女が起きてから他人に会うまでの時間にしちゃ短すぎねーか?もう少しゆっくりでもいいぞ」


 竹川が何を言っているのかよく分からなかったが、しばらくして自分がからかわれているのだと分かった根本は少しだけ声を大きくした。


「刑事には必要の無い時間です」




 竹川との電話を終えると根本は素早く身支度を整えた。化粧はほとんどしないが、朝食だけはしっかりと食べようとポットで湯を沸かす。パンを齧りながら今日の朝刊に目を通した。時間が無いので一面と社会面のみだが。ふと、社会面の小さな記事が気になった。


『さいたま市緑区で変死体』


 他県の殺人事件なんてものはこのくらいの小さな記事になってしまうのだが、今日は何故か気になった。

 内容を要約すると、閑静な住宅街で一人暮らしの男性が殺されたというものだった。被害者の年齢は八十七歳。死因は頭部強打による脳内出血。犯行には鈍器のような物が使われた可能性があるそうだが現場から凶器は発見されていない。死後一週間程経ったところを定期的に訪れるヘルパーが発見。なんとも酷いニュースだがこの様な事件が後を絶たないのが今の世の中だ。

 根本は眉間にシワを寄せながら喉の奥につかえたものを流し込む様に、ブラックコーヒーを一気に飲んだ。


 家を出ようと思ったら車のキーがなくもたついたが、三十分後という約束には間に合いそうだ。鞄とスマートフォン、財布を掴んで玄関を出る。扉を閉める直前に、根本は誰もいない部屋にむかって「行ってきます」と言った。








 出勤すると辺りはいつもよりかなり慌ただしかった。何が起こっているのかと見渡せば合田主任のデスクのそばに竹川の姿が見えた。


 竹川隼人たけかわはやと。甘い声だけでなくかなり整った顔立ちをしているが、クタクタのスーツと無造作な髪のせいで第一印象はあまり良くはない。しかし、かなりの切れ者で主任や係長、果ては管理官まで竹川を一目置いている。年齢は三十六歳。独身だ。本人曰く、結婚するメリットがわからないそうだ。


「遅くなりました」


 根本が声をかけると竹川と合田が同時に顔を上げた。


「いや、遅くはない。本当に三十分で来たな」

「根本君、悪いね。今日非番だったでしょ?でもね、たぶん暫く帰れないかも」


 竹川、合田がそれぞれ声をかけた。しかしその声も周りの喧騒に紛れてかろうじて聞き取れる程度だった。


「この騒ぎよう、只事ではありませんね。何があったんですか?」


 根本の問いかけに合田は薄い頭に手を置いて答えた。


「あぁ、殺しだよ。これがまたえらい事で。捜査本部が立ちあがるから田中と松田はもうそっちに回してるんだけど、たぶん合同捜査本部になりそうなんだ」


 その言葉に根本は竹川を見る。竹川は頷いた。

「俺もさっきここまで聞いた。それで合田さん、内容は?」


 合田は頭を触っていた手を下ろし胸の前で腕を組んだ。


「場所は世田谷だ。ガイシャは八十九のお婆さん。旦那さんが二年前に他界してからは広いうちで一人暮らしだったそうだ。まぁ、後は現場の所轄に聞いてくれ。ホトケさんはもう引き上げちゃってるし、鑑識さんもいないと思うけどね。君たちはいつもみたいに好きにやっちゃっていいから」


「主任、合同になりそうだと仰ってましたよね。それは・・・」


 合田は、うんうんと頷きながら目を閉じて話す。


「昨日埼玉で遺体が発見されてね、そっちも殺しなんだけど、恐らくというか確実に同一犯っぽいんだって」


 根本が更に詳しく聞きだそうとすると合田は右の掌を根本の前にかざした。


「現場に行けばわかるから。所轄の人が首を長くして2人を待ってるから早く行ってあげて」


 それを聞くと竹川は、いくぞ、と言って合田に背を向けたので根本は合田に一礼して竹川を追いかける。

 部屋を出る直前に後ろから合田の声がした。


「あー、竹川君。埼玉見てみたかったら言ってねー。向こうには話しつけるから。捜査本部の内容は田中と松田に聞いて。合同捜査本部が立ち上がったら1回連絡入れるよ」


 竹川は振り向かずに片手をあげた。










 車に乗ってしばらくすると竹川が話し始めた。根本はハンドルを握りつつ話に集中する。


「嫌な予感がするな。長丁場になりそうだ」

「刑事の感ですか?」

「わからん」


 竹川は助手席の背もたれを倒し腕を組んだ。


「埼玉の事件ってなんだ?今日は朝刊も読んでないからさっぱりわからん」


 根本は朝刊という単語で今朝読んだ記事を思い出した。


「私、今日の朝刊読みました。確か、緑区でお爺さんの遺体が発見されたとか」

「お前朝刊読んできたのか?どんだけ余裕あったんだよ」


 竹川は口を開けて呆れた表情を作った。また、からかわれていると感じた根本は少しだけ急にブレーキを踏んだ。


「おいおい、運転荒いぞ」

 竹川は少し慌てながらシートベルトを確認している。


「それで?内容は?」

「はい。場所は緑区。年齢は八十七歳で一人暮らしだったそうです。定期的に訪れるヘルパーが第一発見者です」

「死後どれくらい経ってた?」

「一週間程度と書いてありました。小さな記事だったので詳しいことはあまり載っていませんでした。ですが、この事件が先程主任が仰っていた事件かどうかはわかりません。」


 竹川は車の天井を見つめながら、いや、と否定する。

「いや、恐らくその事件であってる」

「だとしたら何故世田谷と同一犯だと言うことになっているのでしょうか」


 竹川はその質問には答えずに目を閉じた。これは黙って運転しろという事だな、と思いその通りにした。











「待ってましたよ竹川さん、根本さん」


 現場に着くと見知った所轄の刑事が現場の門の前で出迎えてくれた。


「珍しく遅かったですね。ホトケさんも鑑識も引き上げちゃいましたよ」


 竹川と根本は白い手袋をはめながら現場の門を潜る。

「それは聞いてます。私も根本も今日は非番だったんです。急いで出てきたせいで彼女は化粧もしてません」

 その話は余計だと根本は肘で竹川を小突く。


「ははっ、根本さんはお美しいので化粧なんてしなくてもいいでしょう」

「よかったな」


 根本は、話がそれている気がしたので修正する。

「随分大きなお家ですね。ここで被害者は一人暮らしを?」


 所轄の刑事は思い出したように話し始めた。

「ええ、二年前に亡くなった旦那が貿易関係の仕事をしてたみたいでして、死んでからも苦労はしなかったみたいですよ。娘さんが結婚して出てったのはもう三十年くらい前、そっから旦那が死ぬまでは二人暮らしで、二年前に旦那が死んでからは一人暮らし、ってな具合です」


「娘さんは頻繁に来ていたんですか?」


「いいえ、二ヶ月に一回くらいのペースだそうで。そんでもってその二ヶ月に一回の訪問をしたのが今から九時間ほど前の深夜十二時前後。第一発見者は娘さんです」


「そりゃ気の毒にな。それにしても、娘はなぜそんな時間に訪問を?」


 竹川は玄関に手をかけながら問いかける。


「この近くで中学校の頃の同窓会があったそうで、元々ここに泊まるつもりだったそうです」


 ここで所轄の刑事が竹川と根本の前に出た。

「おっと、お二人さん。ちなみに事件の内容はどこまで聞いてらっしゃいますか?」


 竹川と根本は互いに顔を見やる。そして、お前が言えというふうに竹川に顎をで合図をされた根本が答える。


「実は予備知識がほとんどありません」


 横で竹川が肩をすくめる。そう言うと所轄の刑事は安堵したように息をついた。

「先に聞いといて良かったですよ」

「なぜですか?」

「今回の現場はなかなかショッキングですよ」


 根本は竹川を見る。彼は小さな笑みを浮かべていた。


「今更ですよ」


 今度は所轄の刑事が小さく笑う。

「それもそうですね。それじゃ行きますか。現場は奥の寝室です」

 ありがとうございました。もう少し書いてからあげようと思っていたんですが、小出しにすることにしました。お粗末さまでした。

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