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満ちた月

葉が色付き、散っていった。

庭園の木々が葉を全て落としてしまうと、もう雪が舞いだす。

季節が過ぎるのが早くて少し焦る。

時間の流れに着いていけてない気がして。


「陽愛、落ち着いて」

臨月になってから立ち上がるのも困難になった。

陣痛の間隔が狭まっていく。

しっかり息が吸えなくて、汐里が背中を優しく擦ってくれている。

大きくなったお腹に手をあてる。

横になるとこの子が蹴ってくる。

「庭が見たいの」

ゆっくり汐里の手を借りながら立ち上がって窓辺に座る。

見下ろした庭には白い雪。

咲き誇っているのは真っ赤な椿。

鮮やかな色彩を見ているとお腹の子が大人しくなると最近気付いた。

「陣痛が来ているのよ、横になった方が…」

汐里は背中を擦りながら言う。

「まだ大丈夫よ」

そういったその瞬間だった。

息が、止まるかと思った。

視界が揺れて、汐里の腕に抱えられる。

遠ざかる意識をなんとか保って、ひたすら呼吸をする。

今、この子も頑張っている。

私も頑張らないと。

「全員退出してください」

助産師が叫ぶ声が部屋に響いて、汐里は名残惜しそうに、心配そうに部屋を出ていった。

痛い、意識が遠のく。

痛いなんてものじゃない。

それでもこの子に会いたい。

強く握りしめた布に全ての力を込めて。


泣き声が、聞こえて、意識は飛んだ。

白い美しい雪の降っているなかで、長男 春宮陽太はるみやはるたが誕生した。

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