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優しい腕

和仁が来てから気分が晴れない。

あの人も人を駒にして平気な人種だ。

あの人は駒として自分を殺して生きている時に私に出会った。

両親に従順に従う私が欲しかったのだろう。

でももう、私は駒じゃない。

また来ると言ったあの声が耳から離れない。

いつのまにか握りしめていた拳が痛む。

「陽愛、どうした?」

汐里から私の様子がおかしいと聞いたらしい蒼太がやって来た。

「何かあっ…」

蒼太の胸にとびつく。

怖かった。

あの人の声が、歪んだ笑顔が頭から離れない。

何かが起こりそうで、幸せが壊されてしまいそうで。

「…大丈夫だ」

なにも聞かずに蒼太は私の背を優しく撫でる。

「俺がいる」

温かい優しい腕、優しい声。

「ありがとう…」

蒼太の体をぎゅうっと抱き締めると、そっと、抱き締めてくれる。

「母親になるからって、無理に強くなろうとするな。一人で抱え込むな」

少し叱るような、拗ねたような、そんな声が耳元で響く。

一筋流れた涙は蒼太の肩に消えていった。

私には蒼太がいるから、汐里がいるから、義父がいるから。

私を見つけてくれた雪乃さん…おかあさんが、いるから。

私はもう駒じゃないから。

誰が相手でも闘える。

「蒼太がいるから、私は大丈夫」

笑顔で、立ち向かえる。

たとえ本当に幸せが壊れてしまうような事態になったとしても。


満開の桜は風に吹かれて少しずつ散っていく。

まるで命が散り行くかのように。


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