雪融け
「蒼太、明日時間はある?」
夜、陽太は横で眠っている。
月明かりに白い肌が反射している。
「…二人で出掛けたいの」
私の妊娠がわかって出産してからは1度も二人で出掛けていない。
それに…暫く一緒にいられないかもしれない。
「そうだな、陽太は夏海達に任せて出掛けようか」
蒼太が少し眉尻を下げて笑う。
私の意図を汲んでくれたのだろう。
優しく私の手を取って汐里に声をかける。
「汐里、いるだろう」
少し襖が開いて汐里がそっと顔を出す。
「何でしょう」
いつもの笑顔とは裏腹に真剣な顔の汐里は私を見つめる。
「明日、1日二人で出掛ける。陽太を頼む」
蒼太がそう言うと少し表情を緩めた汐里は頷いた。
「油断なされないでくださいね」
どこに敵が潜んでいるかわからない。
霧崎家が動き出している。
その狙いが私であることは明確だった。
「ありがとう」
微笑んで返すと汐里はそっと襖に手を掛けて、もう一度念を押すように呟いた。
「必ず無事に帰ってくるのよ」
しんとした闇夜にその言葉は波紋のように響いた。
優しく握られたこの手を、私は離さない。
「明日の為にももう寝よう」
そっと私の頭を撫でて蒼太が横になった。
その手は私の手を握ったままだった。
私の不安を融かすように、その手は離されなかった。




