二人の夜
朝、目が覚めると隣に蒼太さんがいた。
状況が飲み込めなくて混乱していたが、落ち着いてくると昨日のことを段々思い出してきた。
そういえば、あのあと
「このまま隣にいていいか?」
驚いて窓の外の桜から蒼太さんに視線を移す。
「臣下の目もあるし、一応夫婦ってことになってるからな。
それに、出来るだけ隣にいたい。」
小さい声でついでのように呟かれた言葉を本音だと取ったら図々しい女だろうか。
紅潮した頬を隠すように俯いている蒼太さんが可愛く思えて少し笑う。
「私は構いませんよ」
蝋燭の灯りを吹き消して、並べた布団にそれぞれ入る。
横からすぐに寝息が聞こえてきた。
人の隣で寝るのは何年ぶりだろうか。
横に人の温もりがあるということがこれほどまでに安心するものなのかと考えているうちに眠りに落ちた。
昨晩の事を完全に思い出した頃、横で蒼太さんが寝返りをうった。
起こしてしまったか、と思い顔を覗きこんでみる。
そうして初めてこの人の顔をしっかり見た。
整った顔立ち、長いまつげ、薄い唇、
なにより私を守りたいといったその声が優しくて、
思い出すと胸が温かくなった。
そんなことを長々考えていたせいか、蒼太さんが目を覚ました。
がっつり覗きこんだまんまの私と目があって、一瞬時が止まる。
「お、おはよう、ございます」
ゆっくりと視線を蒼太さんから反らす。
恥ずかしい、どうしよう。
思考停止して固まる私を置いて、またあとで、と蒼太さんは立ち去ってしまった。
その後しばらくの間、蒼太さんに目を向けられなかったのは余談である。