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陽射しの中で

「陽愛…、今からならまだ間に合うから私達と逃げましょう」

汐里と夏海さんの懸命な説得にも頷くわけにはいかない。

ただ笑ってなだめるしか。

「陽太ごめんね、大きくなって必ず幸せになって…」

その手を握ると視界に入ったのは蒼太から贈られた私達を繋ぐあの飾り。

私の首元にも光を受けて反射するそれをそっと外す。

「私はあなたにもうなにもしてあげられない」

陽太のそれにもう1つ、私のそれを繋げる。

「お父様に必ず渡してね」

眠る陽太のその顔を瞳に焼き付ける。

「汐里、夏海さん…どうか陽太をお願いします」

深々と、頭を下げて涙が溢れそうな瞳を隠す。

ずっと皆と…蒼太と一緒に、陽太の成長を見守りたかった。

どんな大人になるのか見ていたかった。

大きくなったこの子とどこかに家族で出掛けたかった。

ごめんね、こんな母親で。

それでも私は今貴方を守るためにこうするしかない。

「城に戻ったら、私の部屋の…中央の畳を持ち上げて」

そう言いながら門へと歩き出す。

「暗くなる前に、無事向こうに着くことを願ってるわ」

渚と香織に頷きかける。

決して泣かないと決めてきたのだ。

最後に見せる姿くらいは凛としていたい。

みんなの記憶に残るのは強い私でありたい。

「今までありがとう…。

幸せになって、必ずよ」

汐里と夏海さんを軽く抱き締め、陽太の頬を撫でる。

「元気でね…ずっと、心はあなたの傍に…」

寝ていたはずの陽太が目を覚ました。

その瞳が私を捉えて離さない。

そっと抱き締めてから、夏海さんに託した。

「さぁ、早く行って」

汐里の背中を押すと、渋々歩み出した。

何度も振り返る汐里を笑って送り出す。

これは私が決めたこと、悔いのないように終わりにする。

さぁ、私も準備に取りかかろう。

花は散るからこそ美しいのだ。


眩しいほどの陽射しの中で、桜の花は風に吹かれて散りだしていた。

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