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こま

「陽愛、もう頭をあげろ。休めといったのは俺だ」

嫁に来て初日に爆睡したままという大失態のおかげで

顔があげられないままいると、頭をわしわし撫でられた。

「言っただろう、お前さんはもう娘だ。ここで好きに暮らせばいい」

義父はその強面に似合わない微笑を浮かべて私を見ていた。

「ありがとう、ございます」

「陽愛様、蒼太様がお呼びです」

汐里さんに連れられてしばらく歩いて行くと、 

凛とした後ろ姿が見えた。

「蒼太様、陽愛様です」

部屋の前に立っていたその人は、私を一目見て目をそらした。

「汐里、はずしてくれ。」

では、と汐里さんは姿を消した。

さて、二人になったものの蒼太さんが話し出す気配はない。

「あの、私、柴咲陽愛です。この家に嫁いだからには

春宮のためならなんでもします。」

沈黙がいたたまれなくなって自己紹介のようなものをしてみる。

「面白いな、ひ、お前」

クックッと笑い出した蒼太さんを訳のわからないまま見ていると

笑いをこらえるような声で理由が説明された。

「普通、嫁いだら実家の為に暗躍するもんだと思ってたが、

春宮の為に暗躍もいとわない、と?」

「もちろん、そうです。それに私はもう、

この家の娘だと言ってくれましたから。」

実家の為に暗躍するなんて、そんなことするわけない。

「私はもう、春宮のこまです。

好きにお使いくださって構いません」

すっと嫌だった柴咲の駒をやっとやめられたのだから。

あの家に戻ることでなければどんな命令だって

甘んじて受け止めて見せる。

「そうか」

特になにも言わず、蒼太さんは立ち去ってしまった。

結局、どうして呼び出されたのかわからないままに。

とりあえず今日も自由にしていいと言われたので城内をうろうろする。

特に興味を惹かれるものもなく、自室に戻る。

こんなに何もしないでいい時間があるなんて、今までなかった。

ずっと、柴咲の使い勝手のいい駒であるために自分を殺してきた。

両親にとって私は使い捨ての駒に同じ。

捨てたんならもう私に近づかないで。

窓の外を見ると、桜が散っていた。


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