胸騒ぎ
「陽太は本当に陽愛が好きだなぁ」
祖父になった義父は表情を和らげて呟く。
その腕の中で私に向かって手を伸ばす陽太のおでこを優しく撫でる。
義父の腕に抱かれると小さな陽太は更に小さく見える。
「陽太は俺のことも好きだぞ」
対抗するように蒼太は言う。
拗ねたような様子は子どもみたいで可愛い。
家族の前だけで見せる蒼太の姿。
蒼太の頭を優しく撫でる。
「おい…俺まで子ども扱いするなよ」
照れたように私の手を掴んで握りこむ。
温かい、大きな手。
私を守ろうとしてくれている手。
この手を永遠に離したくない。
幸せになればなるほど、幸せを感じるほど何処かで警告されている気がする。
胸騒ぎが日に日に増していく。
ねぇ、私達はずっと一緒にいられるかな…。
「陽愛、話があるの」
そっと部屋に入ってきたのは汐里。
「どうしたの…?」
汐里に似合わない不安げな顔がまた、胸騒ぎを起こす。
「今日香織に報告を受けたことなんだけど…」
その様子を見て、良くないことだと身構える。
「霧崎家に不穏な動きがあったの。私達もできるだけ動向を監視するけど、やっぱり内部のことを完全に知ることは不可能だわ」
あぁ、やっぱり。
また来ると言ったあの言葉は嘘ではなかった。
あの男は必ず不幸を連れてくる。
私をまた地獄に落とそうとする。
「私達もできるだけあなたと蒼太と陽太を守るけれど、守れないこともあるわ。だから…」
「わかっているわ。私は自分で自分を守るから、汐里は陽太を守って…」
あの子は私の命より大事な子。
蒼太も陽太も私の命より大事な人。
もちろんそれは、春宮家の人達全員がそう。
「…陽愛、無理だけはしないでね」
そっと汐里が私を包む。
私にも姉がいたなら、汐里みたいだっただろうか。
こんな風に温かく包んでくれる優しい姉が…。
「そう言えば…妹…香織と話すようになったの?」
全く関わりのない生活をしていると言っていたが、今日の話は香織に報告を受けたと言った。
汐里は少し哀しげに笑って答える。
「本当に…業務連絡しかしてないわ。家族の会話はしてなくても、あの子が元気で無事で…良かったと思うけどね」
ポンポン、と背中を叩いて汐里は部屋を出ていった。
窓から雪の積もった庭が見える。
暗闇の中で雪の白だけがぼんやり、儚げに見えた。




