桜のはな
この城で迎える2度目の夜。
窓の外で風に揺られる桜を見ながら一人、物思いに耽っていると静かに襖が開いた。
「失礼する」
静かに入ってきた蒼太さんは静かに横に座った。
「別に、夜這いに来た訳じゃない」
少し顔を紅くして目をそらした蒼太さんを凝視してしまった。
「私は、あなたの嫁としてここに来ました。
それにもう私は春宮の駒です。あなたは私を好きにする権利があります。逆らうつもりはありません」
まだなんとなく蒼太様と名前で呼ぶのは躊躇われてしまう。
本心を打ち明けたつもりだったがなんだか気を悪くしたらしい。
黙ってしまった蒼太さんを覗きこんでみる。
「あの、どうかされました?」
キッと睨まれて少し驚く。
「お前のそれ、やめろ。」
それ?どれだろう。
わからずに今度はこっちが黙ってしまう。
「その駒っていうやつ」
本当のことなのに、と思ったのを見透かされたらしい。
また睨まれてしまう。
「俺も、親父もお前のことをそんな風に思ってないし、
お前にもそんな風に思われたくない。
春宮の家に嫁いだからにはお前は自由にお前らしく生きろ。
誰も咎めたりしないから、わかったな?」
まくし立てるように言われて、面食らってしまう。
「それでは、春宮家の利益になりません」
こんな風に言われた事がなくて、反応に困ってしまう。
「私は、自分がどうなったとしても、この家にいたいんです。
春宮の人間として生きていきたい」
たとえ、自分を殺さなくてはならないのだとしても。
「陽愛、俺はお前を大事にしたい」
急に声が優しくなって、俯きかけていた顔を上げる。
「ここはもう、お前の家だ。俺の嫁である前にお前はお前だ。
お前はお前のしたいようにしてくれたらいい。」
照れたように窓の外を見ながら蒼太さんは手を差し出してきた。
「ちゃんとお互い好きになるまで婚礼の儀はしない。
俺は陽愛を守らせてくれるなら、なんでもいいんだ」
ゆっくりと差し出された手を取る。
「春宮陽愛として、俺のそばにいてくれるか」
初めてこんな風に言われたことに頭がついていかない。
でも、この手が温かくて、瞳が優しくて。
涙が出そうになる。
「はい」
開いた窓から桜の花がひらり、舞い込んできた。